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電気自動車の天国ノルウェー、しかし再度購入を検討する国民は約半分のみ EVの不安要素とは?

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
斬新な環境政策が進む首都オスロ Photo: Asaki Abumi

電気自動車を運転中の約半数が、新たな購入を望まず

ノルウェーの気候変動バロメーターが、6月1日に発表された。「次回の車の購入時には、環境に優しいものを検討中」と回答した国民は60%。しかしながら、電気自動車の現在の所有者の内、「また電気自動車を選びたい」と答えた割合は53%と意外と低いものだった。

ノルウェーを代表する環境団体ZEROのテクノロジー班責任者のマリウス・イェルセット氏は、「確かに低い数字。本当だとは信じがたい」と、今の運転手はきっとまたEVのリピーターになるはずだと取材で述べた。

ノルウェーでは、政府による支援策により電気自動車が広く普及している。

WIRED電気自動車(EV)の世界最大の市場は米国だが、普及率ではノルウェーがトップであることがわかった。

兵庫三菱自動車販売グループ電気自動車天国 ノルウェー 7台に1台電気自動車が走る国

調査会社TNSギャラップによると、運転手が新たな購入をためらう主な理由は、

  • 不足している充電スポットによる長距離走行の不安
  • 充電量の限界
  • 政府による優遇政策が今後も継続するかどうかの不安

2025年よりディーゼルやガソリン車の新規販売規制を検討

ノルウェー政府は2025年から、「環境に優しい車のみの新規販売」を目標としている(事実上、ディーゼル車などの新規販売が規制される)。そのためにも、電気自動車の利用者は、継続して上昇させたいところだ。

プラグインハイブリッドカーのほうが魅力的?

しかし、ノルウェー電気自動車協会によると、2015年の車の販売市場において、電気自動車は17%の割合を占めていたが、2016年5月では11%と減少。反対に、プラグインハイブリッドカーの市場割合が15%と急上昇している。

TNSギャラップの調査でも、プラグインハイブリッドカーの現在の利用者のうち、79%は次回も同じく検討を購入しているという。電気自動車よりも、長期的な交際相手として、魅力的になりつつあるのかもしれない。

オスロで開催された気候変動バロメーター Photo:Asaki Abumi
オスロで開催された気候変動バロメーター Photo:Asaki Abumi

電気自動車は、「長距離運転に向いていない」という不安が未解決

ノルウェー電気自動車協会は、電気自動車は長距離運転手にとっては使いにくいという批判があることを認めており、「今後は充電インフラ整備を進める必要がある」としている。

デンマーク政府はEV税優遇廃止を決定 販売数激減

デンマークでは電気自動車に対する税の優遇政策が昨年に終了した。2016年より、電気自動車の購入者に徐々に税制の適用が開始され、その結果、購入者が激減。2015年下半期にデンマークで販売されたテスラは1886台だったが、2016年上半期3か月間には37台しか販売されていない。政府の支援策が厳しくなった途端、デンマークの電気自動車の売り上げは2015年から2016年に65%も急降下した(ノルウェー電気自動車協会調べ)。

電気自動車の普及に成功し、目標の売り上げ販売数を大幅に達成したノルウェーでは、政府が支援策を抑制することも検討されている。しかし、大気汚染問題の改善のためには、環境に優しい自動車や交通機関が、ディーゼル車よりも、国民にとって魅力的なものとうつる必要がある。

デンマークでの例をふまえて、「政府による手厚い支援策は、今後も続行する必要がある」と、ノルウェー電気自動車協会は公式HPで見解を述べている。

国民の3人に2人が環境熱心。特に若者と、緑の環境党の支持者

気候変動バロメーターによると、ノルウェー人の3人に2人が、「環境のために自分にも何かできないか」と考え、環境問題に最も熱心なのは若い世代。

ノルウェーの各政党の中でも、なにかと注目を集めやすい「緑の環境党」の支持者は、車への考え方が逸脱していた。車を所有していない割合は、ノルウェー国民全体の18%に対し、同党の支持者は44%。同党の支持者の9%もが電気自動車を利用していた。

次は、人間の運転なしで走行する「自動運転」車のある未来!

緑の環境青年部の共同代表ラーゲ(左)とアンナ(右)Photo: A Abumi
緑の環境青年部の共同代表ラーゲ(左)とアンナ(右)Photo: A Abumi

ラーゲ・ヌスト氏は、緑の環境党で若者たちを代表する青年部のリーダー。バロメーター発表の場に、偶然一緒に居合わせた。「長距離運転に適した未来世代の電気自動車は、これから市場で増加すると思うので、購入者はまた増えるだろう」とポジティブに今後を見据えている。ノルウェーの未来像を尋ねると、「排ガスをださない、環境に優しい車だけが走っている国!」と即答。「電気自動車だけでなくてもいい。水素自動車や自動運転車がある未来。自動運転車が実現すれば、道路で停止せずに、常に稼働していて、乗客を次々と乗せ運び、行列を作らず、事故を起こさない環境がつくれるでしょう」と語った。

環境問題に熱心なノルウェーの若者と、政党の「青年部」とは? 

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どの形にせよ、左派勢力に「環境に無関心だ!」と批判されやすい与党の右翼政党さえも、2025年よりディーゼル車の新規販売規制を検討している。ノルウェーでは、ディーゼル車の姿が消える未来は、そう遠くないのかもしれない。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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