ノルウェー王室のユニークな読書運動。王大使妃が臨時図書館を開設、村上春樹氏の作品も
6月19・20日、首都オスロの王宮公園裏にある王室所有の建物で、メッテ・マリット王大使妃が小さな図書館を2日間限定でオープンした。読書好きで知られる王大使妃が、国民と一緒に選んだ200冊は無料で一般に貸し出され、王宮公園で読むことができる。日本から唯一選出されていた文学者は村上春樹氏だった。
読書好きの王大使妃
デジタル化が進み、紙の電子書籍化が進んでいるノルウェー。王大使妃は、図書館と読書の大切さを国民に訴えかけようと、SNSとメディアを利用してさまざまな読書運動に取り組んでいる。今年3月には、「電車文学」という2日間限定の企画がノルウェー国内で話題をよんだ。王大使妃が電車に乗って、約800冊の本を携え、ノルウェー北部を巡回しながら、国民と文学について語り合ったのだ。
SNSを使いこなすノルウェー王室
「電車文学」中、王大使妃は活動内容をフェイスブック、ツイッター、インスタグラムのSNSにアップデートした。その際に、国民から「この本もおすすめですよ」と多くのフィードバックをもらった。王大使妃は、国民からのアドバイスを参考にし、新たに200冊の本を選出。現在、王宮公園で臨時開設されている小さな図書館に並んでいるのはその本だ。
ノルウェー王室はSNSを上手に使いこなすことでも知られている。王宮と国王ハーラル5世もSNSに公式アカウントを持ち、特に国王と王大使妃は自由きままにツイッターで「つぶやいて」いる。図書館の壁の貼り紙では、インスタグラムでハッシュタグをつけて画像を広めるようにお願いもされていた。
国民に大人気の王大使妃
ノルウェーの王大使妃といえば、ホーコン王大使妃との結婚に至るまでの厳しい道のりが有名である。民間出身の王大使妃は1人息子を抱えたシングルマザーで、結婚前から王大使と同棲していた。過去にドラックパーティーなどに出入りしていたことが現地メディアで報道され、王室の支持率は急低下。しかし、2000年に婚約を正式発表し、メディアを通じて過去の出来事を国民に謝罪。国民は彼女のひたむきで正直な姿勢に感動し、現在は王室メンバーの中でも特に幅広い支持を得ている。
本をきっかけに、心の声を打ち明けてほしい
慈善活動などに積極的な王大使妃だが、推進する読書運動には彼女の暗い過去が背景となっていると、臨時図書館の主催者であるデイクマン公立図書館の責任者は語る。王大使妃の父親はアルコール依存症で、彼女はその問題を長年だれにも打ち明けられずにいた。子どもの頃から、週末は図書館に入り浸っており、「本をきっかけに、子どもたちが勇気を振り絞って、家庭問題を周囲に相談できるようになるのでは」と読書好きの王大使妃は考えたそうだ。
王大使妃が国民と選んだ200冊の本は、自由に借りて、王宮公園内の緑豊かな芝生の上で読むことができる。本を借りた人の名前は一切記録に残さないので、臨時図書館の最終日である20日20時に本はすべて返却されるだろうと、関係者は国民を信用している。
村上春樹氏の本は7冊!
200冊の中には、日本でも人気のあるノルウェーの絵本『キュッパのはくぶつかん』もあったが、多くは日本には未上陸の作品ばかりだった。日本から唯一貸し出されていた作品は、『1Q84』をはじめとする村上春樹著の計7冊。王大使妃が大の村上ファンであることが伝わってきた。ノルウェーでは村上氏は圧倒的な知名度と人気を誇る日本人文学者だ。
実際に借りる人もいるが、王大使妃の読書リストを参考にしたいと見に来るだけの人も多いそうだ。幼稚園や保育園に通う子どもたちが、先生と集団で散歩途中に臨時図書館を訪れたりもするという。王宮が所有地内で一般向けの図書館を設けるという取り組みは今回が初めて。本を通じて、王室と国民の距離がさらに近くなる、ノルウェーらしい読書運動といえるだろう。
臨時図書館は、19・20日7:00~20:00まで、王宮裏にある公園内の小さな黄色の建物「Lysthuset」で開催中。