選挙の年に高校で開催されるノルウェーの模擬選挙。現地で「学校選挙」と呼ばれる行事は、本物の選挙の1週間ほど前に結果が開票される。

  • 各政党の青年部が高校を訪問して、右派や左派の政策の違いを理解し、議論の仕方を学ぶ「学校討論」
  • 校庭などで各政党がスタンドを設けて政治の質問ができる「選挙広場」

学校討論と選挙広場は基本的にセットで同じ日に開催される。

その後、別の日には社会の授業で生徒たちが各政党になり切り、発表や討論をする。

そして、いよいよ「投票日」がくる。

学校選挙の投票は、実際に投票会場が手作りされる。手作りの投票用紙で「投票の練習」を実際にすることもあれば、デジタル投票するなど、学校それぞれだ。

今まで私はこの投票日を取材することがなかったのだが、今年はとうとうこの現場にも行くことができて、とても興奮した。

「模擬選挙」は他国でどう行われているかの事例として、関心のある方には良い資料となるのではないだろうか。

では、写真盛りだくさんで見てみよう。

投票呼びかけ案内も高校生の手作り

オスロにあるOslo by steiner高校
オスロにあるOslo by steiner高校

玄関から入ると、廊下の天井に「学校選挙 投票しよう」「301教室へ 10時30分~14時30分」とペンで書かれた紙がある。

階段のある廊下には、投票日前までに貼られていたのであろう、学校選挙を呼び掛けるプリントがあった。投票できる政党名が並ぶ。

3階の教室が投票会場になっていた。「9月6日月曜日 学校選挙!」とカラフルなポスターがある。

投票する生徒を音楽とダンスで出迎える!

この投票会場の入り口では、奇妙な光景が私を待ち構えていた。

音楽が響き、照明がキラキラと、高校生たちが踊っているではないか。

この投票会場を手作りしているのは社会科を主専攻としている高校生。「投票に来る高校生を歓迎するには?」と考えた結果、クラブ空間をつくることになったそうだ。

DJも高校生。現場に教師はおらず、信頼して高校生たちに任せている。

投票箱も、投票用紙も社会科の授業で手作り

投票会場に入ると、このような風景。私はもうずっと取材したかった場所に来て、心の中で興奮しまくり。

箱に書かれた「Flytteeske」は「引っ越し箱」という意味
箱に書かれた「Flytteeske」は「引っ越し箱」という意味

投票用紙を記入するブース3つは、段ボール箱や演劇部から借りた布で作ったそうだ。

「ノルウェーでは民主主義がこう手作りされているのね」と私は感動する。

これが投票用紙。「あなたが投票したい政党に印をつけてください。もし複数の政党に印をつけたら票は無効となります。白票で投票することも可能です。その場合はどの政党にも印をつけないでください。選挙は匿名で秘密です。ただし統計として把握するためにジェンダー・学年・専攻コースを希望者は書いてください」と書かれている。

後で生徒が票をまとめている時に関心したのが、ジェンダーが3種類あったこと。男性・女性に加え、Xは「どちらでもない」を意味する。

投票率80.8%の高校の現場の空気はどんな感じだろう

学校選挙の開票結果については別レポートするが、各校の投票率は後ほど発表された。Oslo By Steiner高校では、 480人の生徒がおり、388人がこの日に投票に来たため、結果としてこの学校の投票率は「80.8%」だった。

ただし学校選挙の全体の2021年の投票率は68.8%と低め。これはコロナ禍でワクチン接種が完了していない若い世代で感染者数が広がり、欠席している生徒も多いことが関係しているだろう。2015年から2019年の間の過去3回の全国の学校選挙は、どれも80%を超えた高い投票率だ。

いずれにせよ全国レベルでの投票率と比較すると、この学校の投票率はかなり高い。

どの学校の教育者も、投票率が高いとそれを誇りに思う。80%越は満足だろう。

投票会場には次々と生徒が来た。義務ではないので、投票したい人だけが来る。

手作りのブースで、用意されていたペンですぐに記入。コロナ禍なので、この日に登校していない生徒はデジタル投票をするそうだ。

投票用紙を記入したら、受付で担当の高校生たちが名前を聞いて名簿に印をつける。複数投票する人を防ぐためだ。

あとは投票箱に四つ折りにした紙をいれて、完了!

