ローラのビームハイは国産ウイスキー原酒確保につながるか?

ローラのビームハイ(サントリーの公式ウェブサイトより筆者撮影)

 タレントのローラがジョッキを片手ににっこり「ジムビーム ハイボール だぜっ!」と呼びかける。ローラにこう言われたら、たいていの男は「はい、そうです!」と答えたくなるだろう。

 ジムビームはアメリカ・ケンタッキーのバーボンだが、買収されて今はサントリーの傘下にある。サントリーのウェブサイトでウイスキー・ハイボールのページを開くと、真っ先にこの「ローラのビームハイ」が出てくる。社として力を入れていることがうかがえる。

サントリーの登記上の本社は今も大阪・堂島にある(撮影・相澤冬樹)
サントリーの登記上の本社は今も大阪・堂島にある(撮影・相澤冬樹)

 ところで、このローラのビームハイ、実は「国産ウイスキーの原酒確保」という意味合いもあるのだと、あるサントリー関係者が教えてくれた。どういうことなのだろう?(敬称略)

大阪人が愛するサントリーウイスキー

 サントリーは大阪が発祥の地。早くからウイスキーの生産を手掛けてきた。登記上の本社は今も大阪市の中心部、堂島にある。堂島は江戸時代から米会所蔵屋敷が立ち並ぶ商取引の中心地。現在も大企業の本社や支社が集まる。大阪人にとってウイスキーと言えばサントリーだろう。それは北海道の人にとってウイスキーと言えばニッカというのと同じだ。

 サントリーウイスキーと言えば、かつて「トリスを飲んでハワイに行こう!」というキャッチコピーがあった。山口瞳の考案だ。ほかにも開高健、「アンクルトリス」の柳原良平と、サントリーは昔から広告がうまかった。80年代には松田聖子の曲にのせた「ペンギンズ・バー」というビールの広告がヒットした。もっともビールの方は薄味で物足りないという声もあったが。

銀座の夜は華やぐ(撮影・相澤冬樹)
銀座の夜は華やぐ(撮影・相澤冬樹)

 そのサントリーのウイスキー「白州」を“日本一”売り上げたバーが銀座にあると聞いて、訪れることにした。

白州売り上げ“日本一”銀座バー・ノックトーンに見る国産ウイスキーの変遷

 日本有数の繁華街、銀座の夜は華やかな女性が行き交う。その一角に「銀座バー・ノックトーン」はある。

ノックトーンはガラス張りで店内が見通せる(撮影・相澤冬樹)
ノックトーンはガラス張りで店内が見通せる(撮影・相澤冬樹)

 このお店のシステムはちょっと変わっている。お客はウイスキーのボトルをキープ。カウンターの向かい側に立つ女性スタッフがそのボトルでハイボールを作ってくれる。お客はハイボールを味わいながら女性スタッフとの会話を楽しみ、飲み物をふるまう。

 ただし女性スタッフとお客との電話番号やLINEの交換は厳禁。あくまで上質のウイスキーの味を楽しむのが売り物だ。“ウイスキー専門の品の良いガールズバー”と言ったところだろうか?自然とボトルの消費は早まり、多数のボトルが出ることになる。

カウンター内の女性スタッフとの会話を楽しむ(ノックトーン提供)
カウンター内の女性スタッフとの会話を楽しむ(ノックトーン提供)

 この店が開店当初から力を入れていたのがサントリーの白州だった。お客にイチオシで勧めていた。勢い売り上げは上がる。運営会社の社長、清水孝芳は語る。

「サントリーさんはお客様に愛されてましたから。特に年配の方はウイスキーと言えば国産、中でもサントリーなんですよ。白州はスモーキーだから、そのままでは日本人向きではありません。だからサントリーさんは『ミントを入れてハイボールで』と全国でプロモーションをしていました。でも、うちでは結構その前から『白州がいい』というお客様はいらっしゃいましたね」

銀座バー・ノックトーンの運営会社社長、清水孝芳(撮影・相澤冬樹)
銀座バー・ノックトーンの運営会社社長、清水孝芳(撮影・相澤冬樹)

「とは言え今から10年ほど前までは、ウイスキーが売れずに冬の時代でした。サントリーさんも営業に必死で、あの手この手で売り込んでいました。その一つとして、2か月限定で白州の売り上げ本数を都内の店同士で競うというキャンペーンがありました。うちはそのキャンペーンで2年連続1位になったんです。『都内で1位ということは日本一ですよ』とサントリーの営業の方が話していました」

かつてキープボトルの棚は白州で埋め尽くされていた(ノックトーン提供)
かつてキープボトルの棚は白州で埋め尽くされていた(ノックトーン提供)

 その時の表彰状が店内に飾ってある。当時はキープボトルの棚のほとんどが白州のボトルで占められていたという。ところが今は、一番多いのはグレンモーレンジーというスコッチに変わった。店のイチオシもグレンモーレンジーだ。一体何があったのか?

