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全豪OP2回戦:錦織圭、「恨み」の悪天候を“恵みの雨”に変えてスピード勝利

内田暁フリーランスライター
勝利直後、観客の声援にこたえる錦織

大会3日目のメルボルンは、朝から厚い雲が空を覆い、小雨もパラつくあいにくの天気。それでも観客や関係者たちの表情に余裕が見られるのは、一昨年末にマーガレットコート・アリーナにも設置され、昨年から稼働を始めた屋根ゆえでしょう。全豪オープンが「世界最速」と胸を張る、5分で開閉可能な最新の設備です。

しかし、この頼もしい“雨の日の味方”の存在を、恨めしく思っていたのが他ならぬ錦織圭。

「朝起きて、雨が降っていた時は相当うらみました……」

と言うのも、この日の対戦相手のA・クライチェクとは約1年前のメンフィス大会のインドアコートで対戦し、その時は相手の軽快に攻める早いリズムと、高速サービスに苦しめられたため。対戦前にも「今回はアウトドアの遅めのコートなので、相手のアグレッシブなプレーを封じていきたい」と言っていた錦織にしてみれば、正にうらみの雨模様。コイントスの際にも、チェアアンパイアに「屋根が開いたりしない?」とたずねるほどでした。

そんな苦手意識がプレーに与える影響、そしてインドア特有のコンディションが気になる中で始まった一戦ですが、いきなりのラブゲームキープが、不吉な予感をたちまち吹き飛ばします。ワイドに鋭く切れるサービスで自身のゲームを手堅くキープし、リターンゲームではネットも果敢に取る錦織が、第4ゲームを早々にブレーク。以降もサービスは好調で、自分のゲームでは僅か2ポイントしか落とすことなく、第1セットを錦織が25分で奪い取りました。

第2セットに入っても、錦織の集中力は途切れません。「なるべく早くギアを上げて、最初から100%のプレーをしようと心がけている」との言葉通り、立ち上がりから鋭いリターンで機先を制し、相手を左右に振ってはウイナーを奪うパターンを連発。第1ゲームをアグレッシブにブレークし、第2セットも危なげなく奪うかに見えました。

雲行きが急にあやしくなったのは、5-4で迎えたサービスゲーム。「少し硬くなって足が動かなり、ミスが増えたりボールが浅くなったりした」と後に振り返る通り、突如としてストロークに伸びがなくなり、クライチェクの反撃を許します。3度のデュースの末に最後はダブルフォールトを犯して、今大会初めてのブレークを許しました。

それでもタイブレークでこのセットを取りきると、第3セットは再び試合序盤の勢いがよみがえります。相手の最初のサービスゲームをブレークし、続くゲームをラブゲームキープした所で、実質的な勝敗は決したでしょう。このセットも、サービスゲームで落としたポイントは僅かに4。終わってみれば、インドアの特性を生かして早い展開に持ち込んだ錦織が、1時間53分のスピード勝利。太陽に体力を削られることもなく、結果的には恵みの雨だったかもしれません。

屋根が開き、コートを横切るように光がさすマーガレットコートアリーナ
屋根が開き、コートを横切るように光がさすマーガレットコートアリーナ

試合終了と同時に大会自慢の屋根は素早く開き、コートに差し込む光の中で、オンコートインタビューに応じる錦織。

「素晴らしい試合だった。ここは日本をはじめアジア人のファンが多いので嬉しい。応援、ありがとうございます!」

その言葉に呼応し沸き上がる大声援と陽光を全身に浴びながら、大会第7シードは力強く、3回戦に歩みを進めます。

○錦織圭 63 76(5) 63 A・クライチェク

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。連日大会レポートを掲載しています

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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