あまり語られない、男女平等優遇政策を否定するノルウェー与党の存在。女性は自然と社会進出できるか
「男女平等先進国ノルウェー」。父親の積極的な育児参加や、母親の社会進出が称賛されがちな北欧ノルウェー。北欧モデルを参考にしようと、日本からも記者や企業が現地に視察に訪れる。日本と比較すると、確かに「すごい」と思わせる制度が数多くあるが(日本で再現できるかは別として)、あえて語られないことがある。極右や右派ポピュリズム政党と表現される、与党「進歩党」の存在だ。保守党と少数保守連立政権を担う進歩党は、移民・難民政策に厳しい党として知られるが、ノルウェーの男女平等優遇政策にも眉をひそめている。
進歩党「平等政策と平等オンブッド制度は廃止されるべき」
進歩党が掲げる党政策には、明確に記載されている。「人間は皆平等である。ジェンダー、グループ、個人は、労働現場、フリータイム、個人生活において、公的機関の介入なくとも、自然と溶け込めるべき。よって、平等政策と平等オンブッド制度は廃止されるべきである」。
男女平等の代表例として、国際的な注目を浴びる数々の優遇政策だが、進歩党はそれを根底から否定する珍しい政党だ。2013年の政権誕生以降、子ども・平等大臣はソールヴァイ・ホルネ(進歩党)氏に。平等優遇政策や移民・難民に否定的な進歩党党員が、平等省や、移民・社会統合省のトップという現在の政権構図は、皮肉ともいえるだろうか。
日本社会を基準とすると、進歩党はそこまでひどくはないのだが、普段、筆者が訪れるさまざまな業種の取材現場では、進歩党を毛嫌いする人々が圧倒的に多い。それでも、進歩党の支持率増加はノルウェー社会の移り変わりを反映している(2016年3月の国営放送局発表では、労働党と保守党に続き、支持率18.6%と人気度第三位)。
右派政権となり、パパ・クオータ制度の割り当てが初めて削減
両親とも育児休暇を取得することを前提としたパパ・クオータ制度は1993年に始まった。4週間と導入されて以降、2013年までに増加し続け、14週間に。制度導入の中心となったのは中道左派政権だった当時の労働党だ。しかし、右派政権となって以降、2014年、初めて割り当てが10週間へと減少させられた(母親は10週間)。
2014年7月当時の全国紙アフテンポステンは、「パパクオーターの削減は平等政策を弱体化させる」と社説を掲載。「割り当て制度は、父親が子どもと接する時間をもつきっかけとなり、労働市場での女性の存在価値を高めていた。政府がそのように考えていないことは残念だ」と批判した。
結果、NAVによると、14週間を選ばずに、政府が推奨する10週間で利用する父親の数が増加。
10週間(50日) 2014年 1.2%→2015年 19.3%
14週間(70日) 2014年 17.6%→2015年 16.1%
日本人からすると、それでも父親の育児休暇取得率は高く感じるが、批判する現地報道が目立つ。
未来の大臣候補が集まる青年部、代表の9割が男性
4月、進歩党の青年部の全国総会を取材に訪れた。未来の進歩党の党首や大臣候補がいるであろう集会だ。確かな数字は入手できていないが、青年部では女性よりも男性の割合が高い印象を持つ。他政党の青年部たちは、進歩党を嘲笑する。「進歩党の主張する平等政策は、私たちからすると平等とは程遠い」と、労働党青年部の党員たちは口を揃えていた。
進歩党青年部の代表が集まる、新たな中央委員会メンバー構成は9人中8人が男性だった。総会の討論で、唯一の女性であるマリア・アンセット氏は壇上で問いかけた。「この委員会で、女性が私だけということは、何を意味しているのでしょうか?我々の党には、有能な女性はたくさんいるのに」と。進歩党青年部という舞台で、この言葉を聞くことになるとは思わなかった。
青年部代表のビョーン・クリスチャン・スヴェンスルード氏は、この言葉に対して、「周知の事実のように、我々は平等優遇政策は推進していない。しかし、マリアの言葉は重く受け止める」と壇上で答えた。
優遇政策がなくとも、平等は実現できるか?
進歩党という環境で、女性がこの発言をすることは勇気がいることなのではないかと感じた。
政権の18人の大臣のうち、進歩党は7人(男性4人、女性3人)。党首・財務大臣であるイェンセン氏を筆頭に、3人の女性たちは連日メディアで取り上げられる。母党よりも女性の割合が少ないと見受けられる青年部だが、彼らが大人になった時、男女の割合はどうなっているのだろうか。優遇政策なくとも、女性が自然と社会進出できるという考えを、進歩党はノルウェーで証明できるか。
Photo: Asaki Abumi