Yahoo!ニュース

脱マスクが進む米国とその兆しがまったく見えない日本 ── 2国間を往復して感じたこと

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
バージニア州アーリントンの空港でも19日、マスク着用者と非着用者が混在した。(写真:ロイター/アフロ)

筆者は4月半ば、全員が屋外でもきっちりマスクを着用している日本から、マスク離れが進むアメリカに1ヵ月ぶりに戻って来た。

LAX(ロサンゼルス国際空港)のゲートに到着し、約半数の人がマスクをしていない姿を目にした時、アメリカの脱マスク化を肌で感じた。

19日にはオハイオ州のクリーブランドから、国内線に再び搭乗したが、すでに機内では数名の乗客に加え、客室乗務員の何人かもマスクを着けていなかった。

19日、季節外れの寒波が襲い、積雪したオハイオ州クリーブランド。(c) Kasumi Abe
19日、季節外れの寒波が襲い、積雪したオハイオ州クリーブランド。(c) Kasumi Abe

この日はちょうど、アメリカン航空やユナイテッド航空など米主要航空各社が空港や国内線の機内で、客室乗務員と乗客に対し、新型コロナウイルス対策としてのマスク着用義務をなくすと発表した翌日のことだった。

この変更については飛行中も、客室乗務員から乗客に向け改めてアナウンスがあり「新型コロナの予防策として着用する必要がある人、または着用したい人は引き続き着用を勧める」という趣旨の内容と共に、「着用については自分で判断し決める」ことが周知された。

4月19日、クリーブランド・ホプキンス国際空港にて。多くの人がマスクを外していた。(c) Kasumi Abe
4月19日、クリーブランド・ホプキンス国際空港にて。多くの人がマスクを外していた。(c) Kasumi Abe

これらの発端は先週、米CDC(疾病予防管理センター)が発表した、空港や公共交通機関でのマスク着用義務の延長宣言だ。これに対し、フロリダ州連邦地裁のキャサリン・キンボール・ミゼル連邦地裁判事は、CDCが法的権限を逸脱してマスク着用義務を人々に押し付けているとし「着用義務の延長は無効」と判断を下した。これにより、米TSA(運輸保安局)がマスク着用義務を解除し、空港、鉄道、バス、タクシー、ウーバーなどの配車サービスなどで、着用義務は事実上撤廃された。

21日、ネバダ州ラスベガスの空港で。ここでもマスク非着用者が多い。
21日、ネバダ州ラスベガスの空港で。ここでもマスク非着用者が多い。写真:ロイター/アフロ

筆者は航空機内で、つい最近まで「(搭乗拒否など航空会社との)トラブルを回避するため、食事以外は鼻の上までカバーする徹底したマスク着用を求める」趣旨のアナウンスを、耳にたこができるほど何度も聞かされてきた。また昨年の話だが、欧米間を渡航した際に、着用していた布マスクは「機内では適さない」と不織布マスクを手渡され、着用し直しを指示されたこともある。コロナ禍以降「空港や機内での不織布マスクは当たり前」「欠かせないもの」と思っていたので、客室乗務員がマスクをせずにドリンクサービスなどをしている姿を約3年ぶりに見て、アメリカのさらなる「脱マスク」化を実感したのだった。

19日、空港では半数以上がマスクをしていなかったが、搭乗した国内線では過半数の人がまだマスク姿だった。
19日、空港では半数以上がマスクをしていなかったが、搭乗した国内線では過半数の人がまだマスク姿だった。写真:ロイター/アフロ

一方で、対応は州によって異なり、CDCは機内や公共交通機関でのマスク着用を引き続き推奨しているため、市民の間では「わかりにくい」との混乱もある。

例えばニューヨークでは今もなお、地下鉄の駅や車両内ではマスク着用義務があり、見渡す限りほぼすべての乗客がこのルールを守っている。

一方で、室内イベントに行くと、誰もマスクを着けていない状態だ。(このようなイベントの多くは、ワクチン接種証明書の提示を今も参加条件としている)

20日ニューヨーク市内で行われたビジネス系イベント。ここも完全に「脱マスク」だった。(c) Kasumi Abe
20日ニューヨーク市内で行われたビジネス系イベント。ここも完全に「脱マスク」だった。(c) Kasumi Abe

