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ノルウェー国政選挙直前、人気NO1の野党「労働党」が支持率急落

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
首都オスロの通りで選挙PRをする労働党 Photo:Asaki Abumi

ノルウェーで第一党の位置を独占してきた「労働党」の人気が揺れ動いている。

29日に発表された世論調査では、これまで第二の規模を誇っていた「保守党」が、労働党を抑えるという結果が発表された。

労働党の人気NO1の座が奪われるという事態は、政権交代以上に、ノルウェーでは予想されていなかったことだ。

首相候補であるストーレ労働党党首 Photo: Asaki Abumi
首相候補であるストーレ労働党党首 Photo: Asaki Abumi

ノルウェーでは右派陣営を指揮する「保守党」と、左派陣営を指揮する「労働党」の2大政党が政権を主に担ってきた。未来の首相は両党のどちらからか誕生する。

9月11日の国政選挙では、現在の右派連立政権が存続するかに注目が集まっている。

毎月、各メディアで発表される各政党の世論調査はノルウェーでは大きな注目を集める。

国営放送局NRKが調査会社に依頼した支持率の結果は、以下の通り。調査は8月24~28日に987人を対象におこなわれた

※各政党の支持率の後に、これまで紹介してきた各党の主な政策や話題をリンクする。

今年の国政選挙では、どちらの陣営が勝利しても不思議ではなく、現地でも予想が難しい状況だ。だが、それ以上に、労働党の支持率が保守党を下回るという事態を予測している人はいなかっただろう。

保守党の党首であるアーナ・ソールバルグ首相は、NRKに対して、支持率一位の政党になることは選挙運動開始前には想定していなかったと語る。

保守党党首のソールバルグ首相 Photo:Asaki Abumi
保守党党首のソールバルグ首相 Photo:Asaki Abumi

「正直に話すと、最大政党となる競争になるとは思いもしていませんでした。選挙当日の結果になるとは思いませんが、現政権の仕事を国民が支持している証拠なのでしょう」とNRKに話す。

保守党が労働党より高い支持率を記録したのは、1924年以降となる。もし、これが選挙の結果となれば、約90年以上ぶりに保守党が労働党より高い支持率を得たことになる。政権交代があってもなくても、「歴史的」な数字となる。

世論調査は「この政策をしっかりしなければ、次は投票しないぞ」という、国民の一時的な意思表示だ。これから4年間の国政を決める選挙となると、判断基準が変わるため、必ずしも選挙結果を反映しているわけではない。

オスロの通りで選挙活動をする保守党の若い党員 Photo:Asaki Abumi
オスロの通りで選挙活動をする保守党の若い党員 Photo:Asaki Abumi

とはいえ、この日のNRKの世論調査結果は、労働党にとって警報となったことは間違いないだろう。

選挙前ということもあり、現在は各メディアが毎週のように最新の世論調査を発表している。

同日の夜、テレビ局のTV2も新しい数字を発表した。労働党の支持率は25,7%、保守党は25,1%、進歩党は16,3%と続く。労働党は第一党だが、保守党との差は1%以下となり、こちらも驚きの数字を記録した。

労働党はこれまでは30%台を維持しており、保守党とは10%以上の差があるのが以前はよくあることだった。

労働党は選挙直前の各調査で支持率低下が際立っており、現地の報道陣や政治学者などを驚かせている。

今年の党の総会には隣国スウェーデンのロベーン首相(左)も応援に駆け付けた。ストーレ党首(右) Photo:Asaki Abumi
今年の党の総会には隣国スウェーデンのロベーン首相(左)も応援に駆け付けた。ストーレ党首(右) Photo:Asaki Abumi

とりわけ共通して指摘されている点は、今年の労働党の選挙戦略は「国民の心を掴んでいない」ということだ。労働党が主張するほど、経済危機や失業率が深刻化しておらず、どの政党と同盟を組むかという不安定さが残る。

また、移民政策なら「進歩党」、環境政策なら「緑の環境党」、地方中心の政策なら「中央党」など、他政党と比べて得意とする政策分野が曖昧だ。

労働党は国政選挙で勝利した場合は、これまで以上の「増税政策」を掲げており、保守派政権の「減税政策」と対立している。大政党といえど、両党とも国会で大多数をえるためには、他の小政党との連立・合意が必要となる

どちらの陣営が勝つか予想がつかない現状が続くが、世論調査で労働党が一時的にでも一位の座から落ちたことは、ノルウェーでは大きな驚きをもって報じられた。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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