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AirbnbやUberは北欧ノルウェーでどうなのか?ベルゲンで民泊を試してみた

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
Photo: Asaki Abumi

ネガティブな報道が目立つシェアリングエコノミー

AirbnbやUberは、ノルウェーにも進出している(Uberは進出して「いた」になりつつあるが)。

だが、新聞やテレビでのニュースを見ていると、圧倒的にネガティブな報道しか、筆者は見かけてこなかった。

Airbnbにおいては、

  • オスロの賃貸者が宿泊者の個人情報を盗み、航空チケットなどを購入していた
  • 宿泊先がパーティー会場となり、現場が荒らされていた
  • 宿泊先が売春宿として悪用されていた、など

Uberにおいては、さらに風当たりが強かった。安い価格帯が、物価の高い現地のタクシー業界に衝撃を与え、労働環境や納税などの問題でも政治レベルで問題に。昨年、オスロ警察は、Uberの一部のサービスを違法だと結論づけた。リムジン配車においては、今もUberは合法で継続中。

このようなニュースばかりが記憶に残り、どれだけ市場にポジティブかという伝え方は、あまり目立たない。

既存ホテルやタクシー業界の問題点が、同じレベルで報道されないことを考えると、不公平だなとも思う。

筆者はノルウェー現地のタクシーをよく使うが、ただでさえ問題も起きやすいので、クレームする時に責任者があいまいなUberを使う勇気はまだない。

6月は、ベルゲン都市に出張する機会があったので、ドキドキと初めてAirbnbを使ってみた。

人気の観光地でAirbnbを試してみた結果は?

北欧家具にあふれた家の中で、走り回る犬
北欧家具にあふれた家の中で、走り回る犬

出張中に、宿泊先でトラブルが起きて、クレームでエネルギーを無駄に使うことは避けたかった。「スーパーホスト」に認定されている3棟をチョイスし、5泊した。

「何か問題が起きたら、それもネタにしよう。予想外のことが起きるのが、旅だし」と構えていたのだが、何も問題なく、むしろホテルに泊まっていた時よりも、楽しく充実した時を過ごせてしまった。

ドキドキの最初の1棟目、ホストのフランクさんは、家を丸ごと貸し出しており、近くの建物に住んでいた
ドキドキの最初の1棟目、ホストのフランクさんは、家を丸ごと貸し出しており、近くの建物に住んでいた

ノルウェーでのAirbnbは、「思っていたよりも良くなかった」という個人体験談も周囲から聞いていたので、筆者は運がよかったようだ。

知人の日本人は、オスロでのAirbnbで、ゴキブリが何匹も出る家にあたってしまったらしい(寒い国なので、ゴキブリ自体がそもそも珍しい)。

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新しい観光スポットが増えるノルウェーで、宿泊施設が増えてほしい理由

オーロラ、フィヨルドなど、「自然や絶景」観光客が圧倒的に多いノルウェー。だが、このような自然を目的とする地域は、自然の中にあるため、必ずしもインフラが整っているわけではない。

特に、ここ数年で一気に話題になり始めている、新しい「セルフィー絶景スポット」である、「トロルの舌」や「ロフォーテン諸島」などは、都市から離れている。

絶景写真がSNSで広まり、観光客が押し寄せたトロルの舌
絶景写真がSNSで広まり、観光客が押し寄せたトロルの舌

夏に押し寄せる観光客の数に、宿泊施設やトイレの数が足りず、地元の人々と観光客との間に摩擦がうまれ始めている。結果として、現地でマイナスに報道されるのは、観光客だ。

だからこそ、物価の高いノルウェーで、移動方法や宿泊先の選択肢が増えるのは、いいのではないのかなと筆者は思う。そう簡単にはいかないらしい。

国外モデルや民間ビジネスに懐疑的なノルウェー、「プライベートアレルギー」

心地よく迎え入れてくれた2棟目のホスト、リンドンさん
心地よく迎え入れてくれた2棟目のホスト、リンドンさん

AirbnbやUberが、特に報道機関や自治体などに簡単に受け入れられない背景には、ノルウェー独特の理由もあると思う。

国外や民間のブランドが乗り込んできた際、日本と比べて、社会民主主義の傾向が強いノルウェーではその流れを嫌がる。

よりよしとされるのは、国営や公共施設。売り上げを平等に社会にシェアするわけではない、特定の人だけが儲けるかもしれない民間運営は、やけに嫌われる傾向がある。

筆者はこれを、「ノルウェー人のプライベートアレルギー」と勝手に名付けている。さすが、Amazonがないことを、あまり疑問視しない国だ。

それでも、AirbnbやUberの波はノルウェーでも動いていた。

ベルゲンでのAirbnbは、期待値が低かったので、予想以上によかった

3棟目の自宅窓からの風景 
3棟目の自宅窓からの風景 

ベルゲンといえば、フィヨルド観光客と世界遺産ブリッゲンを求めて、世界中から観光客がやってくる。

今回のAirbnb3棟は、中心部やブリッゲンまで、徒歩で10~15分ほどでアクセスできる場所にあった。

唯一盲点といえば、ベルゲンは坂が多い場所なので、どの家も坂をのぼらなければいけなかったこと。長旅で疲れている時にスーツケースで移動する場合は、タクシーを使ったほうが体力と時間を節約できる。

どのホストも、「宿泊者とトラブルがあったことは、ほとんどない」と答えた。日本人が来ることはまずないが、Airbnbに慣れているアメリカ人が圧倒的に多いという。

3棟目のホスト、エヴァ・マリエさんとは毎日朝食を一緒に
3棟目のホスト、エヴァ・マリエさんとは毎日朝食を一緒に

筆者はあえて、価格帯はあまり気にせず、リスク回避で「スーパーホスト」認定、現地らしい暮らしが体験できるような普通の自宅、北欧デザイン家具へのこだわりがあり、一緒に朝食を食べたり、子どもやペットの犬と交流できる場所を優先して選んだ。

フランクさんホストの家は丸ごと貸し切りだったので、キッチンなども完備
フランクさんホストの家は丸ごと貸し切りだったので、キッチンなども完備

観光ガイドブックでは掲載されていないような、おすすめスポットなどを聞いたり、おしゃべりできたので、楽しい時間を過ごせた。また出張時には、Airbnbをぜひ利用したいと思う。

地図でおすすめスポットを教えてくれるフランクさん。どこの家にも観光客向けの地図などが置いてあった
地図でおすすめスポットを教えてくれるフランクさん。どこの家にも観光客向けの地図などが置いてあった

王道や批判を好み、新しいものに警戒するのはノルウェーらしい傾向ではあるが、それなら既存のホテルやタクシー業界も、ポジティブとネガティブな伝え方のバランスをとって、同じように報道されてもいいのでは、と思ったのだった。

寝室のスタイルは、家によってさまざま
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どこの家庭も家具などが異なるので、わくわくする発見がある
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朝食は、ノルウェーのスーパーでおなじみのものがたくさん
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今回はたまたま全ての家でよい体験ができたが、北欧でのAirbnb全部で必ずしもこうとは限らない。何事も期待しすぎないのが、北欧旅行を楽しむ秘訣だ
今回はたまたま全ての家でよい体験ができたが、北欧でのAirbnb全部で必ずしもこうとは限らない。何事も期待しすぎないのが、北欧旅行を楽しむ秘訣だ

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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