北欧で反難民・極右自警団「オーディンの戦士たち」拡大。ノルウェー与党の擁護発言で首相は火消しに躍起
難民申請者への世間の風向きが冷たくなるノルウェーで、移民・難民に否定的な与党・進歩党党員が「オーディンの戦士たち」を擁護する発言をし、物議を醸している。
同団体は北欧神話の神の名前オーディンの名前からつけられ、難民申請者の増加を理由に2015年10月にフィンランドで発生・拡大し、ノルウェーでは今年2月にその存在が知られるようになった。主に男性たちが黒い上着とジーンズという格好で、上着には海賊ヴァイキングの顔にノルウェー国旗をあしらったデザインがされている。公式HPでは「我々の目標は、街頭を安全に保つことだ」としている。
ノルウェー国営放送局の取材に対し、リーダーのロニー・アトレ氏は、自分たちが人種差別者や極右団体であることを否定している。
「オスロでの性犯罪の多くは非・西洋人によるものだ」とし、「100~500人ほどの、歯医者から弁護士、右翼から左翼まで」様々な職種と政治思想の一般市民が地域のパトロールに協力したいと願い出ていると発言。犯罪記録を警察に提出し、手助けをするとともに、地域の安全を守りたいとしている。
同団体は、観光客にオーロラ観光地としても有名なトロムソを含む複数の地域で動向が確認されている。地域の市長は歓迎しておらず、警察は動向を警戒中。
右翼・進歩党が応援発言
移民・難民に否定的な与党・進歩党の国会議員ヤン・アーリル・エリングセン氏(法務委員会在籍)は、23日の国営放送局の生放送で「オーディンの戦士たち」を擁護する発言をした。
「もしこの団体が犯罪を侵せば、もちろん他の者たちのように罰せられるべき。しかし、ノルウェー市民にとってのさらなる安全に貢献するのであれば、我々はそれはポジティブな貢献だと受け止めます」。同氏は、さらに「ノルウェー警察には仕事をこなせる十分な資源がない」としている。
この発言後、国営放送局をはじめとする多くのメディアが大々的に「進歩党の発言」として報道。進歩党はこれまでも何度も過激な発言をしてきたが、野党から与党になって以降、発言は「ノルウェー政府の見解」としても解釈されることがあるため、問題視されている。
進歩党は、ノルウェーの政治学者からすると右翼ポピュリスト政党であるが、一般的には極右と表現されることもある。進歩党は自分たちのことは「リベラル政党」だと説明するが、そのような表記をする報道は稀だ。
首相や与党が火消しに追われる
報道後、与党の政治家や首相(保守党)は火消しに躍起になっている。
アーナ・ソールバルグ首相は、その後すぐさま自らのツイッターで、「オーディンの戦士たちに、安全な街頭づくりに貢献できる居場所はありません。危険な思想。エリングセンの発言は政府の見解を代表しません」とした。
また、通常は進歩党の過激発言者のひとりでもあるアンネシュ・アーヌンセン法務・危機管理大臣も、「我々の街頭を安全にするのは警察の役目」として同僚への同意を示さなかった(国営放送局)。
生放送で討論相手だった野党・労働党の国会議員タジク氏は、「フィンランドでは、オーディンの戦士たちは、難民申請者が増加し設立されたネオナチだと自ら認めている」とし、批判。また、国営放送局によれば、ノルウェーの同団体のメンバーには犯罪ネットワークと関りのある者もいるとし、リーダーのアトレ氏は極右団体で活動的だったことも知られている。
Text: Asaki Abumi