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生中継で中国の「ジェノサイド」複数回触れられる ...【北京五輪 開会式】米メディアはどう報じたか

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

北京冬季オリンピックが開幕し、アメリカでも連日その熱気が報道されている。

4日に行われた開会式についても、米メディアはいっせいに報じた。

東京オリンピックの際には、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長を「ぼったくり男爵」と批判したワシントンポストは、北京大会の開会式をどう報じたか。

5日付の同紙は冒頭で、「新録の草をイメージさせる巨大な緑のグロースティック(ケミカルライト)を振るダンサーからサイケな色合いの6人のアイスホッケー選手まで、団結と新たな始まりを表現した」と説明。「これらの素晴らしい演出のおかげで、近年の中国のダークな面を挽回した」と、芸術的な側面で、2008年の五輪に続き今回も総監督を務めた映画監督、張藝謀(チャン・イーモウ)氏の功績を讃えた。

写真:ロイター/アフロ

一方、コロナ禍での開催については、「バブル方式を採用し、無観客で行われるが、選手や大会関係者308人(4日時点)の陽性反応が確認され、ゼロコロナを目指す中国にとっては懸念事項となっている」とし、パンデミックでトーンダウンし「あまり興奮はない」という地元民の声と共に紹介した。

政治的な見方としては、このような記述があった。

「毛沢東以来もっとも強力な指導者、習近平国家主席の下、同国の治安部隊は新疆ウイグル自治区で少なくとも100万人のウイグル人とほかのイスラム教徒を拘束」

「コロナ禍で開催を決めた大会のモットー『共有された未来のために共に』は、『人類のための共有された未来があるコミュニティ』を構築するという習氏の政治哲学に共鳴したものだが、そのようなモットーでさえ、外交ボイコットを主導したアメリカによって打ち消された

NPRは、開会式の目を引くような素晴らしいシーンの写真と共に、ハイライトで紹介している。

習主席と共にロシアのプーチン大統領も出席したことについても触れ、「開会式での2大権力者の存在感は、人権侵害問題の国際批判に晒される中国に必要な同盟国がいることを知らしめた」。

コロナ禍での開催については、「東京オリンピックでは、開会式の会場外で抗議デモが行われたが、北京の会場周辺は道路が封鎖されたため、そのような様子は見られなかった」とした。

英VoxはWhy the Olympics opening ceremony felt kinda weird(オリンピックの開会式に違和感を感じた理由)という見出しで、開会式に映し出されれたプーチン大統領、10代の若者を多用し平和や世界の協調、パンデミックとの闘いを強調した演出、聖火ランナーの最終走者をウイグル族のクロスカントリースキー選手、ジニゲル・イラムジャン(Dinigeer Yilamujiang)氏が務めたことなど、多くの政治的要素が盛り込まれた開会式に疑問を呈した。

国家権力を誇示した政治色が強いシーンがいくつかあった。
国家権力を誇示した政治色が強いシーンがいくつかあった。写真:ロイター/アフロ

放送中に中国の「ジェノサイド」について複数回触れる

NBCニュースは、コネチカット州のスタジオと北京を繋ぎ、2時間半にわたって生中継で開会式の様子を放送した。

「パンデミック中のもう1つのオリンピックが開始した。物議を醸している北京五輪だ」。同局の看板アンカー、サバンナ・ガスリー(Savannah Guthrie)氏は冒頭でこのように紹介した。

「パンデミックの真っ只中にオリンピックを開催できることが可能な能力とハイテクの腕前と国家の力を披露した」と評価する専門家の声も交えながら、ガスリー氏が以下のように説明するシーンも見られた。

ウイグル族選手の式典の起用について

「西(欧米)に対して挑発的(なメッセージだ)」

中国の人権侵害問題について

「中国は少数民族を(強制労働や強制不妊などで)弾圧し、アメリカはそれをジェノサイド(集団虐殺)と呼んでいる。そのような人権侵害に対する声明として、アメリカは外交ボイコットをしており、政府代表団を派遣していない」

「ジェノサイド」という言葉を含む中国の人権侵害問題についてのアナウンスは、2時間半に及ぶ開会式の中継中に筆者が確認する限り、少なくとも3度あった。

オリンピックの米国放映権を持つNBCユニバーサルの子会社であるNBCニュースは、東京大会にはアナウンサーチームを現地派遣したが、北京大会には派遣していない。その理由として、閣僚派遣を見送った日本の姿勢と同様に「新型コロナの感染防止のため」というのが表向きに発表されているものだ。

関連映像

NBCニュースによる、北京オリンピック開会式のダイジェスト (1) (2)

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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