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校庭で政治の話をしよう。コンドームをどうぞ。ノルウェー高校の模擬選挙「選挙広場」とは?

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
政党と高校生が交流するきっかけとなる「学校選挙」という行事 撮影:あぶみあさき

ノルウェーでは選挙の年になると、「いつか投票するの日」のために、学校で政治家と一緒に政治を勉強し(社会科)、投票の練習をすることができる。

高校での「模擬選挙シーズン」では、各政党の青年部による「学校討論」が行われる。討論後は、校庭で「選挙広場」というものがオープンしている。

Oslo by Steiner高校での学校討論の直後、体育館を出ると目の前はこのような感じになっていた
Oslo by Steiner高校での学校討論の直後、体育館を出ると目の前はこのような感じになっていた

「選挙討論」の後の、「選挙広場」ってなに?

学校討論では、各青年部の代表の討論を「聞く」ことが中心。

右派左派の政策の違い、若者のための政策は何を掲げているのかを知り、意見が違う相手と「どう議論するのか」を学ぶことができる。

聞いているだけだと、自分の考えを言葉にしたくなったり、もっと直接質問したくなるものだ。

そこで、「選挙広場」では、各青年部の党員たち(生徒と同じ世代)が、学校の玄関や校庭などに政党のスタンドを立てる。

「政治のおしゃべり」空間が校内にできるのだ。

保守党・青年部のスタンド、奥は進歩党・青年部
保守党・青年部のスタンド、奥は進歩党・青年部

若者に人気!コンドームを無料配布

緑の環境党の青年部スタンド。「もう2021年だよ」という帽子と、「排出量ゼロ」という文字がデザインされたコンドーム
緑の環境党の青年部スタンド。「もう2021年だよ」という帽子と、「排出量ゼロ」という文字がデザインされたコンドーム

広場では若い世代が喜ぶものが無料配布されていて、コンドームや文房具、お菓子が目立つ。

ほとんどの政党でコンドームが無料配布されている。大人向けの市内の選挙小屋(スタンド)では、避妊用具はあまり見かけないので、学校という場所ならではの光景となる。

スウェーデンの政党の青年部も言っていたが、若い世代はコンドームの無料配布をとても喜ぶのだ。

若い世代が必要なものを無料配布、そこに党の価値観をどう練り込むか?

保守党・青年部が無料配布していたものは、党のロゴや「自由」という文字が書かれたペンや定規。スマホのチャージャーという豪華なプレゼントは、党員登録をした人にあげる
保守党・青年部が無料配布していたものは、党のロゴや「自由」という文字が書かれたペンや定規。スマホのチャージャーという豪華なプレゼントは、党員登録をした人にあげる

自由党・青年部のスタンド。「自由のために立ち上がろう」という文字が書かれたコンドーム。左上はコロナ禍なので消毒液。右下は政党バッジ。子どもや若者の中には政党バッジを集めるのが趣味の人もいる
自由党・青年部のスタンド。「自由のために立ち上がろう」という文字が書かれたコンドーム。左上はコロナ禍なので消毒液。右下は政党バッジ。子どもや若者の中には政党バッジを集めるのが趣味の人もいる

校内で政党に勧誘してもOK

会員を増やすことも青年部の狙いだ。ノルウェーでは政党の党員になることは日本よりも敷居が低い行為。

どこの政党でも、青年部の党員になれば、自動的に母党の党員としても登録される。

保守党の党首でもある首相の顔がデザインされた会員登録の紙。年会費は100ノルウェークローネ(およそ1270円)
保守党の党首でもある首相の顔がデザインされた会員登録の紙。年会費は100ノルウェークローネ(およそ1270円)

友達が政党スタンドに立っていることもある

党員の多くは10~20代で、学校の生徒自身が政治活動をしていることもある。「友達が政党スタンドにいた」ということは珍しくないのだ

自由党・青年部のスタンド
自由党・青年部のスタンド

政治と若い世代を近づける「若者向けの話題」

配布されている冊子なども若者や学生向け。労働党・青年部では「みんなのための学校」「世界は貧しいのではなく不公平なだけ」などの文字が
配布されている冊子なども若者や学生向け。労働党・青年部では「みんなのための学校」「世界は貧しいのではなく不公平なだけ」などの文字が

政党のパンフレットやシールを見ていると、現地で話題の「学校政策」や若い人が関心を持っている話題は何なのかを知ることができる。

政治がわかりやすく説明されるので、自分の考えも育てやすい、

青年部は、「若い世代と政治の間にある距離」を小さくするエキスパートだ。

ノルウェーでは成績・試験制度は若者が政治に熱心になる分野のひとつ、左派社会党のシールには「試験をなくそう」の文字が
ノルウェーでは成績・試験制度は若者が政治に熱心になる分野のひとつ、左派社会党のシールには「試験をなくそう」の文字が

赤党・青年部には「気候ストライキ」「別の世界は可能だ」「アンチ差別ゾーン」「ストップ中央政権」
赤党・青年部には「気候ストライキ」「別の世界は可能だ」「アンチ差別ゾーン」「ストップ中央政権」

赤党「問題はシステム(制度・構造)だ!」という言葉。「個人の責任で終わらせるのではなく、そうなってしまった社会構造は何かを考えよう」はノルウェーでよく議論の際に繰り返される表現だ
赤党「問題はシステム(制度・構造)だ!」という言葉。「個人の責任で終わらせるのではなく、そうなってしまった社会構造は何かを考えよう」はノルウェーでよく議論の際に繰り返される表現だ

「投票できるなら、したかった!」

選挙広場を歩いていたのは、おでこに地球の絵を描いていた高校生のガブリエルさん(17)。選挙討論の感想を聞いて見た。

ガブリエルさん「不公平だった!」

あぶみ「どうして?」

ガブリエルさん「だって、この学校はもともと左派寄りの学生ばかりが多い。右派が何を主張したって、どうせ生徒は同意しない。どの政党が模擬選挙で勝つか、そんなの、みんな分かっていたじゃないか」

ガブリエルさん「未成年だから今年は国政選挙で投票できないけれど、投票できるものならしたかった!緑の環境党にね」

・・・・・

自分と同じ世代の党員が討論していて、対面で話すことができる。「政治」という世界のおもしろさに一歩を踏み出しやすい工夫が、学校選挙にはたくさん詰まっていた。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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