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サービス好調の陰に意外な理由あり? 錦織圭が快勝で4回戦へ:マイアミ・オープン

内田暁フリーランスライター

マイアミオープン3回戦 錦織圭 62 62 A・ドルゴポロフ

米国フロリダ州で開催中のマイアミ・オープン3回戦で、錦織圭はアレクサンダー・ドルゴポロフを6-2,6-2で退け4回戦へ。暑さと湿度、そして強風に襲われる難しいコンディションの中で、サービスの安定が鍵となった。

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入念にストレッチをする。

細かいステップを踏んで左右の動きを確認し、短いダッシュを繰り返すと、ラケットを持たずに素手のまま、フォアハンド、バックハンドのフォームを確認する――。

試合開始を控えた、センターコート脇の薄暗い通路……。ボールキッズたちも練習にいそしむその横で、錦織圭は淡々とアップをしていました。周りに人が居ようとも、これからコートに向かう彼の周囲の空気はピンと張り詰め、暑さも忘れるような静謐な空間。

最後に彼は、繰り返し繰り返し、サービスのフォームを入念にチェックすると、ロッカールームへと姿を消します。試合開始の、10分前のことでした。

「風が強く厳しいコンディションだったから、100%のプレーができると思わなかった。だから簡単なミスをしないことを心がけたし、今日はサービスが良かった。それが勝利の鍵だった」

試合後に開口一番、錦織は、強風の中でサービスを上手く制御できたことを、最大の勝因に挙げました。ファーストサービスの確率は試合を通じ66%。ポイント獲得率は73%、セカンドサービスでも60%の高確率でポイントにつなげます。とりわけ錦織が心を砕いたのが、風下時のサービスでした。

「風下では、セカンドはまず叩かれるのでスピンでファーストをしっかり入れたり、ボディを混ぜたり。風下の時は特にいろいろと工夫してやっていましたね」。

その風を扱う難しさに、試合直後の錦織は直面します。風下から始まった、自分のサービスゲーム。文字通り追い風を得てフラットで叩いてくるドルゴポロフの強打に押され、いきなりブレークを許しました。

しかし第1ゲーム後に場所を入れ変え迎えた第2ゲームでは、今度は錦織が風上の優位性を生かします。リターンでプレッシャーを掛け、相手に2本のダブルフォールトを強い、5度のデュースの末に奪ったブレーク。このゲーム機に錦織は、落ち着きと風への対処法もつかんだ様子。以降はサービスでもストロークでも相手のミスを誘い、暑さで互いに終盤は朦朧としながらも、1時間11分のスピード勝利を手にしました。

初戦では入りが悪くやや苦戦した原因となったサービスが、この日は快勝の鍵に。その改善について錦織が明かした理由は、あまりに意外なものでした。

「今朝テレビで、昨晩のフェレールとプイユの試合見ていた時、あいつ(プイユ)のサーブいいな……と思って良いイメージができていたので、そのお陰かもしれません」。

試合直前に見たことが直ぐに生かされるのか!?……と驚かされますが、そういえば錦織は以前にも、試合前にジョコビッチが芝の上を巧みに滑る様子を見て、その良いイメージをコート上で再現したと言っていたことがありました。

今日の試合前の、薄暗い通路で、自分と対話するように繰り返していたサービスフォームの確認……あれはもしかしたら、テレビで見た良いイメージを、自分の身体に焼き付ける作業だったのかもしれません。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。連日テニスの最新情報を掲載しています。雑誌は毎月21日発売

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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