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ゲリラ組織FARCが同時受賞しなかった理由。世論とノルウェー政府に配慮した政治的問題/ノーベル平和賞

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
ノーベル平和賞を受賞したサントス大統領 Photo:Asaki Abumi

半世紀以上続いたコロンビア内戦の終結に尽力したとして、サントス大統領がノーベル平和賞を授与された。受賞者が大統領単独で、同時受賞も可能なはずだった反政府ゲリラ組織FARCの名前が挙がらなかったことは、様々な憶測を呼んだ。10月の受賞者発表の記者会見でも、ノーベル委員会の委員長は、なぜほかの人や団体が「受賞しなかったか」という質問には一切答えないと、回答を拒否した。

12月の記者会見で、サントス大統領は、賞は自分1人に贈られたのではなく、市民やFARCみんなを代表してのものだということを強調。

受賞者には、授与式への招待者を選ぶ権利があった。

FARCが大統領と共にオスロにいないことは、いったい何を意味しているのか?報道陣からは質問が相次いだ。「(もし彼らがここにいたら)、ノルウェー政府にとって問題となっていたことでしょう。FARCは私たちの心と一緒にここにあります。彼らにもそう伝えました」と大統領は答えた。

授与式でスピーチする大統領 Photo:Asaki Abumi
授与式でスピーチする大統領 Photo:Asaki Abumi

ノルウェー国営放送局NRKとの単独インタビューでは、分断されたコロンビアでの世論も配慮してとのことだと大統領は明らかにする。

「ノーベル委員会が賞を授与したのは私だけだったので、FARCがここにはいないことが一番だろうと私が判断しました。私はすべての人を代表して賞を受け取ります」。

また、(テロ活動をしていた)FARCは法的手続き中の段階におり、まだ自由に世界中を飛び回れる状態にないこと、それがノルウェー政府にとって火種となってしまうことは避けたかったと説明。

FARCも同時受賞するべきだったと思わないかというNRKの記者の質問に対して、「ノーベル委員会が決めたことです。誰もが自分の考えを持っています。私だったら、違う選択をしていたでしょうが」と回答。

政治的なあつれきを生むだろうという懸念からFARCは招待されなかった。一方、代わりに授与式で注目を集めたのは、FARCのかつて人質だった人々、そして「平和賞を受賞するべきではなかった」代表例とされているヘンリー・キッシンジャー元米国務長官だった。

大統領のスピーチ中に会場から大きな拍手を浴びた元犠牲者 Photo:A Abumi
大統領のスピーチ中に会場から大きな拍手を浴びた元犠牲者 Photo:A Abumi

FARCに誘拐され、6年間、捕虜となっていた政治家で元大統領候補だったイングリッド・ベタンクール氏。内戦で苦しんだ数名は授与式に出席した。大統領がスピーチ中に彼らを紹介し、会場からは盛大な拍手を浴びた。

ベタンクール氏は、FARCも同時受賞をしたほうがよかったという見解を当初は示していた。しかし、訪問中、NRKの取材に対し、FARCがいたら政治的な問題になっていただろうと、「大統領が私たち全員を代表して受賞するのがよい」と考えが変わったことを明らかにした。

授与式の夜、市民による祝福に微笑むベタンクール氏 Photo:A Abumi
授与式の夜、市民による祝福に微笑むベタンクール氏 Photo:A Abumi

授与式会場で、サントス大統領は平和賞が「天からの贈り物だった」と感謝し、「平和の扉という目的地にたどり着く助けとなり」、「不可能を可能にした」とスピーチで述べた。

「敵の排除」という考え方は内戦の解決策とはならず、相手を「敵」と考えることをやめ、同じ人間なのだという態度で接することの重要性を訴えた。平和の光が世界中に降り注ぐようにと、大統領はスピーチの最後を締めくくった。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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