Yahoo!ニュース

世の不条理を問う「新宿のろし一揆」千秋楽大祭が緊急決定

自粛社会の不条理を”撃つ” 映画「狼煙を呼ぶ」より

 祖父の形見の拳銃を理由に逮捕された映画監督豊田利晃(とよだ・としあき)が、その返答として制作した短編映画「狼煙(のろし)が呼ぶ」。表現や発表の自粛に対するアーティストの戦いとして大きな反響を呼び、上映館の1つで急きょ監督や出演者らによるイベントが実施された。その名も「新宿のろし一揆!!!」。

 さらにきょう10日、「新宿のろし一揆」千秋楽大祭も緊急決定した。“狼煙ムーブメント”は世の不条理を変える原動力になるか?

(敬称略)

世の矛盾と不条理を”撃つ”(映画「狼煙が呼ぶ」より)
世の矛盾と不条理を”撃つ”(映画「狼煙が呼ぶ」より)

「のろしくお願いします」

 10月6日、東京・新宿の映画館「シネマート新宿」に250人の観客が集まった。「狼煙が呼ぶ」の上映後に行われる「新宿のろし一揆!!!」に参加するためだ。映画は16分しかないが、料金は1800円と通常の映画と同じ。それでも全国37の上映館で連日大勢の観客を集めている。

 映画の上映後、監督の豊田が、出演者の渋川清彦、村上正人、飯田団紅とともにステージに上がった。飯田は「日本を江戸にせよ!」を合言葉に野良着で和楽器などの演奏を繰り広げる「切腹ピストルズ」の隊長だ。今回、豊田の誘いで仲間とともに映画に出演し、このイベントで進行役を務めた。

上映後のトークイベントに登壇した飯田団紅、豊田利晃、渋川清彦、村上正人(撮影・相澤冬樹)
上映後のトークイベントに登壇した飯田団紅、豊田利晃、渋川清彦、村上正人(撮影・相澤冬樹)

 あいさつに立った豊田は…

「映画監督の豊田利晃です。きょうは映画館に映画を見に来ていただいてありがとうございます。短い時間ですが、のろしくお願い致します」

 「のろしく」というのは豊田が数日前に思い付いたあいさつで、もちろん「よろしく」と「のろし」をかけている。

「狼煙が呼ぶ」の映画監督・豊田利晃「のろしくお願いします」(撮影・相澤冬樹)
「狼煙が呼ぶ」の映画監督・豊田利晃「のろしくお願いします」(撮影・相澤冬樹)

 続いてあいさつした渋川も「どうぞみなさん『狼煙が呼ぶ』を、のろしくお願いします」と締めた。

マスコミとネットの相乗効果による“いじめ”

 この後、豊田は自らの逮捕のいきさつを語った。祖父の形見の古ぼけた拳銃で、見つけた現場の捜査員は「大丈夫だと思う」と話していたのに、30分後に「逮捕します」と言われたこと。結局9日間で釈放されたのに、出たらマスコミとSNSで大騒ぎになっていたこと。

祖父の形見の古ぼけた拳銃で逮捕されるとは…(撮影・相澤冬樹)
祖父の形見の古ぼけた拳銃で逮捕されるとは…(撮影・相澤冬樹)

 ここからが豊田の一番訴えたいことだ。

マスコミとネットの相乗効果による“いじめ”みたいなことが、このところずっと起きてるじゃないですか。そういうことに対し映画を作りたいと思っていたら、まさか自分が当事者になるとは思っていなかったんです」

 釈放されて1週間で企画書を書き、周囲のスタッフや役者に送り、「やろうぜっ」と呼びかけた。企画書を書いたのは5月で、撮影したのが6月、7月には最初の上映と、猛スピードで仕上げた。

マスコミとネットの”いじめ”に物申す(撮影・相澤冬樹)
マスコミとネットの”いじめ”に物申す(撮影・相澤冬樹)

37館一斉上映を自ら電話でこじ開けた

 全国一斉上映も、豊田自身が仲間とともに映画館に一軒一軒電話した。映画館は通常、3か月前とか半年前には映画のラインナップが決まってるので、だいたいは断わられる。それを「16分なんで、予告編2本飛ばしたらできますよ」と売り込み、37館で上映をこじ開けた。こうして史上初のミニシアター全国一斉公開が実現した。16分の映画が映画館でかかるのも史上初だ。

日本映画史上初のオンパレード(撮影・相澤冬樹)
日本映画史上初のオンパレード(撮影・相澤冬樹)

自粛なんかするもんか!

