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ATPツアーファイナル現地レポート:王者に平常心を失わせた錦織圭のポテンシャル

内田暁フリーランスライター

■第3セットの数ポイントが試合の行方を決する。しかしその瞬間まで、王者は自分を疑っていた■

1-6,6-3,0-6というスコアを通常、どう表現するかは難しいところでしょう。

フルセットまで行っているので、接戦…という見方もできるかもしれません。失った1-6,0-6に主眼を置けば、完敗と取ることもできるでしょう。しかし、今日の錦織対ジョコビッチの試合を見た多くの人は、きっとこう思ったはずです。

「数ポイントが反対側に入っていれば、試合結果も違うものだったのでは」と。

そのような見方をしていたのは、恐らくは勝者のジョコビッチも同じだったのではないでしょうか。この試合、ジョコビッチはコート上で何度か、彼らしくない苛立ちとシニカルな行為を見せました。

第2セットの第2ゲームをダブルフォールトで失った時、錦織贔屓の客席に向け拍手をして、反発のブーイングを浴びます。試合後のカメラへのサインでは、無造作に「・」を書いたのみ。

それらの行為の理由を彼は明確には言わず、「そうしたかっただけ。あれが僕の新しいサインだ」、「ファンは自分の好きな選手を応援する権利がある。それに影響を受けてしまった自分が悪い」とだけ説明しました。それらの発言の中で、彼が口にした最も素直な言葉が「第3セットの出だし、僕はラッキーだった。彼(錦織)は複数のブレークポイントを手にしていた。もし彼がブレークしていたら、試合の行方はわからなくなっていただろう」だったでしょう。

「彼は現在のツアーで、最も速く最も才能に満ちた選手の一人だ。だからどのサーフェスでも危険な選手なんだ。もし少しでも打つことをためらい始めたら、彼のカウンターの餌食になりプレッシャーをかけられてしまう」。

そのプレッシャーと圧迫感が、王者に平常心を失わせていた……そう考えるのは、それほど身贔屓ではないでしょう。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。

今大会のより詳しいリポートは、今月21日発売の『スマッシュ1月号』に掲載します!

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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