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「国有地の値段は明かせない」と国が言ったから 2月8日は森友記念日~森友事件は森友学園の事件ではない

校舎が立つこの国有地が森友事件の発端だった(撮影・相澤冬樹)

 きょう2月8日は森友記念日。森友事件が発覚した日です。でも森友事件って何でしょう? 森友学園の事件、籠池元理事長夫妻の詐欺事件のことだと思っていませんか? 違いますよ。森友事件は国と大阪府の事件です。

大阪地裁の前に立つ籠池夫妻(撮影・相澤冬樹)
大阪地裁の前に立つ籠池夫妻(撮影・相澤冬樹)

森友学園に売った国有地だけ値段を明かさず 名誉校長は安倍昭恵首相夫人

 3年前のきょう(2月8日)、大阪府豊中市の木村真市議が国を相手に情報公開を求め裁判を起こしました。「国(財務省近畿財務局)が森友学園に売った豊中市内の国有地だけ値段が情報開示されない。よそに売却された他の国有地はすべて公開されているのに」…まことにもっともな主張ですが、これだけならローカルニュース止まりでしょう。ところが話は続きます。「この土地に建つ小学校の名誉校長は安倍昭恵首相夫人です」…えっ!となるではありませんか。

豊中市の木村真市議は当初から森友事件を追及している(提供・木村市議)
豊中市の木村真市議は当初から森友事件を追及している(提供・木村市議)

 NHKの記者だった私は当然記事を書きましたが、安倍昭恵首相夫人の名前は原稿の冒頭から削られ、ニュース自体関西ローカル止まりで全国放送はされませんでした忖度報道です。その経緯は私の著書「安倍官邸vs.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由」に書きました。

8億円もの値引きの理由が「ごみの撤去費用」!?

 一方、朝日新聞は翌日の朝刊で大きく報じましたから問題が広く世に知られました。野党の追及で財務省は2日後に金額をあっさり公表。鑑定価格9億円余りの土地を8億円以上も値引きしていたことが明らかになりました。値引率86%!そんな破格の値段で国民の財産を売り払っていたのです。

 値引きの理由は国有地に埋まっているごみの撤去費用だと財務省は説明しました。でも、あの土地にそんなにごみがあったんでしょうか? 当の森友学園の籠池泰典理事長(当時)自身が当初から「撤去にそれほど費用はかからない」と認めています。そして事実、ごみはほとんど撤去されないまま校舎は現地に立派に立っています。そもそも本当にごみがあったのかどうかもきわめて怪しい状況です。となれば明らかに不当な値引きです。なぜ国の公務員がそんなことをしたのでしょう? 首相夫人の影響はあったのでしょうか? そこが事件の本質です。

問題の国有地にはごみがほとんど撤去されないまま立派な校舎が立っている(撮影・相澤冬樹)
問題の国有地にはごみがほとんど撤去されないまま立派な校舎が立っている(撮影・相澤冬樹)

 これは国民の財産の侵害だから公務員の背任行為にあたります。しかし大阪地検特捜部の捜査では、おとがめなしの不起訴。市民から選ばれる検察審査会は「不起訴は不当」と議決しましたが、検察は再捜査でまたも不起訴にしました。

公文書を改ざんしてまで隠したかったこと

 森友事件が発覚し、国会で連日追及されていた3年前の2月。財務省の佐川宣寿理財局長(当時)は「資料はすべて廃棄した」と繰り返し答弁していました。しかしまさにそのころ、財務省は資料をせっせと廃棄し、あるいは都合の悪い記述を書き換える“公文書改ざん”を行っていました。不当な書き換えをさせられた近畿財務局の職員は、精神的に追い込まれて自ら命を絶っています。犠牲者が出ているのです。

 改ざんの刑事責任も背任同様いっさい追及されていません。公文書の廃棄・改ざん、その後のうやむやは、今の“桜を見る会”問題につながっているとも言えるでしょう。

大阪地検特捜部に徹底捜査を求める豊中市の木村市議(撮影・相澤冬樹)
大阪地検特捜部に徹底捜査を求める豊中市の木村市議(撮影・相澤冬樹)

森友事件は森友学園の事件ではない 国と大阪府の事件である

 森友と言えば籠池夫妻の詐欺事件の裁判が今月19日に判決を迎えます。しかし考えてみてください。森友事件とは森友学園の事件ではありません。国と大阪府の事件です。国が国有地を不当な安値で売ったこと、それが大阪府による小学校の認可と深く結びついていたこと、その小学校の名誉校長に安倍昭恵首相夫人が就任していたこと。これらが事件の焦点です。

刑事裁判で大阪地裁に向かう籠池夫妻と弁護団(撮影・相澤冬樹)
刑事裁判で大阪地裁に向かう籠池夫妻と弁護団(撮影・相澤冬樹)

 籠池夫妻の詐欺事件は国有地の売買とは何の関係もありません。だまし取ったとされているのは校舎を建てるための国の補助金と、すでにある幼稚園などの運営に関わる大阪府と大阪市の補助金です。

 なのに検察はこの補助金詐欺を最優先で捜査し、結果的に国有地値引きの背任事件から世間の目をそらしました。これが籠池夫妻が自分たちへの捜査を「国策捜査だ」と訴えるゆえんです。一方で国有地の背任を立件しなかったことを「国策不捜査」と呼んでいます。正確には捜査した上で不起訴にした「国策不起訴」ですが。

安倍首相の街頭演説を見つめる籠池泰典元理事長。周囲では長男らの妨害があった(撮影・相澤冬樹)
安倍首相の街頭演説を見つめる籠池泰典元理事長。周囲では長男らの妨害があった(撮影・相澤冬樹)

 籠池夫妻にどのような判決が下るのか? 無罪か、執行猶予か、実刑か? それは確かに関心事です。しかし、どのような判決が出ようと、私たちは訴え続けるべきです。

それはそれとして国有地不当値引きの真相は? 公文書改ざんの刑事責任はどうなりました?

(執筆・相澤冬樹)

木村市議は今も近畿財務局の前で真相究明を呼びかけている(撮影・相澤冬樹)
木村市議は今も近畿財務局の前で真相究明を呼びかけている(撮影・相澤冬樹)

宮崎生まれ。NHKで記者修業30年余(山口・神戸・東京・徳島・大阪)。森友事件取材中に記者を外され退職。経緯は文春文庫『メディアの闇「安倍官邸vs.NHK」森友取材全真相』。還暦間近なるも修業継続中。「取材は恋愛に似ている」を信条に、Yahoo!ニュースや週刊文春、週刊ポスト、日刊SPA!、日刊ゲンダイなど様々な媒体で執筆。ニュースレター「相澤冬樹のリアル徒然草」配信中→http://fuyu3710.theletter.jp/about

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