Yahoo!ニュース

ここが「ふんばりどころ」と自らを鼓舞。錦織圭、心身の疲労を滲ませながらも3回戦へ:ローマ・マスターズ

内田暁フリーランスライター

ローマ・マスターズ2回戦

○錦織 5-7,6-2,6-3 V・トロイツキ

ローマ・マスターズでの最高成績は昨年のベスト8で、その前年はケガで出場できず。2012年も欠場しており、そもそも本選に出たこと事態が、過去2大会しかありません。その最大の理由は、このローマの前週にマドリード・マスターズがあり、実に過酷な2週連続大会になるため。特に最近の錦織はバルセロナとマドリードで好成績を残すため、試合数を多く重ねた末に、いつもローマに辿り着きます。今は、4月から始まる長いクレーコートシーズンの中盤~終盤戦であり、身心の疲労もピークに差し掛かる頃。しかも2週間後にフレンチオープンが控えていることを考慮すれば、無理できる時期でもありません。ローマは錦織にとり、鬼門と言える大会でしょう。

その試練が今回も、2回戦(1回戦はシード免除のため錦織にとっては初戦)の対トロイツキ戦で錦織を襲います。曇天続きだったマドリードから一転、太陽の光が容赦なく降り注ぐローマの赤土の上で、錦織の動きはやや鋭さを欠きました。トロイツキが、失う物のない強みで全力でサービスをコーナーに打ち込んできたのも、苦戦の要因だったでしょう。第1セットは並走状態から、最後は錦織のミスが重なり相手がブレーク。5-7で第1セットを落とし、さらにその直後にドクターを呼んで飲み薬をもらった時には、果たして試合を最後まで終えられるのかという不安が、客席を駆け廻りました。

しかし、体調面の不安から「早く決めようと思った」ことが、この日は逆に奏功します。コート内に踏みこみ、即座に左右に打ち分けウイナーを決める場面が目立ち始めました。特に、早いタイミングでダウンザラインに叩き込むバックが効果的。3本のウイナーを決めて第2ゲームをラブゲームでキープすると、次のゲームはリターンで押し込み、その返球をフォアで……あるいはバックで即座にオープンコートに打ち込み4連続ウイナー。瞬く間にブレークに成功した錦織が、第2セットは33分で奪い返しました。

第3セットに入ると、錦織のギアチェンジに圧力を覚えたか、ミスも目立ち始めるトロイツキ。その機を逃さず、錦織は2-2からの第5ゲームをブレークします。このゲームでも光ったのは、フォア/バックを問わず矢継ぎ早にダウンザラインを射抜く、錦織の展開力とストロークの威力。終わってみればフルセットを戦いながらも、2時間に満たぬ勝利でした。

試合後の会見で、気になる体調面について問われた錦織は、「ちょっと、たぶん先週の疲れもあって。まぁ色々と……大変な部分がありました」と苦笑するに留まり、詳細を語ることを好まず。

もっとも、「毎年そうなんですが、マドリードで成績がそれなりに良いので、ここでは最初の何試合かはタフな戦いになっていますし、今年も体調的にあんまり良くはないんですが……」

「バルセロナから始まっているので、家に帰って休養を挟まないと精神的にどうしても疲れも出てくるので」と心身の疲労を吐露する言葉に、理由は十分に含まれていたように思います。

ただそれはトップ選手の宿命でもあり、錦織が背を追う上位勢たちが乗り越えてきた試練。

「ここでふんばり2週連続で良い成績を残すことは、いつもそうだし、今年も課題です。なるべく良い成績を残してフレンチに入りたい」と、自らに渇を入れることも忘れませんでした。

さて、忘れる……というのはちょっと違いますが、最近の錦織はドローを見るのを好まず、直近まで次の対戦相手を知らないことが多い模様。それは今回も同様で、会見の席で次の相手がR・ガスケの可能性が高いことを聞かされると、「えっ、また?」(先週も3回戦で対戦)と、逆にこちらが驚くほどの驚き顔を浮かべました。そこから先のドロー展開を知ることについては「やめましょう」と記者を制しましたが、「より難しい試合が直ぐにやってくるけれど、自分のテニスはReadyになっているし、そんなに問題はない」と断言。

明日一日、ありがたい休養を挟み、「難しい試合」に備えます。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。連日、テニスの最新情報を掲載しています

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

内田暁の最近の記事