デニー沖縄県知事が大阪の“リトル沖縄”で訴えた「基地問題を自分ごとに」と、歌ったスタンド・バイ・ミー

“リトル沖縄”でのトークキャラバンで語る玉城デニー沖縄県知事(筆者撮影)

 残暑厳しい日差しのもと、エイサーの響きが広場に鳴りわたる。ここは大阪市大正区。住民の4分の1が沖縄出身者とその子孫と言われる“リトル沖縄”だ。

大阪市大正区の恒例「エイサー祭り」(筆者撮影)
大阪市大正区の恒例「エイサー祭り」(筆者撮影)

 この地で毎年開かれているエイサー祭りが、今年も9月8日(日)に開催され、沖縄料理の店や物産店の屋台が人気を集めた。

 その会場をある人物が訪れた。とたんに周りに人々が集まる。「デニーさんだ!」次々に握手を求める人々。この地の多くの人にとって、去年の沖縄県知事選挙で初当選した玉城デニー知事はスターなのだ。

エイサー祭り会場でデニー知事に握手を求める人々(筆者撮影)
エイサー祭り会場でデニー知事に握手を求める人々(筆者撮影)

デニー知事が大阪のトークキャラバンで呼びかけたかったこと

 デニー知事が大正区を訪れたのは、沖縄の声を全国の人々に届けるトークキャラバンのためだ。東京、名古屋と開催してきて、3回目となる大阪ではリトル沖縄と呼ばれるこの地を選んだ。エイサー祭りの広場の向かいにある大阪沖縄会館の会場には300人の聴衆が詰めかけた。大きな拍手の中、壇上に立ったデニー知事は、集まった人々に語りかけた。

「ぜひ全国の皆さんに、自分ごととして考えてほしい。そう思って東京、名古屋と開催してきました。今回で3回目です」

トークキャラバン会場の大阪沖縄会館で登壇したデニー知事(筆者撮影)
トークキャラバン会場の大阪沖縄会館で登壇したデニー知事(筆者撮影)

基地問題「自分ごとと考えて」

 自分ごとと考えてほしいのは、もちろん基地問題だ。沖縄には全国の米軍基地の70%が集中する。圧倒的な負担だ。2番目に多い青森県でも9%、横須賀や厚木の基地がある神奈川県は5.6%だ。

「よく(沖縄の)居酒屋で呑みながら言われるんですよ。『デニーさん、もう沖縄はね、70倍の交付金もらった方がいいよ』って(笑)。そういう風に言いたくなる気持ちもあると思います。ですが私たちはこれ以上、未来の子どもたちに米軍基地の不安を感じさせない、未来の世代を将来の事件事故の被害者にさせたくない、ということを、平和な島作りを念頭に、米軍基地の整理縮小、そして県外移転を求めていきます」

「沖縄には全国の70%の米軍基地がある」(筆者撮影)
「沖縄には全国の70%の米軍基地がある」(筆者撮影)

沖縄の民意は示された。なのに基地建設は続く

「私は知事選挙で辺野古の新基地反対を掲げて当選しました。つまり選挙で結果を出して頂きました。そしてこの2月、県民投票が行われ、52%の投票率で、その72%の人が辺野古の埋め立てに反対という意思を明確に示されました」

「しかし、なぜ工事は続けられているのか?という素朴な不条理に対する、間違ったことに対する疑問を、私たちは解明していかなくてはなりません。そのためにはこうやって皆さんに直接、沖縄の現状をお話しし、この会場にいる皆さんが、同じ国民として、なぜ沖縄でいつまでもこれだけの基地を、ということを、自分ごととして捉えて頂きたい。そして、自分たちに何ができるだろうか、ということを、それぞれができることを、ぜひ沖縄県と協力してやって頂きたい。そのことをお願い申し上げるために各地でお話しをしています」

デニー知事が登壇したとたん一斉にスマホで撮影(筆者撮影)
デニー知事が登壇したとたん一斉にスマホで撮影(筆者撮影)

