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ノルウェーで新型コロナ感染者が急増「大丈夫、なんとかなる」のカルチャーが裏目に?

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
新型コロナに感染しているかどうか、病院の外で検査(ノルウェー)(写真:ロイター/アフロ)

北欧ノルウェーで新型コロナウイルスの感染者が急増している。

WHOの4日付の発表によると

  • ノルウェー(人口536万人)32人
  • スウェーデン(人口1032万人)24人
  • アイスランド(人口36万人)16人
  • デンマーク(人口582万人)8人
  • フィンランド(人口552万人)7人

※人口は各国の統計局を参照

感染者の数だけではなく、人口にも注目だ。北欧はどの国も規模が小さい。人口の少なさを考えると、国によっては感染者数がやけに多い。

兵庫県や北海道ほどの人口にあたるノルウェーでは、最初の感染者が確認されてから、たったの1週間で感染者が56人となった。

WHOの発表では32人となっているが、この24時間ほどで、確認された感染者が23人もいるため、最新の数字は56人となる(公共局)。

当初、ノルウェーでは楽観的な見通しをしている人も多かった。38.6万平方キロメートル(日本とほぼ同じ)の面積に、530万人ほどしか住んでいない国。人と人との距離感があり、密集した暮らしではないため、感染しにくいだろうと専門機関は予想していたのだ。

首都オスロにはウレヴォル大学病院があるが、北イタリアの旅行から帰ったばかりの医師が新型コロナに感染しており、病院内で感染者が相次いでいる。

イタリア旅行をしていた医師は、検査をしたほうがいいのではないかと病院に申告していたが、勤務して2日経つまでは症状が出ていなかったため、病院側は検査は必要ないと判断していた。

院内では医療関係者の感染者が5人となり、150人以上が自宅待機となった。

院内で最初の感染者となった医師は、「自分はやはり検査をされるべきだった」と地元メディアに話しており、病院側の体制は批判を浴びている。

在ノルウェー日本国大使館は在住者へのメール連絡で、「ノルウェーは他の北欧諸国に比べ多くの感染者が発生している。これは,ノルウェー国内にいる人の多くが検診を受けていること,及び,感染者の多くがノルウェーの冬休み後に北イタリアから帰国していることに起因している」とも説明している。

現地に住む個人としての体験を語るならば

実は、私は体が弱いほうなので、ノルウェーでは医療機関に常にお世話になっている身だ。

この医師が働いていた日も、私は同じ病院内で診察を受けていた。感染者が出ているのは、眼科の敷地内なのだが、別の科の建物も密接している。迷路のような複雑な造りの建物のため、他の科を歩き回ることにもなるし、どの科の患者でも血液検査は同じ場所でしたりする。だから、眼科内だけの感染の可能性で考える病院には、「おーい」と疑問を感じた。

自宅待機なのにジムに行く人たち

ノルウェー全国各地に検査結果を待ちながら自宅待機をしている人がいる。職場には行かないが、スーパーやジムに行っている人もおり、自宅待機の意味をあまり分かっていない人もいることも報道されている。

ノルウェー公衆保健研究所は、自宅待機中なのに、ジムや人が多い場所に行く人がいることを注意する記者会見をした。

※日本と比べて、ノルウェーの人は「ジムで運動」することに異常な執着があると私は感じている。筋トレで筋肉をつけたり、フィットネスで理想のボディを目指すというような「トレーニング」へのこだわりがより強い。

行事の自粛はあまり見られない

行事などの自粛の動きはあまり大きくはない。

先週は音楽祭の取材に行っていたが、世界中からの音楽関係者が集まるカンファレンスやアワード壇上でも、新型コロナを冗談にして笑っている人が多かった。

スキーW杯の開催は無責任か

6日からは首都オスロでスキーW杯が開催されるが、野宿して観戦する人も多いため、10万人は訪れる大規模なイベントだ。

有料チケットで入場するジャンプなどの会場はまだコントロールがきくだろう。だが、チケットが必要なく、好きな場所で観戦できるクロスカントリースキーのコース周辺となると話は別だ。

観戦中は、周辺の山や森の中で、テントで野宿し、たき火をしてソーセージを食べたり、トイレも足りないために外で排泄し、ゴミは散乱、お酒で酔っ払っている人も多い。

この行事は「W杯」ではなく、現地では「フェス」とも呼ばれている。現場は、「お祭り」の名の通り、まさにカオス状態だ。

このような環境で、咳エチケットや手洗いなどのマナーを観客に求めても、無理がある。

医療関係者からは、「イベントを中止しないのは無責任だ」として批判する声も上がっているが、フェス側はもちろん中止をする気はない。これほどのイベントの中止となれば赤字ともなるだろうし、政府から強制的な指令がない限りは、やめる気がないのも簡単に想像がつく。

「なんとかなるだろう」カルチャーが裏目に

今回のノルウェーでの対応などを見ていると、ノルウェーらしい

  • 「きっと大丈夫、なんとかなるだろう」
  • 「リスクなどは事前に心配して考えない。何か起きたら、その時に考えて、柔軟に対応しよう」
  • 「そんなことを言われても、それは私の管轄外だ。私に聞かないで、他の人に聞いてほしい」(責任のたらい回し)

というカルチャーが、裏目に出ているなと感じる(通常であれば、このカルチャーは、働きすぎや、無駄な不安・ストレスを減らす良い効果もある)。

日本と比べて、「他人に迷惑をかけてはいけない」というカルチャーもあまりないため、自分の行動によって感染が広がるかもしれない・うつすかもしれないという心配度も低いと、私は感じている。

寒い国では感染しやすい?

オスロ大学のグロデランド教授は、「暑い気候の地域よりも、寒い気候の地域のほうが、コロナウイルスは感染しやすい」としており、現地の保健当局も、気温と乾燥との関係性は認めている。

「ノルウェー、スウェーデン、アイスランド、フィンランドとの気温はあまり変わらない。近所の北欧諸国とは、この特殊な課題については共に対応を協議している」と保健当局はノルウェー公共局に話している。

現地メディアでは専門家たちの議論が続くが、「ノルウェーではコントロールができている」と楽観的に捉える人や、「イタリアのようになるだろう」と今後を厳しく予想する人と、反応はさまざまだ。

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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