 著名人が逮捕されてマスコミやネットで大騒ぎ。こんな時、普通は釈放されても「おとなしくしてろ」となりがちだ。特に今の世の中は何かと自粛を求めたがる。豊田がこの短編を撮ろうとした時も「自粛してろ」という意見があったという。しかし豊田は、こんな時代だからこそ、やられっぱなしじゃなく声を上げることが必要じゃないかと考えた。自分の事件そのものではなく、今、世の中にあるいろんな矛盾とか不条理みたいなものに対し。

世の矛盾と不条理に声を上げよう(撮影・相澤冬樹)
世の矛盾と不条理に声を上げよう(撮影・相澤冬樹)

世の中には矛盾と不条理があるけど、それを僕らは何もできない。僕にできることは映画を撮って公開することなんで」

 16分の映画を映画館でかけるということにも賛否両論あったという。映画界も揺れているようだ。しかし今は携帯で映画を見る時代。途中で止めたり、2日にわけて見たりしている。豊田は映像に対する日本人の集中力が落ちていると感じ、16分で誰でも集中して見られるようにしたという。

この世の不条理に一揆を起こす(映画「狼煙が呼ぶ」より)
この世の不条理に一揆を起こす(映画「狼煙が呼ぶ」より)

「映画館は10代をタダに」

 豊田は全国の上映館を回って舞台あいさつをしている。こうした地方巡業は普通はしない。佐賀から大分、そして熊本と、1日4館も回ったこともあるという。

「映画館は10代をタダに」(撮影・相澤冬樹)
「映画館は10代をタダに」(撮影・相澤冬樹)

 全国の映画館を回って感じたのは、今の映画館はシニア層に支えられているということだ。高齢者ばかりで映画館が寂れていく。この先大丈夫か?そこで豊田は映画館に提案しているという。「10代はタダにした方がいい」と。

新宿のろし一揆 千秋楽大祭 緊急決定!

 最後に進行役の飯田がサプライズイベントを発表した。

「シネマート新宿での上映最終日、10日に、切腹ピストルズが大襲来して、映画の後にばあ~っとやっちゃいます。そん時はもう好きなだけやってくれって映画館に言われてまして。1回のろしに呼ばれてしまったみなさん、のろしくお願いします!

切腹ピストルズの飯田団紅が千秋楽大祭を告知(撮影・相澤冬樹)
切腹ピストルズの飯田団紅が千秋楽大祭を告知(撮影・相澤冬樹)

 こうしてシネマート新宿で「新宿のろし一揆」千秋楽大祭の開催が緊急決定した。きょう10日21時の回の上映後、切腹ピストルズのライブに豊田がVJとして映像を合わせる。渋川と村上の登壇も決まった。

 豊田たちがこの世の不条理に上げたのろし、いっぺんご覧になってはいかがだろうか?

「新宿のろし一揆」千秋楽大祭の告知画面(シネマート新宿のウェブサイトより)
「新宿のろし一揆」千秋楽大祭の告知画面(シネマート新宿のウェブサイトより)

【執筆・相澤冬樹】

問い合わせ先:シネマート新宿03-5369-2831

http://www.cinemart.co.jp/theater/shinjuku/topics/20191010_15936.html

制作・配給・宣伝 IMAGINATION

https://www.imaginationtoyoda.com

宮崎生まれ。NHKで記者修業30年余(山口・神戸・東京・徳島・大阪)。森友事件取材中に記者を外され退職。経緯は文春文庫『メディアの闇「安倍官邸vs.NHK」森友取材全真相』。還暦間近なるも修業継続中。「取材は恋愛に似ている」を信条に、Yahoo!ニュースや週刊文春、週刊ポスト、日刊SPA!、日刊ゲンダイなど様々な媒体で執筆。ニュースレター「相澤冬樹のリアル徒然草」配信中→http://fuyu3710.theletter.jp/about

相澤冬樹の最近の記事