「じゃがいもであれ」ノルウェー若手デザイナーに突きつけられる課題

ノルウェーデザインの今後について語る若者 Photo: Asaki Abumi

5月末に首都オスロのデザイン建築センターでは、1930~70年代の北欧デザイン展が開催された。「北欧デザイン」というと、60年代を中心とした過去の作品が賞賛されることが多く、加えて「北欧」となるとノルウェーの存在は目立たない。このような状況下で、次代を担うノルウェーの若手デザイナーたちは、どのような課題に向き合っているのだろうか。

ノルウェーデザインのキーワード

オスロにあるFIMBULデザイン事務所の若手経営者兼デザイナーのヨー・コリネルウッセン氏と、クリスティアン・オールセット氏(両氏とも1986年生)は、「北欧各国の現代デザインで大きな違いはない」と語る。ノルウェーの現代デザインは「自然」や「海外」から影響を受ける傾向にあり、過去の作品を模倣して繰り返すよりも、「日常生活を手助けする、問題解決ができるデザイン」が必要とされているという。教育現場でも、「サービス・デザイン」の学問がこれまで以上に学生の間で人気だそうだ。

会場には過去の名作がずらり。若手はさらなる活躍が期待されている Photo: Asaki Abumi
会場には過去の名作がずらり。若手はさらなる活躍が期待されている Photo: Asaki Abumi

学歴重視?

ノルウェーに住んで6年目となる私だが、ノルウェーは日本以上に学歴社会だと感じることがある。それはデザインの世界でも変わらないようだ。大学の校数が限られているので「大学名」はさほど重要ではないが、職業に関連した学問を主専攻としていることが企業や社会から評価を受ける大前提。学士号だけでは半人前で、それ以上の学位が優遇される。

戦後活躍した大先輩にあたる年配デザイナーたちは、現代の学歴重視の傾向に対して、あきれている感を隠せない。北欧デザイン展でも、トークショー開催前に話し手となる若手たちの経歴を主催者側が話していたのだが、「この人はまだ学士号しかないのね」と一言。それを隣で聞いていた、大御所デザイナーのトリネリーセ・ディステ氏(1933年生)は、「学士号しかない…、ねぇ」と、皮肉に笑って反応していた。

アイデンティティの重大局面

デザイナーのクリスティーネ・ファイブ・メルヴァール氏(1984年生)は、若手の間で「アイデンティティ・クライシス」が起きているとも語る。昔はただ制作課題をこなすだけだったが、今は学歴に加えて、社会的貢献を果たすモノ作りが求められているという。「機械よりも手作り」、「ローカル」、「サステナブル」であることがトレンドだが、同時に物価の高いノルウェーでは高額な製作コストという障害もあり、「メイド・イン・ノルウェー」は難しい。

「じゃがいも」でなければ生き残れない?

デザインの可能性は広がっているが、同時に異なる分野の商品を作れる「柔軟さ」がデザイナーには必要不可欠と語るメルヴァール氏。ノルウェーでは、このような人物を「じゃがいも」と例える。じゃがいもの長所は、「広く浅い」才能を持ち、多種多様な現場で活躍できるが、短所として、「狭く深い」専門的な得意分野を確立しにくい。

「デザイナーであるからには、じゃがいもであれ」と話す同氏の言葉は、現代で必要な北欧流サバイバル術なのだろう。今回の北欧デザイン展では若手デザイナーと話す機会が多く、全体的に彼ら自身がモダンセンチュリー時代のデザインの栄光の歴史を打破しようと、あれやこれやと試行錯誤している様子が感じられた。今後、これまで目立たなかったノルウェーのデザインが北欧他国を押しのけて、デザイン界の先頭に立つことができるのか、活躍が楽しみである。