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BNPパリバオープンレポート:苦手な環境にも急速に適応し、錦織圭3回戦へ

内田暁フリーランスライター

「今のところ良い結果が出ていないので、いつかは活躍したいという思いは常に持っています」

大会開幕前に、錦織は今大会への抱負をそのように口にしました。

錦織にとってインディアンウェルズ(BNPパリバオープン)は7年前、予選を勝ち上がり出場したキャリア初のマスターズ1000大会です。ところが、そんな始まりの歴史とは裏腹に、本戦での戦績は2勝6敗。冒頭の「いつか活躍したい」との言葉は、偽らざる本音でしょう。

この大会を苦手とする最大の理由は、サーフェスとボールの組み合わせ、そして砂漠特有の気候にもあるようです。

このコートでは、多くの選手が「ボールが良く飛ぶ」と口を揃えます。ところがサーフェスそのものは極めて遅く、ボールのバウンドはとても高い。そのコンビネーションが、トッププレーヤーたち……分けても錦織のように繊細なタッチを持つ選手を悩ませる要因でしょう。

その事実を物語るように、試合立ち上がりの錦織は、ゲームキープに苦しみます。サービスでなかなか主導権が握れず、ストロークも大きくラインを超えていく場面が目立ちました。

ただそれは、対戦相手のハリソンも同じ。第1セットは互いにダブルフォールトを重ね(錦織5、ハリソン4)ブレーク合戦となりました。そのようなシーソーゲームから、重要な局面ほどサービスの精度を上げた錦織が抜けだします。最後も時速194キロのサービスウイナーを決め、第1セットを6-4で奪いました。

続くセットも、第1セット同様に錦織のブレーク奪取でスタート。この1ゲームで、「精神的にリラックスできた」と錦織は振り返ります。試合開始からハリソンと50分ほど打ち合ったことで、急速に環境にも適応できた様子。浅いボールを叩いて前に出る作戦も奏功し、第2セットは一度も相手にブレークチャンスを許しません。「ほぼ完璧」と自画自賛の内容で、第2セットも6-4で手にしました。

かくしてそれなりに苦しんだ初戦でしたが、試合中や試合後の表情からも、どことなく余裕が感じられた錦織。今回はオフコートでも、米国有数のリゾート地であるインディアンウェルズで、リラックスした時間を過ごせていると言います。インディアンウェルズは日本人そのものは少ないものの、舌の肥えた裕福層が集う土地柄か、美味しい日本食レストランが多いことでも有名。

「美味しいレストランがあるし、ホテルも良いところに泊めてさせてもらえているので、すごリラックスして過ごせています」。

本当はゴルフができると一番いいのですが、まだそこまでの余裕はなくて――そう言い苦笑いを浮かべる第5シード。

ゆとりに適度な緊張感をブレンドしつつ、世界5位は苦手とした環境にも、着実に適応しつつあるようです。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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