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21歳銃撃犯「危険人物」の予兆、銃の申請手助けした父がコメント。米パレード乱射7人死亡

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

アメリカの銃乱射事件が一向に止まらない。

イリノイ州シカゴ近郊のハイランドパーク市で、4日の独立記念日のパレード中に起きた銃乱射事件。ロバート・クリモ(Robert E. “Bobby” Crimo III)容疑者は、沿道のビル屋上からパレードの群衆に向けて乱射し、7人が死亡、38人以上が負傷した。

容疑者は30発分の弾丸を2ラウンド発砲し、新たに3ラウンド目の弾丸を補填して発砲を続けたと見られる。現場には83発分の使用済みの薬莢(やっきょう)とライフル弾倉が残されていた。

容疑者の身柄は拘束され、7件の第1級殺人罪で訴追された。逃走車からは別のライフル銃と約60発の弾薬、さらに自宅からは少なくとも3丁のピストルも見つかっている。逃走中に別の乱射事件も計画していたと見られており、有罪判決が確定後、仮釈放なしで終身刑になる可能性がある。

犯人像

クリモ容疑者のプロフィールと見られるIMDbのデータや地元メディアの報道などから見えてきた犯人像がある。それらによれば、容疑者は2000年9月20日シカゴ生まれの21歳、身長183センチ。

イタリア系の血を引き、3人きょうだいの真ん中で、あだ名はボビー。叔父の証言では「いつも1人でいて、静かで、すべて自分で抱えこもうとする性格」という。

コロナ禍前はパネラブレッド(チェーン展開のカフェ)で働いていたが、現在は定職に就いておらず、アウェイク・ザ・ラッパー(Awake the Rapper)というペンネームで、地元のアマチュアラッパーとして活動していた。11歳で音楽のネット配信を開始し、何曲かリリースした中で『On My Mind』という曲がヒットしたようだ。

また父親のロバート・クリモ・ジュニア(Robert Crimo Jr.)氏は商店をいくつか経営するビジネスマンで、2019年に市長選挙で立候補し銃規制を支持する民主党員に敗れたと報道されている。

殺傷能力高いライフルを使用

容疑者が犯行で使用したのは、アメリカの一般的な警官が携帯するピストルの類ではない。半自動式のライフル銃(Smith & Wesson社のM&P15セミオートマチックライフル)、つまり戦場などで用いるような、殺傷能力の高い大型の武器だった。容疑者はその武器を「合法的」に入手していた。

M&P15セミオートマチックライフルのイメージ写真。AR-15に近い武器のようだ。
M&P15セミオートマチックライフルのイメージ写真。AR-15に近い武器のようだ。写真:ロイター/アフロ

容疑者には「予兆」があり、十分「危険人物」だった...

1.警察沙汰

CNNによれば、容疑者は2020年6月から21年9月の間に、銃器を購入する際に必要な4つの身元調査をパスしている。当時の容疑者の唯一の刑事犯罪は、16年1月のタバコ所持の条例違反のみで、医療施設から州警察にメンタルヘルス禁止報告書は提出されていなかったという。

しかし容疑者には危険人物としての十分な「予兆」があった。

19年4月、容疑者がその1週間前に自殺しようとしたとして家族から通報があり、警察が自宅に駆けつけた。その際、容疑者と家族からメンタルヘルスの専門家に世話になっている旨の報告があった。同年9月には、容疑者が(親戚に対して)「全員を殺す」と脅迫したとして再び家族が通報。警察が駆けつけたものの立件はされなかった。その際、自宅から16本の刃物と短剣と刀1本ずつ、計18本が押収されたが、それらは父親がコレクションとして所有、保管していたもので、その後返却された。

2.暴力的なイメージの配信

容疑者は前述のラッパー名で、暴力的なイメージをオンライン上に配信していた。

YouTubeやSpotifyなど大手ストリーミングプラットフォームに、不吉な歌詞の楽曲や銃事件が描かれた暴力的なイラストを用いた自作のミュージックビデオをいくつも投稿していたが、現在それらのコンテンツは削除されている。

どのように銃を購入したのか?

容疑者の親戚への脅迫後、警察沙汰になり暴力的な傾向があるとみなされたにも拘らず、その後の身元調査に合格し、銃所持許可を取得。2丁のライフル銃も含む5丁の銃を合法的に州内で購入していた。

暴力的な傾向がある個人が銃を購入することを防ぐ、イリノイ州の「レッドフラッグ法」もすり抜けていた。

州警察当局の発表では、銃器所有者のIDであるFOID(Firearm Owners Identification)カードを申請したのは、警察への通報があった3ヵ月後の19年12月だ。当時19歳だった容疑者は21歳以下ということで容疑者の父親がスポンサーとなって、申請を手助けした。その際、明確な危険性やFOIDが拒否する十分な根拠がないと判断され、翌年審査が通り、その後容疑者は銃を購入できたというわけだ。

「息子はあまり見せなかったけど、メンタルイルネス(心の病)を患っていた」「自分は何も悪いことをしていない」とする父親のコメントも写真付きで報道されている。息子が犯した大事件にショックを隠し切れず、懲役刑で罪を償ってほしい意思を示しているが、「射撃に行くために購入したと思った。息子自らの運転で行き、身元調査を受け、自分のお金で購入した銃だ」と、大量虐殺事件への関与は一切ないと強調した。銃購入のためのFOID申請をサポートしたことについての謝罪はなく、罪の意識も見られない。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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