20日米司法省は、航空機内や公共交通機関でのマスク着用義務を違法とした連邦地裁の判決を不服として上訴した。

アメリカの人々はどう受け止めているか。

AP通信-NORC公共問題研究センターが行った最新の世論調査では、アメリカ人の半数以上が機内や公共交通機関でのマスク義務化に賛成していることがわかった。賛成派は56%、反対派は24%、どちらとも言えないと回答したのは20%だった。

またポリティコ/モーニング・コンサルタントによる最新の世論調査でも、59%のアメリカ人が機内や公共交通機関でのマスク義務化の延長を支持。政党別では、民主党の84%が支持しているのに対し、共和党はわずか35%だった。

新規感染者数がこれまでと比較して落ち着いているアメリカは、20日時点で7日間の平均の新規感染者数は約4万3,000人弱だ。日本も現在、同じような数字の推移だ。

そんな日本に先月、コロナ禍になって初となる一時帰国を果たし、約1ヵ月間滞在し、感じたことがいくつかある。

まず、日本はPCRの検査場もワクチン接種会場も、限られた場所にしかないということだ。検査は「県民のみ」というところもあり、多くは土日は開いていない。ワクチン接種には「券」が必要ということで、それらの場所へのアクセスのしにくさを感じた。参考までに、ニューヨークの検査場はテントがそこかしこに立っており、「州民か否か」で区切られておらず、週7日オープンし、無料で検査できるところも増えた。ワクチン接種も予約不要で、打ちたい時にすぐ打てる(外国からの旅行者でも)。博物館にも仮設接種会場が設けられているので、展示品の鑑賞前後に気軽に注射を打てたりもする。

そしてマスクに関して、着用率然りデザインや色の豊富さ然り、日本は大変優秀な印象だ。アメリカのようにマスク着用義務がないにも拘らず、ほぼ全員が(屋外においても)常に、そしてきちんと、鼻の上までマスクで覆っている。店に行けば検温設備や消毒液があり、徹底したコロナ対策に感心した。(アメリカでは消毒はこれほど徹底されていない。検温、ビュッフェのビニール手袋においてはほぼ皆無だ)

一方で少し面食らったのは、マスク着用の徹底ぶりだ。屋内や電車内は良いとして、人の少ない屋外でたとえ1人で歩いていたとしても、都市部でのマスク着用率はそう変わりはないようだ。筆者は日本上陸直後に息苦しさを感じたため、1人での散歩時はマスクを着けない時もあったが、結果的にそうしたのは、滞在中ほぼ数えるほどしかなかった。

現在、ニューヨークでマスクなしの生活に舞い戻った筆者が、なぜ日本では常にマスクを着けていたのかを改めて考えてみると、新型コロナの感染予防という理由は、密な状態になりがちな店内や地下鉄などに限られていた。そして多くの場合、日本社会で「目立つ存在になりたくない」「変わり者としてジロジロ見られたくない」という理由があったのは否めない。何人か友人に、いつまでマスクを着ける予定かと尋ねたら、「七難隠す」便利なツールとして「この先もずっと...」という返答もあった。確かにマスクをしていると入念にメイクをしなくても良い、というのはありがたい。

一方で筆者のように、ほぼ全員のマスク姿に多少なりとも閉塞感や息苦しさを感じている人も、中にはいるかもしれないとも思った。この先のコロナ禍の「出口」として「着用については自分で判断し決める」もの、つまり着用したい人は着用し、したくない人はしなくてもいい雰囲気作りなどが必要とされる日が、日本にもやって来るだろうか。そんなことをニューヨークのイベントで、久しぶりにマスクをせずに来場者らと談笑しながら、ふと考えたのだった。

米でのマスク着用義務化に関する過去記事

- 2022年

「マスク嫌い」のアメリカ人に起きた、コロナ3年目のある「心境」の変化(現代ビジネス)

NY屋内マスク義務が今日から解除。人々はマスクを外した?街の様子は?

- 2021年

1年3ヵ月ぶり「非常事態」が解除 NYはいま【昨年との比較写真】

新型コロナに「打ち勝った」“先行事例”となるか?NYが復興へ前進、大規模再開へ

米「ワクチン接種でマスク不要」 NY中心地のマスク率は? 街の人の声は?

- 2020年

「マスク外してみて。顔が見たい」は新たなセクハラになるのか? 米紙

結局アメリカでマスクはすんなり受け入れられたのか

外出の際、顔はカバーすべきですか?「はい」とNY市長 アメリカでマスク改革、はじまる

NYでマスク姿を見かけるようになったのはいつ?最新現地事情とウイルス防止対策(タビジン)

(Text and some photos by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

安部かすみの最近の記事