音楽には強いメッセージを発信する力がある

「先日は何と、フジロックフェスティバルに出ちゃったんです(笑いと拍手)。これは議会でも『そんなのに出るより離島を守れ』とかですね、いろいろご指導を頂きました。しかしトークイベントという形で、沖縄のことを知ろう語ろうというテーマで、音楽でこそ政治の話を伝えようということで、沖縄のことをテーマにして頂いた。そこに呼ばれたんです。その時に『知事はバンドもやってらっしゃるそうで、できればちょっと披露して下さい』と言われて、そこだけがクローズアップされてますけど(笑)2曲歌わせて頂きました」

ギターと歌がお得意(当日のエイサー祭りで筆者撮影)
ギターと歌がお得意(当日のエイサー祭りで筆者撮影)

 披露したのは1曲がクリーデンス・クリアウォーター・リバイバルの「雨を見たかい Have You Ever Seen the Rain?」…この曲では「晴れた空から降ってくる雨を見たことがあるかい?」と歌っているため、この「雨」は、当時ベトナム戦争で米軍が行っていたナパーム弾爆撃を指しているという説がある。しかしデニー知事は、ほんとかなあと思って調べたら、作詞作曲のジョン・フォガティが『いや、そんなことないよ』と否定していたというエピソードを披露した。

 もう1曲はボブ・ディランの「All Along the Watchtower」だという。見張り塔からずっと見渡している、という意味だ。その歌詞の中に「農民は勝手に俺の畑を耕す」というくだりがある。デニー知事はここを「政治家は勝手に辺野古を埋める」と歌詞を替えて歌ったそうだ。ただ、英語で歌ったので、その瞬間にピンときた人は少なかったかもしれない。

「その一部分だけ気持ちよく歌詞を変えて歌わせて頂きました。私はかねてから音楽には強いメッセージを発信する力があると思っています。国境を越える力も持っている。そして人をなごませ、時には悲しませ、あるいはその悲しい気持ちを共感させる。だから私たち一人一人が生きているこの社会は、音楽と切っても切れないんだと、私は音楽大好き人間として話をさせて頂いています」

「音楽にはメッセージを発信する力がある」(池田由利子氏撮影)
「音楽にはメッセージを発信する力がある」(池田由利子氏撮影)

「米軍基地は沖縄経済を凍らせている」

「私は1959年生まれ。今年が干支、還暦です。そうは見えない? そこはもう少し大きく『おお~』と言ってほしいんですけど(笑)」

 自身の生まれ年の話から次の話題に転がしていく。

「私が生まれる前の年、1958年に、実は、沖縄で使われていたB円軍票からドルに、通貨が変わったんです。ドルの価値は高かったですから、あの当時、沖縄県民にとってドルを稼ぐ方が着実に財をなすことができる手段だったんです。ドルを持っているのは兵隊や軍の関係者ですよね。彼らがお金を使うのはサービス業です。サービス業でお金を稼ぐというのが、ウチナンチュー、沖縄の方たちが戦後、ドル経済になった時にそういう仕事をしていたんですね。当時、基地経済への依存度は50%でした」

「祖国復帰。いい言葉ですよね」(筆者撮影)
「祖国復帰。いい言葉ですよね」(筆者撮影)

1972年、晴れて我々は名実ともに日本人になりました。祖国復帰です。いい言葉ですよね。核抜き本土並みの祖国復帰と、前置詞があるんですね」

基地依存度は今は5%です。あと2年半で復帰50年を迎えます。基地があって良かったという人はいますが、いつまでもあっていいという人は少ないんです。米軍基地70%があり続けているのは、沖縄をフリーズ、凍らせているんです。すみやかに国外へ、アメリカが責任を持って引き取って頂きたい。私たちは日米同盟は認めているんです。ただ、外国の軍隊がずっと自分たちの国にあるのは非常に不公平で不条理です」

日米地位協定も改定したい。他国と比較すると日本の状態は非常に不条理です。地位協定の問題は沖縄だけの問題ではありません。知事会でも決議されています」

「日米地位協定も不公平で不条理」(筆者撮影)
「日米地位協定も不公平で不条理」(筆者撮影)