ハイボールブームで国産ウイスキーが品薄に

 社長の清水が語る。

「イチオシするも何も、商品がないんですから。白州という商品がほとんど手に入らなくなったんです。すべてはここ数年のハイボールブームの影響ですね。ハイボールの代表格として全国の居酒屋で角ハイがはやりましたから、原酒が足りなくなっちゃったんですよ」

今や様変わりでグレンモーレンジーに占拠された棚(撮影・相澤冬樹)
今や様変わりでグレンモーレンジーに占拠された棚(撮影・相澤冬樹)

 これには少し説明がいる。サントリーのウイスキーは、レッド、トリス、角などお手頃価格の商品から、オールド、リザーブ、最高級の響50年など、多彩なラインナップがある。しかし、すべては3品種の原酒をブレンドしてつくられている。シングルモルトの山崎(京都)と白州(山梨)、それにシングルグレーンの知多(愛知)だ。

 これらを熟成年数に応じて様々に調合することで、多彩なブレンドウイスキーが誕生する。そして、原酒の3品種もそれぞれシングルモルト、シングルグレーンとして売り出されている。

白州はいまやすっかり希少に(撮影・相澤冬樹)
白州はいまやすっかり希少に(撮影・相澤冬樹)

 従って、角ハイという形で角の売り上げが伸びた結果、国産原酒3品種を消費することになり、原酒不足に陥ってしまったのだ。

「サントリーさんはあれほど『国産ウイスキー売ってください。白州売ってください』と言っていたのに、今ではうちがいくら注文しても商品がないと言うんです。今の営業さんは『商品がなくってスミマセン、ごめんなさい』って謝ってばかりですよ(苦笑)」

国産を海外産に切り替えてお客様の満足を

 ノックトーンにしてみれば、看板商品だった白州がブームになったが故の、痛し痒しの状況だ。だが、白州ブームの一翼を担ってきたお店として、手をこまねいているわけにはいかない。

白州に代わる選択肢を提示する企業努力を(撮影・相澤冬樹)
白州に代わる選択肢を提示する企業努力を(撮影・相澤冬樹)

「白州の素晴らしさを理解してくださるお客様に納得していただける選択肢を提示するのも、私たちの大事な企業努力です。そう思って、うちのメインのウイスキーを、スコットランド産のグレンモーレンジー18年に切り替えました。白州12年よりワンランク上のお酒ですけど、同じ値段で出しています。常連さんからも『別の素晴らしさがある、お得だ』と喜んでもらっています」

ワンランク上の商品を同じ値段で(撮影・相澤冬樹)
ワンランク上の商品を同じ値段で(撮影・相澤冬樹)

「国産ウイスキーの品薄は当分続く」

 こうした状況についてサントリーの関係者は語る。

「うちは結局、ここまでハイボールがブームになってウイスキーが売れるとは思っていなかったんですね。だから生産調整で生産量を減らしていた。そこにこのハイボールブームでしょう。ウイスキーっていうのは生産を増やそうと思ってもすぐには増やせませんからね。熟成が必要ですから。普通は12年の熟成が必要だと言われます。熟成期間の短い『ノンエイジ』と呼ばれるウイスキーも出回るようになりましたが、そうは言ってもまだ当分は国産ウイスキーの品薄は続くと思うと、ジャパニーズウイスキーファンに心苦しい限りです」

ジャパニーズウイスキーの代表格、白州と山崎の品薄は続くのか?
ジャパニーズウイスキーの代表格、白州と山崎の品薄は続くのか?

