ミレニアル世代ドラマ?アイルランド発『ふつうの人々』が人気の理由

Photo:NRK

アイルランドのドラマ『ふつうの人々』がなんだかいいらしい。

という記事を2020年になってから英国や北欧諸国のメディアで何度か目にしていた(スウェーデンもロケ地)。ちょうどノルウェー公共局NRKでも配信が始まったので、私も鑑賞してみた。

ドラマはアイルランドの作家であるサリー・ルーニーのベストセラー小説『Normal People』(2018)が原作。

西アイルランドにある小さな町の高校に通うコネルとマリアン。人気があるコネルとは対照的に一匹狼のマリアンだが、2人は次第に惹かれ合う。

Photo:NRK
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コネルの母親は裕福なマリアンの家の掃除をしながら働いている。金銭的に恵まれた家庭で育ってはいるだがマリアンの家族関係は悪化の一途をたどっていた。

学校では人気のない上流階級のマリアンと関係を持っていることを知られたら周囲はどう反応するか?考えるだけで不安に襲われるコネルの不安から、2人はこっそりと関係を続けていた。

12のエピソードからなるシリーズでは18歳の2人の恋愛関係を高校から大学時代を追って伝えていく。

ノルウェー公共局では評価が最高点のサイコロ6点。友情、恋愛、大人になる過程を描きながら、孤独とメンタルヘルスという現代の社会問題をリアルに描いたことが絶賛されている。

最初の高校時代を描いた3話はのんびりとしていて、私はまだのめりこめずにいた。途中で「見るのをやめようかな」とも何度も思った。しかし、「ここまで話題になるのには理由があるのだろう」という好奇心で最後まで見続け、大学時代となる中間から後半にかけては、面白さが一気に加速した。

私個人的には、ただの若者の恋愛ドラマで終わらせずに、

  • 性行為シーンを何度も長時間流す
  • 不安障害、うつ病、孤独というメンタルヘルスが大きなテーマになっている
  • 日常生活に隠れた家庭内暴力と性暴力を取り上げている
  • 伝統的な男らしさのイメージを押し付けない(コネルはたくさん泣くし、自己肯定感が低い)

というようなことを高く評価したい。

ポルノとは違うセックスシーンを描写

インターネットの普及で、過激で誤解をうむ性描写をしたアニメ・漫画・動画などを望んでもいないのに広告として目にしてしまう現代。ポルノをセックスの教材にする人もいることはノルウェーでも問題になっており、だからこそ「普通の」セックスを隠さずに伝えることが重要だとも言われている。

「ノーマル・ピープル」ではセックスシーンが驚くほど何回も、延々と放送される。しかし男性が主体となった乱暴なものではなく、もっと自然に過激な演出はせずに描かれている。全部のセックスシーンがそうというわけではなく、力関係が上にある男性側が女性を支配する形での危険性のあるシーンもある。多くのメディアでもセックスシーンの多さがこのドラマの良さをより深めているとも評価している。

誰もが心の病気を患ってもおかしくはない現代で

Photo:NRK
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現代に生きる人々のメンタルヘルス問題を様々な角度で取り上げている。階級の違う者同志が惹かれ合う時の葛藤、金銭的に余裕がない家庭で育ち学業を続ける苦労、みんなの中に溶け込めない・溶け込もうとするけれどうまくいかない悩み、言葉や身体的な暴力を浴びせる人々など、さまざまな問題の中で生きている中で発生する不安障害、うつ病、孤独。10代から20代に成長していくなかで、若者が抱える心の迷いをドラマはずっと伝え続けている。

私自身もパニック障害になり、ノルウェーでカウンセリングなどに通ったので、ドラマを見ていて共感するシーンもあった。心の病気は今は誰もが抱える可能性のあるものだ。「気持ち次第でなんとかなる」と思っている人がまだまだ多い現代で、体の病気と心の病気が同じくらい深刻に理解が深まるためにも、いろいろな形で現代の心の病気が伝えられることは重要だと思う。

1話30分、映像の美しさ、どんより世界観

1話が30分という短さも現代のドラマならではだ。とはいえ、全体的にテンポが良いというよりは、のんびりと・どんよりとした調子で進むので、1話が30分以上かのように私は感じた。全体的にどんよりした雰囲気はアイルランドという撮影舞台の美しさと天候にも関係している。光と影の美しさを見せる映像テクニックも素晴らしい。

スローな時間軸で進むためテンポの良いドラマとは対照的だが、「今はこういうドラマという選択肢もあっていいな」と思わせる作品だった。

ミレニアル世代ドラマ

ミレニアル世代とは980年代序盤から1990年代中盤までに生まれた世代で、インターネット環境が整ったころに育った最初の世代でもあり、前の世代とは価値観が異なるといわれている。

このドラマが「ミレニアル世代のドラマ」という評価が出ているのもうなずける。

日本では2020年7月17日、STARZPLAY(Apple TVチャンネルにて視聴可)にて配信がスタートしているようだ。

Text: Asaki Abumi