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スウェーデン選挙の人間ドラマ 北欧の選挙運動 写真レポート(1)

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
ロヴェーン首相のポスターが首都ストックホルムに溢れる Photo:A Abumi

9日に開催されたスウェーデン総選挙。

この国では、4年ごとに、国政選挙、地方選挙(県・市)という3種類の選挙が、同じ日に同時におこなわれる。今年の国政選挙の投票率は84,4%。

隣国ノルウェーでは、国レベルと地方レベルの選挙は、違う年に行われる。

3種類分の選挙の投票先と政策を、一度に考えなければいけないスウェーデン選挙は、より大変そうだなと感じた。報道も、国レベルの政治が中心になってしまい、地方政治が見逃されがちだ。

色で区別されている国会・県・市レベルの投票用紙 Photo: Asaki Abumi
色で区別されている国会・県・市レベルの投票用紙 Photo: Asaki Abumi

ノルウェーに住む私は、普段はノルウェー政治を中心に取材しているが、言語が近い隣国スウェーデンの情勢もニュースなどでは追っていた。

両国では、政治や選挙活動はどのように違うのか。

「極右」の支持率が急上昇中という、極端な描写がされやすいニュースだけを通しては、全体像は見えてこない。

スウェーデン極右の顔として国際メディアを賑わす、スウェーデン民主党のオーケソン党首 Photo: Asaki Abumi
スウェーデン極右の顔として国際メディアを賑わす、スウェーデン民主党のオーケソン党首 Photo: Asaki Abumi

現地に実際に行かなければ、わからないことも多い。今回は1~10日まで、首都ストックホルムへと足を運んだ。

政権交代を狙う、右派ブロックのリーダー、穏健党のクリステルソン党首のポスター Photo: Asaki Abumi
政権交代を狙う、右派ブロックのリーダー、穏健党のクリステルソン党首のポスター Photo: Asaki Abumi

ノルウェー語ができると、スカンジナヴィア諸国となるスウェーデンとデンマークの言語は、なんとなくわかる。

私が10日間で見たスウェーデンは、ノルウェーでの考え方や政治情勢に慣れた、外国人である日本人の私のメガネを通してみたものだ。

どんな国にしたい?「より良いスウェーデン」を賭けた3ブロックの戦い

中央駅前で、各党の代表が議論 Photo: Asaki Abumi
中央駅前で、各党の代表が議論 Photo: Asaki Abumi

今回の選挙は、各政党が3ブロックで分かれた。

「右派ブロック」、「左派ブロック」、そして、国際的にも話題を集めたポピュリスト政党でもある「スウェーデン民主党」1党でなるブロックだ。

スウェーデン国会では、スウェーデン民主党は極右・右翼ポピュリストに位置するが、国レベルでは両派から連立を拒まれているため、独自ブロックとして現地では語られている。

ストックホルム中央駅に着くと、至るところに政党ポスターが貼られていた。ノルウェーほど規制されていないようで、街中で見かけるポスターの数は多い。

穏健党ポスターの下に、ライバルの社会民主党のポスター Photo:Asaki Abumi
穏健党ポスターの下に、ライバルの社会民主党のポスター Photo:Asaki Abumi

ポスターは落書きされていたり、はがされていたりと、市民の小さな意思表示が見られた。

賛否両論のスウェーデン民主党のポスターだけが、嫌がらせのようにはがされている Photo: Asaki Abumi
賛否両論のスウェーデン民主党のポスターだけが、嫌がらせのようにはがされている Photo: Asaki Abumi

選挙直前、各党必死の呼びかけ

日曜日の昼間、投票日の1週間前。中央駅前で開催されていた、ディベートに、市民は足を止める Photo: Asaki Abumi
日曜日の昼間、投票日の1週間前。中央駅前で開催されていた、ディベートに、市民は足を止める Photo: Asaki Abumi

スウェーデンでもノルウェーでも、選挙の度に投票先を変える人は多い。

どの党も、意外と大きな違いはなかったりもする。

スウェーデン有権者の60%が、選挙直前まで、どの党に投票するかまだ決められずに、迷っていた。

各党の毎日の選挙運動にも、熱がこもる。

各地では事前投票会場もオープンしていた。有権者は749万人以上。今年は267万人以上が事前に投票を済ませた Photo: Asaki Abumi
各地では事前投票会場もオープンしていた。有権者は749万人以上。今年は267万人以上が事前に投票を済ませた Photo: Asaki Abumi