だからローラのビームハイには国産原酒確保の意味がある

 こういう背景事情の中で、ローラのビームハイ キャンペーンは行われている。ハイボールファンが角ハイからビームハイに切り替えてくれれば、角の消費が減る。それは国産ウイスキーの原酒確保につながる。そのために、ジムビームの価格は角より安めに設定されている。だからたいていの呑み屋でビームハイは角ハイより安いはずだ。

ローラのビームハイには国産原酒確保の意味合いがある(サントリーの公式ウェブサイトより筆者撮影)
ローラのビームハイには国産原酒確保の意味合いがある(サントリーの公式ウェブサイトより筆者撮影)

 これが、記事の冒頭でサントリー関係者が語った「ローラのビームハイには、実は国産ウイスキーの原酒確保という意味合いもある」という話になるのである。

最後は大阪・北新地のバーへ

 最後はやはり、サントリー発祥の地、大阪に戻りたい。東の銀座と並んで西日本を代表する繁華街、北新地。ここで開業21年を迎えるバー・エルミタージュ

北新地のバー・エルミタージュはビルの奥の知る人ぞ知る場所にある(撮影・相澤冬樹)
北新地のバー・エルミタージュはビルの奥の知る人ぞ知る場所にある(撮影・相澤冬樹)

 店主でバーテンダーの田外博一(たげ・ひろかず)も白州を愛してきた一人だ。

「白州の魅力はジャパニーズウイスキーらしい繊細さです。山崎は甘さの方が際立つ。白州はドライさと軽いスモーキー感でその対極にあります」

「白州のちょっとスモーキーな感じがハーブとすごくマッチするんですよ。だからサントリーさんが提唱したようにミントの香りとよく合うんですけど、私はそこにさらにレモンピールを一絞り加えて爽やかさを増すようにしています」

最後に一絞り加えるレモンピールが爽やかさを増す(撮影・相澤冬樹)
最後に一絞り加えるレモンピールが爽やかさを増す(撮影・相澤冬樹)

 田外は自分が考案したこのハイボールを「スリーエイチ」と名付けた。白州(Hakusyu)のH、エルミタージュ(Hermitage)のH、ハイボール(Highball)のH、3つのHが重なることから命名した。炭酸も大阪北部の能勢産の能勢ソーダを使うこだわりようだ。常連さんの中には店に入るなり「スリーエイチ」と注文する人もいる。この店、白州のショット売りではおそらく北新地で一番だという。

通が知るスリーエイチをどうぞ(撮影・相澤冬樹)
通が知るスリーエイチをどうぞ(撮影・相澤冬樹)

「ハイボールはおっちゃんの飲み物だったのが、サントリーさんのキャンペーンもあって若い人も『おもろそう』となってきた。ブームが来たのが10年くらい前でしょうね」

国産原酒確保は東京オリンピックに間に合うか?

 この店は以前は、白州のボトルをお手頃価格で出すフェアをよくやっていた。今ではボトルが確保できず無理だという。国産原酒不足はここにも表れている。日本バーテンダー協会関西統括本部の副本部長も務める田外は語る。

バー・エルミタージュ店主の田外博一(撮影・相澤冬樹)
バー・エルミタージュ店主の田外博一(撮影・相澤冬樹)

「わたくし個人的には、東京オリンピックという国際イベントの際に、日本国内にジャパニーズウイスキーという“ええウイスキー”がないのもどうかと思っているんです。そういうバーテンダーは少なくないはずです。ハイボールブームが来てからかなりになりますから、生産増強されたはずの国産原酒が熟成してオリンピックの頃にそろそろ出回ってもいい頃合いかな?サントリーさんが出回らせてくれないかな?と期待しています。何と言ってもこのあたり(北新地)は本社に近いので圧倒的にサントリーですからね。ほんと、期待してます」

サントリーさん、頼んまっせ!(撮影・相澤冬樹)
サントリーさん、頼んまっせ!(撮影・相澤冬樹)

ローラのビームハイに切り替えます?

 ローラのビームハイは、必ずしも国産ウイスキーの原酒確保だけが狙いではないだろう。だが、結果としてそういう効果を生み出すし、そう期待する関係者もいる。

 ただしハイボールファンの中には「バーボンのジムビームはハイボールにするとちょっと甘い」という人もいるから、期待通りにいくかどうかは予断を許さない。結果は、実際にサントリーの原酒が市場に出回るかどうかでわかる。

 いずれにせよ、商品が想定以上に大ヒットしたが故に生まれた「あちら立てればこちらが立たぬ」状況である。

【執筆・相澤冬樹】

国産ウイスキー原酒不足は解消されるのか?(ノックトーン提供)
国産ウイスキー原酒不足は解消されるのか?(ノックトーン提供)

銀座バー・ノックトーンhttp://www.nokkton.com/

バー・エルミタージュhttp://bar.kita-shinchi.com/hermitage/index.html

サントリー公式ウェブサイトのウイスキー・ハイボールのページhttps://www.suntory.co.jp/whisky/?fromid=top