100年後への贈り物。私たちは読めない、ノルウェー未来図書館 作家2人目はデイヴィッド・ミッチェル氏

日本の作家は何人参加することに? Photo: Asaki Abumi

100年間、開封されない100冊の本

ノルウェーは「未来」を見据えた都市改革開発が得意だ。書籍のデジタル化が進む中、100年後の未来では図書館や紙の本が存在しているかどうかさえもわからない。「未来図書館」(Future Library)は、2014年にノルウェーで始動したプロジェクトだ。

100年後の未来の世代のために、2014年より毎年1人の作家が1冊の作品をオスロに提供する。本の中身を読めるのは、2114年。今生きている私たちの多くは100の作品を読むことができないだろう。これは、未来へのプレゼントだ。

1人目、2014年の作家はカナダ出身のマーガレット・アトウッド氏。2015年に『Scribbler Moon』をオスロに寄贈した。

100年後の未来に読むことができる本。ノルウェー「未来の図書館」計画が始動

2人目、2015年の作家はイギリス出身のデイヴィッド・ミッチェル氏。今年の5月28日に、オスロを訪れ、森の中で寄贈式が開催された。ミッチェル氏が寄贈した作品タイトルは、『From Me Flows What You Called Time』。日本の作曲家である武満 徹(たけみつ とおる)氏のオリジナル曲と同じ題名だ。

ミッチェル氏(右)の本が寄贈された瞬間 Photo: Asaki Abumi
ミッチェル氏(右)の本が寄贈された瞬間 Photo: Asaki Abumi

同氏は、『クラウド・アトラス』などの作品のほかに、自閉症児の心の内部を描写した東田直樹作『自閉症の僕が跳びはねる理由』の翻訳家としても知られている(現在、東田氏とともに2作品目を共同執筆中)。日本人の妻とともにアイルランドに在住しており、日本とのつながりが深い。

イエスと返事をするまでに2か月

ミッチェル氏は日本語でのインタビューに応じてくれた。当初、未来図書館の2人目の作家になってくれないかと依頼がきたときは、常識破りの企画内容が信じられずに、懐疑的だったと振り返る。

「どうかな」、「今の誰も読むことができない作品をなぜ書くのだ」と返事をするまでに2か月間もかかった。マーガレット・アトウッド氏という偉大な作家が1人目だったことは、背中を後押しする結果となったという。

ミッチェル氏の短い朗読会に参加した市民 Photo:Asaki Abumi
ミッチェル氏の短い朗読会に参加した市民 Photo:Asaki Abumi

「おかしな計画だと思った」

「おかしな計画だと思った。でも、これは“悪い意味でのおかしい”ではなくて、“いい意味でのおかしい”だ」と、気持ちが徐々に変化。

この未来計画を「信じない自分よりも、信じる自分のほうが、なんだかいいなと思えるようなった」とも、図書館の主催者との録画インタビューで振り返っている。

100冊が印刷されることとなる1000本の苗木も共に成長中 Photo:Abumi
100冊が印刷されることとなる1000本の苗木も共に成長中 Photo:Abumi

寄贈した本の内容は秘密

未来図書館に寄贈した本の中身を、作家は口外することができない。主催者さえも(!)も中身を読むことができないため、ミッチェル氏は作品内容をこれからもずっと秘密にしていなければいけない。

本を書き始めたのは今年の1月。書き終えたのはオスロへ旅立つ直前の早朝で、すぐさま空港へ向かうタクシーに乗らなければいけなかったという。「すごいギリギリで書き終えた!」と、笑いながら日本語で答えた。「大好きな仕事だから、文句はないよ」。

寄贈した直後の今は、「充実した気分」だという。

ミッチェル氏にとっても、図書館は小さな頃から通った「大切な場所」だそうだ。

「日本が私の作家人生に与えた影響は大きい」

8年間、日本に滞在していたミッチェル氏は、日本文学からも大きな影響を受けている。未来図書館計画の関係者にも、100人の作家候補者として日本人作家を何人かおすすめしたという。誰を推薦したかは、それも秘密で口外できないそうだ。

読書の大切さについて語っている中、ミッチェル氏は「読書をする人が減少しているか?そういうイメージがあるかもしれないが、その説を私は信じていない」とも語った。

作家になりたい人へのアドバイス

最後に、小説家になりたいなと考えている人へのアドバイスをいただいた。「様々な人に出会い、様々なものを見て。人生の全ての体験が、本作りに役立ちます。特に、人生で一番大変だった出来事は、最高の先生となるでしょう」。

ミッチェル氏の作品がオスロの公共図書館で開封されるのは98年後。気になる3人目の作家は現在選考中で、発表日は未定だ。

Photo&Text: Asaki Abumi