辺野古の工事は止まらず「政府による沖縄シカト」

 ところが辺野古の工事は止まらない。デニー知事は日本政府の対応に疑問を呈した。

「去年の私の選挙の結果もそうですし、今年2月の県民投票の結果を3月1日に安倍総理に伝え、『ぜひ県民の思いをしっかりと受けとめて頂いて、沖縄県と国で協議をしましょう。対話をしましょう。だから即刻(基地の)工事をやめて静かな環境の中で話し合いを進めていきましょう』と申し入れたんですね。ところが明確な返答は返ってきません。それどころか菅官房長官は『工事は止めません。そのまま進めます』とおっしゃる。4月の衆議院補選、7月の参議院選挙でも我々の支持する候補が勝ちましたが、やはり政府は後退しない姿勢です」

政府による沖縄シカトです。でもシカトされて黙っている沖縄県民じゃありませんから」

「政府にシカトされて黙ってる沖縄県民じゃない」(筆者撮影)
「政府にシカトされて黙ってる沖縄県民じゃない」(筆者撮影)

アメリカに直接沖縄の声を伝える

 そしてデニー知事は、来月(10月)アメリカに行って米議会に直接訴える考えを明らかにした。世界の米軍基地の見直しについて上院で議論されていることから、関係議員やスタッフに働きかけるとともに、公聴会でも意見を述べたいという。

 デニー知事は知事就任直後の去年11月にもアメリカを訪れて、市民と直接対話をしている。その時に手応えを感じたという。

私たちが求めているのは民主主義の本当の姿です。日本政府に話をしたら、アメリカと約束している話だからと言って基地建設を進める。ではと思ってアメリカ政府に話をしたら、これは日本国内の問題だからと言って日本政府に押しつける。そんな沖縄の現状をアメリカ国民の皆さんに私から直接お話しをすると、皆さんわかってくださる。そこでアメリカ政府や議員への働きかけをお願いしました。アメリカにじかに話をすることが大事だと感じました」

こうなったらアメリカと直談判だ(筆者撮影)
こうなったらアメリカと直談判だ(筆者撮影)

「沖縄の基地を無くすために僕にできることは?」

 最後の質疑応答で、子どもから率直な質問が寄せられた。

「僕は学校で沖縄について学んでいます。そこで学んだことを家族や友人にも話しています。

一つ質問なんですが、沖縄の基地を無くすために僕にできることはなんですか?

基地を無くすために僕にできることは?(筆者撮影)
基地を無くすために僕にできることは?(筆者撮影)

 デニー知事の答えは…

「私たちがこの子のためにできることは何だろうということを考えるんです。私たちのその姿を見れば、僕にできることは何かなってことを学ぶきっかけになると思います。自分で考え、自分で判断し、自分で行動すること。君にできることは、君がこの方がいいと思っている、考えている、そのために何ができるかを、ご両親や友達とも話をしながら、少しずつでもいいから実行に移していくことだと思います。頑張ってください。夢は必ずかないます。頑張ろう

 この質問用紙を司会者から受け取ったデニー知事「知事室に貼らせて頂きます

スタンド・バイ・ミー「一緒に頑張ろう!」

 トークキャラバンの後、デニー知事は隣のエイサー祭りの会場を訪れ、ステージに上がった。

自前のギターピックを持参(筆者撮影)
自前のギターピックを持参(筆者撮影)

 あいさつの後、司会者から「ぜひ1曲」と水を向けられると、やおら財布の中からマイピックを取り出した。準備がいいですねえ。

 渡されたギターを抱えて歌ったのは、スタンド・バイ・ミー。ベン・E・キングの名曲で、1986年に映画化されたスティーブン・キング原作の同名映画の主題歌としてリバイバルヒットした。

Stand by me 一緒に頑張ろう!(池田由利子氏撮影)
Stand by me 一緒に頑張ろう!(池田由利子氏撮影)

 Stand by me(僕のそばにいてほしい)というフレーズを歌いながら、最後にデニー知事は聴衆に向かって叫んだ。

これからも一緒に頑張ろう!

 わき起こる大歓声。デニー知事から大阪の人々へのメッセージだ。

【執筆・相澤冬樹】以下はステージでスタンド・バイ・ミーを熱唱するデニー知事(池田由利子氏撮影)