北欧の癒しサウンドとなるか?若手が伝統音楽に改革を起こす!ノルウェー現地レポート

ノルウェーのポップ・フォーク界の歌姫テア・イェルメラン Photo:Abumi

北欧の「フォークソング」に、新しい波がきている。「民謡」、「伝統音楽」と呼ばれているジャンルに、若手たちは新しい解釈を加える。伝統楽器を使いながら、どこかポップな現代風のリズムをプラスする。居心地の良い音の流れが特徴的で、聞いていると、眠くなることも。まさに、北欧からの癒し音楽ともいえるかもしれない。

テア・イェルメラン(Thea Hjelmeland)の音楽には、ノルウェーのフォークサウンドが散りばめられており、ポップ・フォークと呼ばれる。ノルウェーのグラミー賞ともいわれるスペッレマン賞を2014年にインディー部門で受賞。

新北欧フォークサウンド

北欧の民謡音楽の新しい流れは、「コンテンポラリー北欧フォークサウンド(ミュージック)」とも呼ばれている。「新北欧フォークサウンド」とでもいおうか。電気的な機器よりも、楽器本来の響きを生かしたアコースティックな音を好む傾向がある。多忙な生活で、疲れが溜まりやすい現代人。北欧ののんびりとした自然と暮らしから生まれた北欧音楽は、癒しを求める日本人の心にも響くのではないだろうか。

デンマークの男性3人組フォークバンド、ドリーマーズ・サーカス(Dreamers’ Circus)

なぜノルウェーで伝統音楽は需要があるのか

EUに非加盟であることからもわかるように、ルウェーでは愛国心や独立心が強い。ノルウェーがスウェーデンとの連合を解消したのは1905年。自国のアイデンティティが確立されはじめて、まだ約110年ほどしか経っていない。人口がたったの510万人しかいない小国のため、歴史の浅い自分たちの伝統を誇りに思う傾向が強い。そのため、ノルウェーを色濃く象徴する民族楽器や民族衣装などを好みながら、そこに新しいエッセンスを加える。

ノルウェーの歌手マルティーネ・クラフトは、魅力的な歌声と、白い花模様がついた伝統楽器ハダンゲルヴァイオリンが特徴的。

「男性の帽子ダンス」を踊る、初のノルウェー人女性

シッリエ・オンスタ・ホーリエン(Silje Onstad Haalien)は、競技的なアスリートダンスともいわれる、ノルウェーの民族舞踏「ハリング」のダンサー。帽子を使って、足で大きくステップしながら踊り続けるものだが、これまで「男性の踊り」とされていた。ホーリエンは、初のプロの女性シリングダンサー。慎ましい女性とは対照的な、嫉妬深い、情熱的な女性を演じる。

現地のモダン音楽祭に招待される新フォークミュージシャンたち

若手が民謡文化の発展に集中できる背景には、政府からの支援政策もあるが、現地でのファン層が厚く、ビジネスとして成り立っている側面もある。ノルウェーの新フォークサウンドを奏でる音楽家たちは、現地で有名なポップやロックの音楽祭でも引っ張りだこで、数々の賞を受賞。ポップやメインストリーム音楽がストリーミングで聞かれる一方、フォークミュージックのファンは、CDやレコードの購入も好み、歌手の継続的な活動を支える。

※ノルウェーの音楽業界団体IFPIによると、ノルウェーで2015年度に聞かれた音楽の77%はストリーミングから。

若手のハダンゲルヴァイオリン奏者として注目を浴びるアーラン・アプネセス(Erlend Apneseth)

また、歴史や伝統が他国と比べて浅い分、伝統をあえて壊す若手に反発や批判が起きにくいのもノルウェーの特徴だ。これは音楽に限らず、デザインや料理業界などでもいえることで、「こうあるべき」という縛られた観念があまりないことが、若手が新しい挑戦をしやすい空気をつくりだしている。

「競争」よりも「協力」を意識した、北欧各国のコラボが生み出す新しい「北欧の音」

「小国」なので、競争を意識するよりも、他のアーティストや他国とコラボして、知識や才能を共有し、新しい作品を作っていこうとする動きも、北欧ならではの特徴だ。音楽祭では、言語や文化が特に近いとされるスカンジナヴィア諸国(ノルウェー、スウェーデン、デンマーク)からアーティストが招待されることが一般的。先住民族サーミ人の文化からも影響を受けている。北欧の文化交流やコラボが、こうして新しい「北欧サウンド」をつくりだしてゆく。

ノルウェーのイェルムン・ラーセン・トリオ(Gjermund Larsen Trio)と、スウェーデンのノルディック(Nordic)との共演。中間2:54頃からの盛り上がりがよい。

2011年に「今年のベスト・ヤング・フォークバンド」賞を受賞したスウェーデンのコロニーエン(Kolonien)。「フォークミュージックって、なんだろう?」と考え始めてしまう一曲。

北欧の自然が生む、ヒーリングサウンド

ノルウェー音楽は、自然からインスパイアされているものがとても多い。キーンとした冷たい氷、寒い冬、鳥の声や森のざわめきを連想させる音。農民時代が長く続いた、山や山小屋での暮らしを思い起こさせる、民族楽器による懐かしい響き。大都会での騒音や機械的な音とは対照的だ。ミュージック・ビデオでも山や森を舞台に選んでいる人がとても多い。

世界で唯一の「氷の音楽家」といわれるテッリェ・イースウングセット(Terje Isungset)。フォークサウンドを口ずさむヴォーカリストと共に、自然の氷でつくった様々な楽器を、手で優しくたたいたり、吹きながら、クリーンで美しい音を奏でる。人工の氷では、同じ音を出すことはできない。ユニクロのCMにも出演した。デジタルで聞く音以上に、コンサートで実際に耳にする氷の音は、非常に迫力があったので驚いた。まさに雪国ノルウェーがうみだした北欧のヒーリングサウンドといえる。

ノルウェーのグラミー賞スペッレマンを、2016年度のオープン・クラス部門で受賞したSlagr

ノルウェー/スウェーデンの男性5人組によるフォークバンドSVER。不思議な音楽ビデオだ。ノルウェー人はスキーが大好き。

ノルウェーではブラックメタルやジャズが熱い固定ファンをもつニッチ市場として有名だが、新北欧フォークサウンドにも同じようなポテンシャルを感じる。のんびりとしたリズムが続く、北欧の新しい民謡音楽。移動中や仕事中、寝る前など、ちょっと頭を休憩させたい時に聞く、癒し音楽としてよさそうだ。

※今回紹介した歌手の一部は、北欧最大級の伝統音楽の祭典、フォルデ祭(Fordefestival)に登場した。舞台での短い生歌はインスタグラム@asakikikiにアップ中。

Photo&Text: Asaki Abumi