各地には、私が「選挙小屋」と呼んでいる各政党のスタンドが設置されていた。スタンドの形は様々で、場所によっても異なる。

中央駅前の選挙スタンドエリア。カラフルな色は各党のシンボルカラー Photo: Asaki Abumi
中央駅前の選挙スタンドエリア。カラフルな色は各党のシンボルカラー Photo: Asaki Abumi

ノルウェーの政党は、選挙小屋を次の選挙でもリサイクルすることが多い。スウェーデンでは、スタンドは売られ、毎年新しくされているようだ。

穏健党(右派)のスタンドは、先へと進む電車を意識したデザイン。行き先には「未来」と表示されている Photo: Asaki Abumi
穏健党(右派)のスタンドは、先へと進む電車を意識したデザイン。行き先には「未来」と表示されている Photo: Asaki Abumi
環境政策をアピールしたい政党は、屋根にソーラーパネルをつけていた。緑の党(左派)は、ソーラーパネルから得たエネルギーで、スマホの無料充電を提供 Photo: Asaki Abumi
環境政策をアピールしたい政党は、屋根にソーラーパネルをつけていた。緑の党(左派)は、ソーラーパネルから得たエネルギーで、スマホの無料充電を提供 Photo: Asaki Abumi
今年はコンテナ型スタンドが人気。ノルウェーの報道陣らの姿も毎日見かけた Photo: Asaki Abumi
今年はコンテナ型スタンドが人気。ノルウェーの報道陣らの姿も毎日見かけた Photo: Asaki Abumi
あなたにとって大事なトピックはなに?学校、病院、平等、仕事、環境、外国人の社会統合など、市民にシールで投票してもらう(右派・自由党) Photo: Asaki Abumi
あなたにとって大事なトピックはなに?学校、病院、平等、仕事、環境、外国人の社会統合など、市民にシールで投票してもらう(右派・自由党) Photo: Asaki Abumi
選挙運動中に無料配布できるものには、厳しい規制がない。キャンディー、ペン、植物の種、コンドーム、カットバン、キッチンタオル、フルーツなど、様々なものが配布される Photo: Asaki Abumi
選挙運動中に無料配布できるものには、厳しい規制がない。キャンディー、ペン、植物の種、コンドーム、カットバン、キッチンタオル、フルーツなど、様々なものが配布される Photo: Asaki Abumi
農家から支持されているという中央党(右派)。中央駅内に大きなスタンドスペースを設けており、党の金銭的な余裕が垣間見られた。党首(左)も市民との対話に足を運ぶ Photo: Asaki Abumi
農家から支持されているという中央党(右派)。中央駅内に大きなスタンドスペースを設けており、党の金銭的な余裕が垣間見られた。党首(左)も市民との対話に足を運ぶ Photo: Asaki Abumi
野党・右派最大政党である穏健党の戸別訪問についていった。夕方、50以上の家のドアを叩き、「質問はありますか」と尋ねる Photo: Asaki Abumi
野党・右派最大政党である穏健党の戸別訪問についていった。夕方、50以上の家のドアを叩き、「質問はありますか」と尋ねる Photo: Asaki Abumi
スウェーデンで極左とされる左翼党。ヤコブスベルグ地区の病院をリニューアルするかしないかの議論で反対の立場。「今から病院に向かってデモ行進よ!」と女性たちが笑顔で張り切る Photo:Abumi
スウェーデンで極左とされる左翼党。ヤコブスベルグ地区の病院をリニューアルするかしないかの議論で反対の立場。「今から病院に向かってデモ行進よ!」と女性たちが笑顔で張り切る Photo:Abumi

ヴァーサ公園では、穏健党(右派)と社会民主党(左派)による市長候補の議論対決が繰り広げられていた。

両党の党員たちは、大きなプラカードを持って、一生懸命応援する Photo: Asaki Abumi
両党の党員たちは、大きなプラカードを持って、一生懸命応援する Photo: Asaki Abumi
2人の女性市長候補は、ノーベルセンターの建設、物乞いの禁止など、地域選挙ならではの議論を繰り広げた Photo: Asaki Abumi
2人の女性市長候補は、ノーベルセンターの建設、物乞いの禁止など、地域選挙ならではの議論を繰り広げた Photo: Asaki Abumi
観光エリアであるガムラスタンは、規制がされているのか、政党ポスターなどは一切見られなかった。このエリアだけにいると、この国で選挙が起きているなんて、みじんも感じなかっただろう Photo: Abumi
観光エリアであるガムラスタンは、規制がされているのか、政党ポスターなどは一切見られなかった。このエリアだけにいると、この国で選挙が起きているなんて、みじんも感じなかっただろう Photo: Abumi

「スウェーデン選挙 現地写真レポート(2)」へ続く

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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