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発達障害、虐待、不登校を抱える児童生徒。支援を必要とする子どもたちの早期発見・対応に挑む行政サービス

足立泰美甲南大学経済学部教授/博士「医学」博士「国際公共政策」
(写真:アフロ)

子育てを取り巻く問題の多様化

 子育てを取り巻く問題は複雑で多岐にわたってきている。その一つに、自閉症、アスペルガー症候群、学習障害、注意欠陥多動性障害などの発達障害がある。図で示すように、その問題を抱える児童数は年々増えている。一般の方とは物事の感じ方、特技や苦手分野が異なるために、社会生活やコミュニケーションに支障が生じてしまう障害。障害の程度や症状は多様で、見た目では障害とわかりにくいものもある。そのため、鑑別が難しい。人の成長には個人差があり、個々の特性も重なり、障害と発達の判断に時間を要する。早期発見を目指すものの、0歳児から3歳児に対して実施されている保健所における健診は、発達障害が顕在化しやすい4歳から5歳には法定内の健診としては実施されていない。子育てへの不安を感じる保護者は必ずしも少なくないなか、身近に相談できる窓口にも限りがある。

図1 通級による指導を受けている児童生徒数の推移(公立小・中学校合計)

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備考)「難聴その他」は難聴、弱視、肢体不自由及び病弱・身体虚弱の合計である。

「注意欠陥多動性障害」及び「学習障害」と「自閉症」は2006年度から新たに学校教育法施行規則に規定する。2006年度以前は主に「情緒障害」の通級指導教室にて対応する。

出典)文部科学省(2013)「障害のある児童生徒の教材の充実に関する検討会:特別支援教育の現状について」をもとに筆者作成

 子どもを取り巻く社会問題は、これだけではない。本来子を守るべき保護者が、子どもの心や身体を繰り返し傷つける虐待。その指標となる全国的な虐待相談件数は、図で示すように毎年増加している。そして、虐待によって死に至る事例も全国的に発生し、早急な対応が求められている。そこには、地域、幼稚園、保育所、小・中学校等、児童相談所、保健所、医療機関などの様々な機関が連携しあい、虐待を受けた児童だけでなく保護者に対しても、専門的な対応を促すことが急務である。だが、そのための窓口となる相談体制も充分とは言い難い。

図2 児童虐待相談の対応件数と虐待による死亡件数

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備考)虐待による死亡数は「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」の第1次報告から第9次報告となる。なお、2003年のみ7月~12月で、それ以外は当該年度1月~12月期間の件数である。

(出典)厚生労働省「児童虐待相談対応件数等」をもとに筆者作成

 

 さらに心理的、情動的、身体的な要因が複雑に絡み合い、登校できない、したくない、あるいはしないという不登校児童も増えている。不登校にいたる理由は、多岐にわたり複雑である故に、教育部門だけでの解決は難しく、総合的な視点から検討が求められ、一定の方針を打ち出し、それに応じた支援プログラムの作成が求められる。

予防的アプローチを目指した支援センター

 児童を取り巻く問題。そこには共通して、何とかしたい思いがあったとしてもどうにもならない状況に陥ったり、何をしてもどれもが悪い方向に進んでしまう負のスパイラルに嵌まり込んでしまう。そのような子を取り巻く問題に対して、早期に対応できる予防的アプローチを目指した施設の整備が進められている。保健、福祉、教育等が連携し、0歳から18歳までの子どもを対象に、専門員によって切れ目のない総合的支援を行う施設。尼崎市の子どもの育ち支援センターが「あまがさき・ひと咲きプラザ(旧聖トマス大学2号館)」に整備され、次年度秋頃から業務を開始する。

図3 尼崎市子どもの育ち支援センター

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出典)尼崎市「市が考える尼崎」より抜粋

 

 尼崎市における発達障害、児童虐待相談件数ならびに不登校数の推移をみると、小学校の発達障害児童数は横ばいで推移しているものの、中学校では徐々に増えている。また児童虐待においては、要保護児童生徒数および虐待相談件数は増加の一途を辿っている。さらに、不登校児童生徒数は小学校では100人台、中学校では400人台で推移し、小学校および中学校ともに不登校児童生徒数の値は全国平均に比べ上回っている。

図4 尼崎市の発達障害児童数、虐待相談件数ならびに不登校児童生徒数等の推移

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出典)「尼崎市子どもの育ち支援センターの概要について」をもとに筆者作成 

 

 尼崎市の子どもの育ち支援センターでは、総合相談機能、発達相談支援機能、教育相談・不登校対策支援機能、家庭児童相談機能の4つの機能を備え、各機能のつなぎの強化を目指している。センターの1階には待合室や複数の相談室を設置し、2階には感覚統合室やプレイルームに幼児支援教室、3階には適応指導教室、発達検査室、心理療法室に診療室や保健室などを設置していく。

 そして現在、次年度の開業に向けて、本年度はプレ事業が行われている。1つめに、ネットワークの構築事業である。地域の社会福祉協議会、つどいの広場や児童委員を訪ねたり、保育施設、幼稚園、小学校、中学校、高校等などの関係機関を訪問し、センターの要となる連携の構築に力を入れている。2つめに発達障害・不登校支援のプレ事業である。保健所や教育委員会などで行われている発達障害とその疑いの児童の早期発見および早期支援の取組みに参加したり、教育委員会で実施されている不登校児童と保護者へのカウンセラー業務にも関わっている。3つめに研修事業である。将来センターで勤務する職員の能力向上のために、テーマに応じて専門家を交えた意見交換が行われている。子どもたちを取り巻く社会問題。見過ごしてはならない発達障害の悩み、児童虐待への対応、不登校の児童生徒。何とかしたい思いがあったとしても、どうにもならない状況に、何をしてもどれもが悪い方向に進んでしまう負のスパイラルに嵌まり込んでいる。そのような支援を必要とする子ども達を早期に発見し、対応する施設としてセンターに期待を寄せる。

甲南大学経済学部教授/博士「医学」博士「国際公共政策」

専門:財政学「共創」を目指しサービスという受益の裏にある財政負担. それをどう捉えるのか. 現場に赴き, 公的個票データを用い実証的に検証していく【略歴】大阪大学 博士「医学」博士「国際公共政策」内閣府「政府税制調査会」国土交通省「都道府県構想策定マニュアル検討委員会」総務省「公営企業の経営健全化等に関す​る調査研究会」大阪府「高齢者保健福祉計画推進審議会」委員を多数歴任【著書】『保健・医療・介護における財源と給付の経済学』『税と社会保障負担の経済分析』『雇用と結婚・出産・子育て支援 の経済学』『Tax and Social Security Policy Analysis in Japan』

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