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ターニングポイントを奪い対戦相手を“ノックアウト”! 錦織圭が貫録勝利で3回戦へ:マイアミ・オープン

内田暁フリーランスライター

錦織圭 62 76(4) P-H・エルベール

米国フロリダ州で開催中のマイアミ・オープン2回戦で、初戦をシード免除された錦織圭が、サーブ&ボレーヤーのピエール-ウグ・エルベールと対戦。相手の高速サーブに苦しみながらも、試合の流れを決する1ポイントをつかみ勝利を手にした。

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コートの外から観客たちが見る景色と、コート上で戦う2人の選手が互いに見るもの感じることには、当然ながら、大きな差異があるでしょう。

試合序盤は対戦相手のエルベールのミスもあり、錦織が簡単に奪った第1セット。しかしこのセットの終盤から第2セットの序盤にかけて、相手は確実に調子を上げてきました。

もちろん錦織も、その変化を感得します。

「彼(エルベール)のサーブは良くなり、セカンドも速いのを打ったり、ボディだったりフォアを混ぜたり……1セット目よりもアグレッシブにプレーしてきたなという感じで。あのレベルで良いサービスとボレーされると、ブレークするのは難しいです」

エースを決めるたびに「アレッ!」と叫ぶエルベールはプレーにも気迫がみなぎり、対する錦織は、第3ゲームで2本のダブルフォールトを重ねてブレークを許します。その後も、錦織にブレークポイントが訪れることなくゲームカウント3-5となった時には、多くの傍観者は、ファイナルセット突入を予想したのではないでしょうか。

しかし、灼熱のコートに立つ錦織は、外野よりも余程冷静だったようです。

「ブレークされたゲームは、ほぼ自分が悪かったですね。フォアのミスだったり、ダブルフォールトの連チャンがあったので」

相手に強いられたのではなく、自分のミスで失ったゲーム。だからこそやるべきことに徹すれば、自分に分があると彼は確信していたようです。

「相手の動きが思ったほど良くなかったので、左右に振ろうと思っていた。リターンでも、しっかりプレッシャーを掛けられたと思います」

そして、相手もセットが掛かり緊張するであろう3-5の第9ゲームで、錦織はストロークでも相手をジリジリ追い詰めます。わけても大きかったのが、40-30のセットポイントの攻防。エルベールはスライスを打ち前に出る機会をうかがうも、錦織は深く左右にボールを散らして、相手をベースラインに押しとどめます。長い長いラリー交換の末に、ついに焦れたように前に出るエルベール。その時を待っていたかのように、狙い澄ましたロブで長身の相手の頭上を抜く錦織。エルベールは必死にボールを追って振り向きざまに打ち返しますが、力ない打球はネットに掛かりました。

「あの1ポイントで、僕はすっかりノックアウトされてしまった。あそこから先は、どうプレーすべきか思考を組み立てることができなくなってしまった……」

セットポイントの攻防が試合を決めたと、後にエルベールは振り返ります。錦織はこのゲームをブレークし追いつくと、「しっかりプレーできた」タイブレークの末に第2セットも奪い、ストレート勝利を手にしました。

このマイアミは、2年前がベスト4、昨年もベスト8に入るなど、錦織にとっては、マスターズの中でも最も相性の良い大会。本人も上位進出を目指し「気合いを入れて」望みたいと言っていましたが、まずは自然体で、シード選手らしい泰然自若の構えを見せつつ、3回戦に進みます。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。連日、テニスの最新情報を掲載しています。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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