この投票箱だけは、学校選挙の度に同じものを使用しているそうで、先輩たちが作ったお下がりとなる。恐竜の置物がなぜか置かれており、遊び心が至る所で見られる。

会場後ろ左側にいて、イスに座りながらスマホをいじっている高校生は何をしているのだろうか?彼らはこの後の開票作業が担当。それまでは、おしゃべりしたりスマホをいじって、待っているのだ。

投票してどうだった?

ユーネさん(16)は初めての投票で「ドキドキした」と取材で語る。「学校討論は政党の政策を理解するのに役だったし、おもしろかった。どこに投票するかを決めるのは難しくなかった」そうだ。

「投票に参加するのは義務じゃなかったけれど、投票の練習をしたかった。今年の国政選挙ではまだ投票権はないけれど、次の選挙では投票したい」と話す。

ドリアンさん(15)「これが初めての学校選挙での投票だったんだ。うまくいったし、楽しかったよ。政党の政策をしっかり理解することができた。ノルウェーで政治を勉強することは難しいかって?僕はそう思わないよ。政治が好きだからね」

フレデリックさん(17)「投票するのって、楽しいね。投票するのってどういう感じなんだろうって、体験したかったし、もっと勉強したかったんだ。いつかの本当の選挙では、うん、投票すると思うよ」

楽しく、自由に、フレキシブルに

投票会場の責任者である高校生たちは、深刻な顔で会場を運営しているわけでもない。笑いながら、お菓子を食べながら、「暇だ」と急にネイルしたりする人もいて、自由だ。

開票する・票を数える練習までできる

14時30分になって、投票会場はクローズした。なんと、この後始まったのは、「票を数える」という作業。

「そこまで高校生が自分たちでやるんだ!」と私はまた感動していた。

箱の中の紙を出す。箱は3箱あり、「1年生」「2年生」「3年生」用と別れていたので、数えるグループも3つに分かれる。

驚いたのが、投票用紙を集計する時にエクセルを使うのだが、3グループ共有の票は用意されていなかった。

だからその場で「どうやってまとめる?」「うまくいかない」「これだと後でまとめにくいよ」「エクセル得意な人はだれ」とドタバタだった。

先生に、エクセルの票を事前に用意するとかしないんですねと聞くと、「この子たちは、自分でできるから」という返事。子どもはこうして育つ。

ステイングリムル先生はたまに様子を見に来るだけだった
ステイングリムル先生はたまに様子を見に来るだけだった

票を数える高校生。後ろの黒板には投票にきた人たちに向けて、「ようこそ」と書かれている。

「そっちのエクセル、どういうまとめ方してる?」

開票作業は続く。

片付け班もいて、入り口前にあった音楽機材や段ボール箱の投票ブースを掃除していた。

開票会場を作ったひとりであるミア(19)さんに話を聞いた。

あぶみ「学校選挙に参加したり、投票会場の運営に関わることで、社会科の成績には影響するの?」

ミアさん「成績表には影響はないけれど、私たち自身には影響を与えています。とても勉強になるから」

「どうやって投票会場を運営するかは、クラスで話し合って決めました」

運営に関わる高校生は、この日は他の授業に参加できないことになるが、すでに先生たちには連絡されているなので問題ないそうだ。

投票用紙を読み上げるミアさん(左)と、結果をエクセルに記入する人たち
投票用紙を読み上げるミアさん(左)と、結果をエクセルに記入する人たち

あぶみ「投票に来る生徒はどんな感じだった?」

ミアさん「たくさんの人が、どうやったらいいんだろうと困惑していたかも。でも多くの人は、どの政党と考えが一番近いか、なんとなくわかっています」

あぶみ「学校選挙は、政治を理解するのにどのように役立っている?

ミアさん「高校が学校選挙をすると決めることで、選挙に関心が向きます。生徒も積極的に関わって、理解しようとする。学校討論をみることでも、どんどん選挙が気になってくるし、自分の考えもどんどん形になってきます」

ディオさん(18、写真右)「学校選挙があることで、自分が18歳という投票できる年までの準備ができるようになります。それにオスロの各高校の投票結果を比べるのも、おもしろい」

投票会場がまさかここまで手作り感であふれ、開票・集計作業まで高校生たちがしているとは頭になかったので、私は感心しきりだった。

学校討論で政党の違いや議論の仕方を学び

投票広場で政党と話し

投票を練習をする機会が高校という教育現場にある・ないとでは、

「初めて投票する人」の投票率は恐らく全く違うものになっているのだろう。

「これが社会科の授業か」。

ノルウェーに住んで13年目。この国は、今も私に良いカルチャーショックを与えてくれる。