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日本にいながら米開催のコンサートに“参加”できたり…そもそも「メタバース」とは? 米で報道が本格化

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
「オンラインの世界にアクセス」ではなく常にオンライン上に身を置いている状態。(写真:アフロ)

日本の自宅にいながら、アメリカ・ロサンゼルスで開催されている人気ミュージシャンのバーチャルライブに「参加して体感」できたり、ニューヨークの五番街本店の人気商品を「手にとって自分の目で確認し、購入」したりできる未来も、そう遠い話ではないかもしれない。

「メタバース(Metaverse、仮想現実空間)の多くは、この5〜10年でメインストリームになる」

メタバース元年とも言える昨年10月、メタのマーク・ザッカーバーグ氏は今後メタバース事業に力を入れるために、社名をフェイスブックからメタ(Meta Platforms Inc.)に変更するとプレゼンで発表した際、このように述べた。

以降アメリカでは、メタバースという言葉をメディアで見ない日はなくなった。特に報道が本格化してきたのは、今月半ばだ。18日付のニューヨークタイムズと20日付の同紙ポッドキャストはこぞってメタバースを取り上げ、「至るところで耳にするようになった」と報じた。

メタバースとは?

メタバースとは、インターネット上の仮想空間において、作成した自分のアバター(キャラクター)によりさまざまな活動(仕事、遊び、買い物、社交)や非現実的な体験ができる技術のこと。

前述のニューヨークタイムズには、「コンピューターにアクセスするのではなくコンピューターの中に身を置くことであり、オンラインの世界にアクセスするのではなく、常にオンラインの中にいること」とする専門家の説明が添えられている。

ザッカーバーグ氏のプレゼン動画から。(キャプチャは筆者が作成)
ザッカーバーグ氏のプレゼン動画から。(キャプチャは筆者が作成)

よく語られるのはゲーム事業だ。もちろんゲームの世界には以前より仮想現実空間が存在しているが、メタバースによってより没入型で精巧な仮想現実空間の中でゲームプレーが可能になるという。

アメリカでメタバース報道が本格化していった理由の1つは、米マイクロソフトが18日、大手ゲーム開発企業のアクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)を687億ドル(約7兆8750億円相当)で買収すると発表したことも関係している。

マイクロソフトがアクティビジョン・ブリザードを買収した理由は、もちろんメタバース事業への本格的な参入を視野に入れてのことだ。同社は「この買収は当社のメタバース分野の構成要素となり、ゲーム事業の成長を加速させていくだろう」と述べた。

「メタバース事業は現代版ゴールドラッシュ」

ほかにもさまざまな米メディアがメタバースのブームを報じている。

20日付のウォール・ストリートジャーナルは、「メタバース関連技術にいち早く着目した企業の株価は上昇し、メタバースをテーマとした上場投資信託も登場している」と報じた。またFOXニュースに出演した専門家は「(NFTも含め自分のキャリア史上)かつて見たことがないほどの規模で急成長中である」とし、主要な企業がメタバース事業に次々と投資している様相について「まるで現代版ゴールドラッシュだ」と語った。

米グーグルもこの数年、メタバース関連の技術開発に取り組んでおり、アップルは独自のデバイスを開発中であると報じられている。

ゲーム企業やIT企業だけではない。米小売り大手もメタバースに参入

「自分はゲームをしないから...」という人も、メタバースが近い将来、身近な存在になる可能性はある。

一般の生活で例えるならば、スーパーなど実店舗に行かなくてもバーチャル店舗で商品を選び、買うことができる。

FOXニュースから。(キャプチャは筆者が作成)
FOXニュースから。(キャプチャは筆者が作成)

また、日本にいながら外国で行われているバーチャルコンサートやスポーツ試合に参加することもできる。

ザッカーバーグ氏のプレゼン動画から。(キャプチャは筆者が作成)
ザッカーバーグ氏のプレゼン動画から。(キャプチャは筆者が作成)

ザッカーバーグ氏のプレゼン動画から。(キャプチャは筆者が作成)
ザッカーバーグ氏のプレゼン動画から。(キャプチャは筆者が作成)

国境を越えてテーブルを囲んで会議をしたり、自分の仮想空間でパーティーを行いゲストを招待したりすることも可能に。

16日付のCNBCや20日付の米ヤフー!ファイナンスは、米小売最大手のウォルマートも「メタバース事業への参入準備をしている」と報じた。記事によると、同社が最初にメタバース事業に着手したのは昨年8月。同社独自の暗号通貨とNFTを作成し、メタバースによる本格的な仮想商品の製造・販売事業に向けて、先月30日にいくつかの商標登録を行ったほか、専門技術スタッフの雇用にも乗り出した。

近い未来、このようになる

何せ「仮想現実空間」なだけにメタバースを駆使した世界は現時点でなかなか想像しにくいが、メタのザッカーバーグ氏はキーノート(プレゼン動画)の中で「未来はこのようになる」と説明している。

  • 自分のアバターの居場所を理想の場所として作成できる(4:00ごろ~、7:20ごろ~、11:00ごろ~)
  • 遠隔地のスタッフとテーブルを囲んで会議に参加できる(4:30ごろ~)
  • 3Dストリートアートを鑑賞できる(5:00ごろ~)
  • 自分の場所に世界中の人々を招待してパーティーを開いたり、一緒にゲーム(ビデオゲームから昔ながらのチェスなど)をしたり、卓球の対戦をしたりできる(16:30ごろ~)
  • 3on3バスケをしたり、一緒に映像を観たり、共に時間を過ごすことができる(7:20ごろ~、11:30ごろ~)
  • 手でタイプなどせずともジェスチャーや頭の中で思い浮かべるだけで、作動できる(4:15ごろ~、10:00ごろ~)
  • 日本にいながらアメリカで開催されているコンサートに参加できる(12:50ごろ~)

ザッカーバーグ氏は、最も大切な最初のメタバース体験は「人々との繋がり(を実感すること)である」と強調している。同氏によると、メタバースの世界ではほかの人々の表情を確認できたり、握手をしたりできるため「まるで現実の世界に自分が実在し、人々との繋がりを感じることができる」のだという。

フェイスブックをはじめとするソーシャルメディアも「人々との繋がり」が起点で始まった。便利でありさまざまなメリットをもたらす一方、最近は主に若い世代のメンタルヘルスへの悪影響も指摘されている。

メタバースがもたらす便利な世の中と人々との繋がりが、これからどのように進化し人類にどのような影響をもたらすことになるか。どんな未来が待っているか、注目が集まっている。

(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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