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日本で服を売りたい!北欧ノルウェーのファッション業界の現状と課題

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
ノルウェーのファッション業界はどうなっている?Photo:Asaki Abumi
ノルウェーのファッション関係者のための討論会
ノルウェーのファッション関係者のための討論会

ノルウェーブランドは今どこに?

北欧ファッションでは今何が起きているのか。3月16・17日、オスロにあるノルウェーデザイン&建築センターDogAで、「ニードルワーク&テクノロジー2015」という会議が開催された。

業界関係者のために開催された同イベントは今年で2回目を迎え、セミナーやトークショーを中心に構成されている。今回の内容をまとめてみた。ノルウェーのファッション動向に興味がある方にとっては、豆知識になるかもしれない。

ノルウェーの羊毛で作られた家具と服 Photo:Asaki Abumi
ノルウェーの羊毛で作られた家具と服 Photo:Asaki Abumi

デジタル化におけるビジネスモデルの傾向と対策、デザイナーへの金銭的支援や政府によるサポートの必要性、サステイナブルファッションなどが話題に。今年のメインテーマのひとつが「海外市場への進出」。世界各国からゲストとして招かれた専門家が講演をした。

日本で服を売りたい!北欧デザイナー

ノルウェーから飛び立ち、海外マーケットに挑戦したいと考えるノルウェー人は多いようだ。世界各地の市場が考察される中、中国と日本の「アジア」は大きな注目を浴びた。現地に住む信頼できるパートナーがどうしても必要になること、言葉の問題、大きく異なる文化や価値観の違いなどが取り上げられた。

ノルウェー人がアジア市場で克服すべき課題点とは?

いりやま氏が日本のファッション業界を解説  Photo:Asaki Abumii
いりやま氏が日本のファッション業界を解説 Photo:Asaki Abumii

ノルウェーにも在住歴があるコミュニケーション&PRコンサルタントのいりやま りこ氏は、ノルウェーとは異なる日本のファッション業界の特殊性を紹介した。体格サイズや気候の違い、クオリティ審査の厳しさなど、ノルウェーの人々が忘れがちな、理解しておくべき事柄をアドバイス。

「日本では人口が多い分、チャンスもライバルも転がっている。ブランドのアイデンティティを確立させ、頑張ってほしい」とエールを送った。

日本でブレイク必須!? ノルウェーの「雨」ブランド

Norwegian Rainの顔である2人 Photo:Asaki Abumi
Norwegian Rainの顔である2人 Photo:Asaki Abumi

日本市場への参入に成功したモデルケースとして、高品質のレインコートで知名度の高い

「Norwegian Rain」(ノルウェイジャンレイン)の代表2人も講演。日本のバイヤー、現地のビジネスパートナー、消費者から求められるニーズが、ノルウェーとは大きく異なることなどを指摘した。

「日本は新しいブランドに積極的な国。もし、あなたのブランドが個性的で、乗り越えるべき課題をクリアできるなら、絶好のスタート地点になるでしょう」と、チャレンジしがいのある日本市場の可能性を伝えた。

※ちなみにNorwegian Rainのコートは、本当にかっこいいので要チェック(公式HP)。

今後の北欧ファッションの情報発信地となる団体?

「世界進出するために、北欧5か国で協力体制を強める必要がある」。そう語ったのは、北欧ファッション協会のメンバーであるJohan Kryger氏、Gunni Hilmarsson氏、そしてノルウェーファッション研究所のGisle Mardal氏の面々。スウェーデンやデンマークで孤立するのではなく、「北欧」というパッケージでPRしていこうと、会場の参加者に強調。

北欧は、議論よりも、アクションを起こすべき?

「ところで、僕達は何年間もずっと話してばかりで、議論はいいから、まず行動を起こせと思っている人もいるかもしれないね。ただ、未来図や問題点を理解するためにも、関係者がこうやって集まって、意見交換をする場は、これからも必要だと思っているんだ」と3人は、北欧関係者が集まる場が、今後も必要だと訴えた。

これに関しては、筆者の個人的意見となるが、「トークもいいけど、アクションももうちょっと頑張って欲しいな」と思う。なぜなら、会場で話している業界の課題点が昨年と大差なく、大きな変化がこの1年であまり感じられないからだ。ただ、このような場は、ファッション業界やメディア関係者にとっては、知識やネットワークを広める場としては役立つだろう。

国内で議論、ノルウェーのファッションは誰のためのもの?

ノルウェーのデザイナーには特別な支援が必要? Photo:Asaki Abumi
ノルウェーのデザイナーには特別な支援が必要? Photo:Asaki Abumi

ノルウェーでは、ここ数年、国内メディアがファッション業界のとある傾向を厳しく批判していた。

通常は関係者にとって絶好のPRの場となるはずの「オスロ・ファッション・ウィーク」が、「デザイナーのためではなく、一部の有名人たちのお祭り騒ぎの場所になっている」と、業界関係者やメディアが苛立ちを爆発させのだ。結局、昨年はスポンサーにも逃げられ、10年続いたファッション・ウィーク自体が中止になるという、ありえない事態が発生した。

スウェーデンやデンマークとは対照的に、ノルウェーではさまざまな文化的価値観が原因で、ファッションは「アート」として評価されにくい側面もあるので、デザイナーが直面する壁は多い。加えて、このような発表の機会が減少すると、ノルウェーファッションで何が起きているのか誰も把握できない・注目されない、ネガティブな報道しかされないという悪循環が発生する。

再生できるか、ノルウェーのファッション・ウィーク

Veronica B. Vallenes Photo:Asaki Abumi
Veronica B. Vallenes Photo:Asaki Abumi

過去の反省点を生かし、今年は主催者が変わり、新たなファッション・ウィークとして、8月に「オスロ・ランウェイ」(Oslo Runway)が開催予定。真面目に、デザイナーたちをサポートする場して確立できるか、業界から厳しい目で見られながら、大きな期待を背負っている。

今回のイベント最終日には、このオスロ・ランウェイのお披露目として、小規模なファッションショーが開催された。ノルウェー出身の3人の注目デザイナー、Eva Emanuelsen、Jonny Love、Veronica B. Vallenesが、洗練された作品を披露。ノルウェーのファッションを、もう一度盛り上げたいと願っているゲストたちが、一心不乱にカメラのシャッターを切りながら見守っていた。

Jonny Love Photo:Asaki Abumi
Jonny Love Photo:Asaki Abumi

さて、どうなる。ノルウェーのファッション。海外のバイヤーやメディアが目をキラリと光らせるような、アクションが起こせるだろうか?日本デビューまでの道のりは険しいかもしれないが、がんばってほしい。

Eva Emanuelsen Photo:Asaki Abumi
Eva Emanuelsen Photo:Asaki Abumi
北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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