Yahoo!ニュース

オミクロン株、米上陸も時間の問題...心配をよそにNY次期市長が「アフリカ家族旅行」で物議

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
次期ニューヨーク市長、エリック・アダムス氏。(写真:ロイター/アフロ)

ニューヨークで再び非常事態宣言

次から次に出現する新型コロナウイルスの変異株に、人々は「またか」と意気消沈気味だ。

南アフリカで最初に見つかった変異株「オミクロン」に関して、アメリカでも一気に話題を席巻し始めた。つい数日前の感謝祭(25日)の集まりでは誰一人とて話題に持ち出すことはなかった変異株が、ここ2、3日で一気に人々の新たな関心事として浮上している。

オミクロン株は現時点(29日朝)でアメリカ国内では未確認だが、NBCニュースによると、すでに5大陸にわたる少なくとも15ヵ国で確認されている。隣国カナダも含まれており、アメリカ国内で検出されるのも「時間の問題」と見られ、警戒が強まっている。

今月8日アメリカはワクチン接種完了を条件に、これまで渡航が禁止されていた国からの外国人の入国を再許可したばかりだったが、バイデン政権は水際対策として、アフリカ南部8ヵ国からの入国を禁止するなど先手の対応に着手した。対象国は南アフリカ、ボツワナ、ジンバブエ、ナミビア、レソト、エスワティニ、モザンビーク、マラウイで、これらの国に過去14日以内に滞在した外国人は、アメリカに入国できない。

ニューヨーク州でも感染再拡大を受け、ホークル知事が26日、再び非常事態を宣言した。非常事態は12月3日から来年1月15日まで有効で、期間中は病床と医療従事者を確保するため、緊急でない手術を制限したり、パンデミックに備えて物資を調達したりすることが可能になる。

同州は今年6月、1年3ヵ月に及ぶ非常事態を解除したばかりだった。しかし州内の陽性率は再び4%を超えており、デブラシオ市長も29日、ワクチン接種済みの人々を含むすべての市民に対して、屋内での活動時におけるマスク着用を再勧告した。

この時期「スピリチュアルな旅」でアフリカへ?

そんな中、ある人物の言行が物議を醸している。

次期ニューヨーク市長、エリック・アダムス氏(61)である。同氏は29日、以前より予定されていたアフリカ、ガーナへの家族旅行について、取りやめないことを記者団に語った。滞在は12月8日までの予定だ。

オミクロン株の感染拡大を懸念し旅行を取りやめる人も出ている中、同氏は地元紙デイリーニュースからの「渡航における心配はないのか」という問いに対して、「私は何も恐れていない」と答えた。

渡航の目的は、奴隷がアフリカからアメリカに連れて来られて400年以上が経過した今、市長に選出されたらアフリカを訪れると決めていたという。その理由として「祖先が奴隷船で連れて来られてから400年後、私は最重要都市の一つの市長になろうとしている。その祈りのため、そしてスピリチュアルな浄化のため」とした。

当初、ガーナに先駆けヨーロッパ旅行も計画していたようだが、オミクロン株の拡大によりそちらは中止とした。一方でガーナへの「スピリチュアル旅行」は変更しないということのようだ。

同氏はブルックリン区の特に犯罪率の高いブラウンズヴィル地区出身で、以前は警察官として勤務し、2014年よりブルックリン区長を務めるなど、叩き上げの人物として知られる。来年1月1日からは、ニューヨーク市で史上2人目の黒人市長として就任することが決まっている。

ガーナはアフリカ大陸の西部に位置し、渡航禁止となった8ヵ国には含まれていないものの、APによると少なくとも1回のワクチン接種済みは人口の18%に止まるなど、接種率の低さが指摘されている。

オミクロン株の世界的な拡大が懸念されているこの時期に「なぜ国外、しかもアフリカへの渡航を押し通すのか」「これが次期市長にふさわしい行いか」など、素養を疑問視する声が出ている。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

安部かすみの最近の記事