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コロナ疲れのあなたへ。ノルウェー公共局が「子猫を延々と」放送中

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
自宅でどう過ごす?猫をひたすら見る?Photo:Odd Skjerdal/NRK

ノルウェー政府は、新型コロナ対策として、幼稚園や学校の休校、可能な限りの自宅勤務、公共交通機関の利用の自粛要請などを、4月13日まで継続すると発表しました。

屋外で集まる場合は、5人まで。同居中以外の他者とは、屋内では2メートル以上の社交的距離を置くことが求められています。

飲食店では、人々の距離を1メートル以上あけることができなければ、営業は禁止となります。

自宅で過ごす時間が増える中、関連ニュースばかりを見て、疲れる人も出ています。

公共局にできることは、なんだろう?とスタッフは考えた

ノルウェーの公共局NRKは、家での時間を少しでも楽しく過ごしてもらおうと、試行錯誤して様々な番組作りをしています。

その中で、話題を集めているひとつが、「いつも、一緒に」という意味の「アルティー・サーメン」(Alltid sammen)というネット番組です。

NRKの音楽番組P3から派生したもので、公式HPで延々と生放送されており、他国からも閲覧可能。

ノルウェー音楽がたくさん紹介され、司会者が楽しいトークで盛り上げていきます。

公式HPでは、番組スタッフと視聴者が、友達のようにチャットも可能。ひとりで自宅待機している人にも、いい気晴らしになっていそうです。

ある日、スタッフは「子猫の様子を、ただ延々と生放送する」ことを思いつきました。

猫をひたすら見続けようじゃないか

番組のスクリーンの中で、走り回る子猫たち Photo:NRK Alltid sammen/Alltid katt
番組のスクリーンの中で、走り回る子猫たち Photo:NRK Alltid sammen/Alltid katt

最初は猫にエサをあげる時など、紹介するシーンを限定していましたが、意外と好評なため、猫だけを見ていたい人のために専用チャンネルもできました。

その名も、「いつも、猫と一緒に」。

気まぐれな猫たちは、寝ていることもあれば、画面の視界にいないこともあります。

余計な編集、説明や解説もありません。

私も猫好きなので、自宅勤務をしながら、パソコンで猫の様子をついついと覗いてしまいます。

スローテレビの国

ノルウェーの公共局といえば、暖炉、鉄道旅行、釣り、編み物など、さまざまなシーンを延々と放送し続ける「スローテレビ」で過去にも注目を集めました。

今回、子猫のスローテレビは、どういう経緯で立ち上がったのか?

NRKの番組担当者のアーラン・ステッディングさんに電話をして聞いてみました。

Photo:NRK Alltid sammen/Alltid katt
Photo:NRK Alltid sammen/Alltid katt

「コロナ対策が日々発表される中で、市民同士のつながりを強めるために、なにかしようとスタッフで話し合っていました」

「スローテレビのコンセプトは、ぜひ入れようと思ったんです。視聴者からは、『ヒュッゲリだね』といつも好評な番組なので」

「ヒュッゲリ」とは、ノルウェーやデンマークにある概念で、「ほっとする」というような意味だ。

ステッディングさん Photo: NRK
ステッディングさん Photo: NRK

「じゃあ犬にしようか、爬虫類館からの生放送にしようか、と考えました。結果、猫のブリーダーの家からということになったんです」

猫の品種はメインクーン。20匹の猫のうち、14匹が子猫だ。最も大きい猫は体重が8キロ。

それぞれにイェスパー、カタリーナ、イェスパー、カタリーナ、ケンドラ、カフカなどの名前がある。Photo:NRK Alltid sammen/Alltid katt
それぞれにイェスパー、カタリーナ、イェスパー、カタリーナ、ケンドラ、カフカなどの名前がある。Photo:NRK Alltid sammen/Alltid katt

日本から視聴する人も!

すると、スタッフに思わぬ反応が届いた。日本からの視聴者が増えているのだ。

NRKは、以前からほとんどの番組を、国境制限をかけずに公式HPで公開している。

「先日の夜中、日本からたくさんのハートが届き始めたんです」

サイトでは、視聴者が動画を見ながら、「いいね!」、笑顔、ハートマーク、マスクをしている人などの絵文字を選んで、好きなだけクリックすることもできる。

番組スタッフは、日本からの予想外の視聴者の存在を、とても喜んでいた。

冒頭写真の猫とカメラを撮影したオッド・シェルダルさん Photo: Asaki Abumi
冒頭写真の猫とカメラを撮影したオッド・シェルダルさん Photo: Asaki Abumi

「ノルウェーでは自粛期間中は、番組は続ける予定です。子猫のスローテレビを続けながら、犬や鳥バージョンも放送予定なので、楽しみにしていてくださいね」とステッディングさんは話しました。

  • 「僕はつまらない自宅待機中。猫のテレビは、金曜日の夜を過ごすには最適だ。インターネットがあって良かった!」
  • 「家でひとりで過ごしたいという言い訳に、最高」

チャット欄では、スタッフと視聴者の会話も盛り上がっています。

新型コロナの話題で、受け取る情報の多さに疲れることもあります。メディアにできることはなにか?

家で過ごす時間が多くなる今、NRKのような取り組みが、より必要なのかもしれません。

番組スタッフも猫たちとの交流に癒されているようです Photo: Odd Skjerdal/NRK
番組スタッフも猫たちとの交流に癒されているようです Photo: Odd Skjerdal/NRK

スタッフが休憩中の時は、放送が止まっていることもありますが、画面のアイコンで過去映像に後戻りすることもできます

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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