小規模自治体の挑戦:中山間農業改革特区としての養父市。「農を拓く養父の未来」を説き田園回帰を目指す

(写真:アフロ)

1.特区ならではの就農・就職サポート

 面積の84%を山林で占める養父市。その地域性故に、2014年5月に中山間農業改革特区という国家戦略特区の指定をうけ、規制緩和で民間企業が農業に参入しやすい環境を整え、6次産業化を推進することで地域経済の活性化を促すとともに、農業の担い手の育成を目指している。その一つに都市部に住む若年層を農山村移住に取込む施策を打とうとしている養父市。そこには、我々一人一人が日常生活をどこでどのように過ごすかというライフスタイルが問われている。

中山間農業改革特区の挑戦

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出典)養父市「養父市移住定住促進ガイドブック」より抜粋

農のあるライフスタイル

 中山間農業改革特区として農業に関心のある層をターゲットとしている。だが農業に興味をもっているといっても、その思いは様々であろう。そこで養父市では、ゆったり農業、じっくり農業、そしてがっつり農業に分けて、農業を生活のなかに取込むことを希望する方の思い。それをライフスタイルに応じて提案をしている。たとえば、ゆったり農業では、田舎に移り住み自給程度の農業を想定する。そこでは農地を斡旋し、指導者を紹介し、有機農業学校で学ぶ機会なども提供していく。じっくり農業では、半農半〇で休日農業などの兼業ライフスタイルをイメージする。休みの日にコツコツ育てあげた農作物を、市内にある農産物直場所で販売するシステムを紹介する。本格的に農業に取り組み生計を立てたい人には、がっつり農業を提案。就農に必要な知識と技術の習得を支援し、おおや高原や囁高原などの産地で、就農の手ほどきの機会を提供していく。実際に、就農を希望すると手を挙げる人のなかには、農業に携わった経験をもっている者もいれば、全くもしくは僅かしか農業には触れたことがない者まで様々であろう。就農希望者のニーズをどうキャッチし、対応していくか。それも養父市で就農就職を促すには重要な視点となる。

就農への財政支援

 次なるステップは就農の実現である。農業に興味をもち、色々な方から話しを聞き、多くの知識を得て、自分なりに目指す農業を描いた後、いざ就農を決意した場合に、やはり先立つものとして経費・資金の確保は重要である。市では財政的なサポートとして、いくつかの事業を用意している。具体的には、農業者のもとで研修を受ける方には、資金交付として「農業次世代人材投資事業(準備型)」がある。また、就農直後の経営が不安な方向けには「農業次世代人材投資事業(経営開始型)」、独立して農業系経営を開始するまでには「養父市青年就農支援給付金」がある。さらには、農地と空き家をセットで農業を始めることができる「小さな農家活動応援事業補助金」なども用意されている。養父市に事業を展開する方に提供される制度はこれに留まらない。それ以外にも、起業者支援制度がある。個人や事業者が起業する新規創業には「創業・第二創業補助金」がある。起業に係る相談受付や申請手続きなどの支援に「企業支援センター」があり、起業・第二創業を目指すUターン起業家向けの「ふるさと企業支援事業」がある。これら財政支援を利用しながら、自分が目指す農業、それを実現してほしい。

2.都市部から農山村移住の実現むけた家探しサポート

 農業を始めるということは、同時にそこに住居を構え、その地域で生活すること。つまり移住も併せもっている。このとき移住するにしても、頭で描いている田舎暮らしのイメージと、現実には乖離が生じる可能性が高い。その乖離を埋めてもらうために、情報を収集したり、地元の方と交流したり、田舎暮らしを体験したりして、いくつかのステップを踏んだのち、移住のための家探しに至るであろう。

 

 知りたい情報は世代によって異なってくる。たとえば買い物や通勤にマイカーは必需品なのか、電車やバスの便数などはどうなっているのか。交通の利便性から始まり、冬には雪が降るのか降らないのか、降るとしてもどの程度降るのか、スノータイヤの着用は必須なのかといった地域の気候、春祭りや秋祭りに奉納相撲など地域の行事に、自治会や道路や河川の掃除などの共同作業といった風土や慣習はどうなっているのだろうか。誰しも共通して知りたい情報、そして保育や教育などの子育て環境や病院や福祉施設などの医療環境などの情報も欠かせない。そして情報を得るなかで、地元の方や移住OBの方と交流の機会も望むところ、そのような交流の場を養父市では、田舎暮らし倶楽部などで提供されている。

田舎暮らしの体験

 情報や交流を重ねつつ、田舎暮らし体験も養父市ではいくつかのタイプで提供されている。たとえば入居期間最長1年間で賃貸料が1か月1万円(光熱水費等は別途)で実際の地域の暮らしが体験できる「ちょこっと暮らし住宅」がある。また住むまでは難しいけど交流や1泊2泊の宿泊などを通して田舎暮らしに触れてみたい場合は、養蚕古民家を改修した1棟貸切で平日1人あたり2800円(自炊)の簡易宿泊施設の「ふるさと交流の家いろり」、農業体験や郷土料理体験などの経験をしながら養蚕農家住宅を改修した宿泊施設の「みやがき結の里」が用意されている。

住まいのサポート

 そしていざ移住を決めたときには家探しに必要なサポートとして、住まい探しや住宅支援制度がある。理想なマイホームを得たい、憧れの古民家に住みたい、手ごろな値段の賃貸住宅に住みたい。それぞれ思い描く家探しは異なるであろう。各自の希望に応じて、たとえば家を建てたい場合は「新築奨励金」「住宅リフォーム」「増加築奨励金」などの支援がある。古民家の場合であれば「空き家バンク」で情報収集し、「空き家購入奨励金」で購入への補助を受け、「空き家活用支援事業」で購入および賃貸後に水回りの改修など設備改善の工事への補助がある。さらに賃貸であれば「民間賃貸住宅入居奨励金」が用意されている。

 

 国内には人口5万未満の自治体が多数ある。それら自治体は迫りくる人口減少問題に対して、自分たちの強みを生かしつつ小規模自治体の挑戦は続く。都市部に住む若年層を農山村移住というプロジェクトも、小さな自治体が掲げた大きなプロジェクトである。今後も「田園回帰」に向けて様々な一手を打ち続けていく。