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北欧のチョコレート会社が防げなかったSNS炎上事例

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
SNSで炎上したチョコレートキャンペーン Photo:Asaki Abumi

ノルウェーの大手チョコレート企業がSNSで大失敗

企業がSNSでのマーケティング戦略で失敗し、炎上するという、ノルウェーの代表例となってしまったことは間違いない。ノルウェーのチョコレートブランドで有名な大手Freia(フレイア)が、SNSで炎上し、地元のメディアを騒がせている。

事の発展は、2015年に始まったFreia社のチョコレートキャンペーン。

ノルウェー人が大好きなイースターエッグのチョコレートに含まれているパーム油

ノルウェーでは、雪解け直前の復活祭(イースター)の休暇中に、チョコレートやオレンジを食べる習慣が根付いている。Freia社が毎年発売する、チョコレートでできた卵の形状をしたイースターエッグは定番の人気商品だ。ただ、この商品には、パーム油が使用されていることが以前から消費者の間では知られている。

ノルウェーでは「パーム油=熱帯雨林の破壊」という情報が、数年前から一般に広く浸透。20~30%のパーム油を含むFreia社のイースターエッグ(特に未来を担う“子どもたち”に大人気の商品)がスーパーマーケットの店頭に山積みにされはじめるのは3月。環境問題に熱心な消費者の心情を、イライラさせる光景でもある。

騒ぎの元となったのはハッシュタグキャンペーン

そこで火をつけたのが、同社の「#detnaere」(デ・ナーレ)キャンペーン。「#detnaere」というハッシュタグ付きで、消費者に写真を共有してもらうという内容だ。「det naere」は、相手をほっと安心させる「親しいもの」、「身近なもの」という意味を持つノルウェー語。

チョコレートの写真に限らず、「自分にとって空気のように身近なもの」(つまりFreiaのチョコレートだよね、というメッセージ)や、「ほっとする瞬間」を共有してもらおうという狙いだ。

問題となったのが、もうひとつのキャンペーン内容。公式HPでは人気チョコレートのパッケージのデザインに、消費者が自由に言葉を書き込んで、その写真をSNSに投稿できた。

「熱帯雨林を壊さずに、イースターチョコを食べたい#detnaere」

Twitterで続々でてくる消費者の反乱 Photo:Asaki Abumi
Twitterで続々でてくる消費者の反乱 Photo:Asaki Abumi

よって、「#detnaere」というハッシュタグ付きでSNSで拡散された画像が、「燃える熱帯雨林の味」、「あなたたちは熱帯雨林を殺している」、「熱帯雨林を壊さずに、イースターチョコを食べたい」、「パーム油を使用していないヴィーガンチョコレート」など。

企業対策=「パーム油」など使用禁止用語に

そこでFreia社とキャンペーンのPR会社がとった対応策は、「消費者のクレームに答える」ではなく、一部の単語にフィルターをかけ、使用禁止にするという手段だった。それが「パーム油」、「熱帯雨林」、「下痢」、「イスラム」、「ヒジャブ」、「くそったれ」、「おっぱい」など。禁止用語の数は日を増すごとに増加。

でも、「キリスト」や「殺人」はOK.「イスラム」はだめ

ただし、「キリスト」、「殺人」、「性器」という言葉は使用可能という、不可解な「取り締まり」だった。

「パーム油」という単語だけではなく、「ぱ・あ・む・ゆ」や「パーム@油フリー」などのノルウェー語での様々な関連用語も徐々に使用禁止に。

これにはジャーナリスト、環境・宗教・平等問題などに熱心な人々が飛びついただけではなく、一般の消費者も疑問と怒りの声を爆発させた。

消費者だってバカではない。それならと始まったのが、言葉遊び。「パーム油」などの禁止用語は直接使用せず、まだ使用禁止に設定されていない言葉を並べたり、スウェーデン語など別の外国語を使用するなどして反抗した。

「失敗の味がする #detnaere」

「失敗の味がする」、「パームな日曜日が楽しみだ」、「今年のSNSタブー。おめでとう」、「ぱ -むゆ」、「PR担当者は泣き寝入りしているんだろうな」など。

この目立つやり取りが、Instagram、Facebook、Twitterなどで拡散され、しまいには国内のほぼ全ての大手メディアが大きく報道した。

店頭の商品棚は山積み Photo:Asaki Abumi
店頭の商品棚は山積み Photo:Asaki Abumi

結果:キャンペーンは中止に

Freia社にとって、今年はあまりよくないスタートといえるだろう。同時期には20歳の人気女性ブロガーが、Freia社のイースターエッグにはパーム油が使用されていることを批判し、その記事も拡散されて話題となったばかりだった。

パーム油の件は、数年にわたって批判されていたにも関わらず、「#detnaere」という、「感情」を求めるキーワードをハッシュタグにしてしまったことも一因している。

スーパーマーケットに行ってみたところ、Freia社のイースターエッグは、店頭の目立たない場所で山積みになっていた。商品棚にだれかが「パーム油」と落書きしており、店員がそれを放置している光景は皮肉なものだった。

ノルウェーのSNSのエキスパート達は、「これは避けることができたであろう炎上だ」と口を揃える。インターネットの力や消費者の声を甘くみて、老舗大手企業がSNSを使いこなせなかった典型的な失敗例として、今後語り継がれることだろう。

※「detnaere」の「ae」はノルウェー語表記ではくっつきます。

Photo&Text:Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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