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1年3ヵ月ぶり「非常事態」が解除 NYはいま【昨年との比較写真】

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
左は昨年3月、右は週末のタイムズスクエア。(c) Kasumi Abe

「緊急事態は終わった。新しい章の始まりだ」

ニューヨーク州のクオモ知事は23日の定例記者会見でこのように述べた。

州では昨年3月7日にコロナ禍における非常事態が宣言されたが、今月24日をもって終了の期限を迎え、非常事態が解除された。

そもそもこの非常事態宣言とは当時、世界最悪の状況に陥った同州の新型コロナ感染拡大を受け、必要な予算、物資、州兵などの確保を目的に出されたものだったが、ワクチンの浸透と共に感染状況は落ち着いている。

1年3ヵ月前といま(比較写真)

(上から)2020年3月と先週末。(c) Kasumi Abe
(上から)2020年3月と先週末。(c) Kasumi Abe

(上から)2020年3月と先週末。(c) Kasumi Abe
(上から)2020年3月と先週末。(c) Kasumi Abe

NY州最新の感染&ワクチン接種状況

ニューヨーク州の感染者数は、先月よりさらに減少している。

  • 25日に実施された新型コロナ検査は9万7020回。うち、385件が陽性(全体の0.40%)
  • 新型コロナウイルスによる入院患者(重症患者)数はこの日の時点で、371人
  • 死者5人

州のワクチン投与実績...少なくとも1回接種は71.6%

  • これまでに州内で投与されたワクチン接種数:2094万5467回
  • 24時間以内に投与されたワクチン回数:11万7760回
  • 少なくとも1回のワクチン接種を受けたのは、18歳以上の71.6%(すべての年齢層の59.4%
  • 必要回数分(1回もしくは2回)のワクチン接種を完了したのは、18歳以上の64.1%(すべての年齢層の52.8%

予約不要で無料で気軽に打てるワクチン接種会場が増加中。スタッフによると「国外からの観光客でも接種できる」とのこと。(c) Kasumi Abe
予約不要で無料で気軽に打てるワクチン接種会場が増加中。スタッフによると「国外からの観光客でも接種できる」とのこと。(c) Kasumi Abe

非常事態解除後のNYのいま

マスクの着用率は?(タイムズスクエア)

筆者は宣言解除の翌25日から週末にかけて、ニューヨークの中心地タイムズスクエアやセントラルパークなどに様子を見に行った。

まず、国内からの観光客だと思われる人出は先月よりさらに増えており、パンデミック前の活気が戻っていた。

州では先月半ば以降、ビジネスの入店・入場制限の規制のほとんどが解除され、地下鉄も本来の24時間営業に戻るなど、大規模に経済活動が再開している。ワクチン接種完了者は、公共交通機関や一部の商業施設を除いて、マスクの着用義務がない。

多くの人々はワクチンを打ったからこその「自由」を満喫しているようだった。大切な家族や友人とハグをし、さまざまな場所にマスクなしで躊躇なく行ける自由。パンデミックによりそれまでの当たり前が当たり前ではないと誰もが気づいたからこそ、なんてことのない日常がありがたく感じる。気候も良く、緊急事態が解除された軽やかな気持ちは皆、同じだろう。

多種多様な人が集まるタイムズスクエア(2021年6月25日)以下同。 (c) Kasumi Abe
多種多様な人が集まるタイムズスクエア(2021年6月25日)以下同。 (c) Kasumi Abe

よく見るとスパイダーマンがいた!(人形ではない)(c) Kasumi Abe
よく見るとスパイダーマンがいた!(人形ではない)(c) Kasumi Abe

この日もネイキッドカウボーイは元気にここにいた。(c) Kasumi Abe
この日もネイキッドカウボーイは元気にここにいた。(c) Kasumi Abe

マスクの着用率は先月、ワクチン接種を完了した人でもまだ高いとレポートしたが、6月も後半になると、全員とはいかないまでも、マスクを外している人は大分増えていた。

LINEストアにできた長蛇の列。人気店では引き続き入場制限を行っている。(c) Kasumi Abe
LINEストアにできた長蛇の列。人気店では引き続き入場制限を行っている。(c) Kasumi Abe

(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe

(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe

ニューヨークは毎年この時期、大規模なプライドパレードが開催されるが、昨年は中止、51回目の今年は「Pride March」と題してパレードが縮小し、ブロックパーティーやイベントが各所で行われている。

 6月のプライド月間に至る所に溢れるレインボー。(c) Kasumi Abe
6月のプライド月間に至る所に溢れるレインボー。(c) Kasumi Abe

La Batalla Lipsticks Drag(YouTube)出演者。大型電光掲示板に映し出される1コマの撮影中で、アフターコロナの世界を陽気に楽しんでいた。(c) Kasumi Abe
La Batalla Lipsticks Drag(YouTube)出演者。大型電光掲示板に映し出される1コマの撮影中で、アフターコロナの世界を陽気に楽しんでいた。(c) Kasumi Abe

セントラルパーク

広大なセントラルパークでのマスク率はさらに少なかった(全体の1%ほど)。大多数の人はマスクなしで、ピクニックや読書、ジョギングなど思い思いの週末を楽しんでいた。

(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe

(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe

飲食店やバー

「QRコード・メニュー」がニューノーマル

パンデミック以降、レストランやバーは歩道や車道だったスペースにテーブルを置き、感染防止対策をしているが、外は蒸し暑いからと屋内飲食する客も最近は増えている。

(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe

飲食店の中にはワクチン接種完了者のみを受け付ける店もあるようだが、筆者はこれまで一度もワクチン接種完了証明書の提示を求められたことはない。この店にはついうっかりしてマスクをせずに入店したが、通常通りに対応された。

飲食店に戻ったコロナ前の光景。基本的にアクリル板などは設置されていない。(c) Kasumi Abe
飲食店に戻ったコロナ前の光景。基本的にアクリル板などは設置されていない。(c) Kasumi Abe

飲食店の大きなニューノーマルの1つが、メニューブック/表の廃止だ。QRコードでメニューを見て注文するのが、飲食店での新たな常識となった(昨年の夏以降増えた気がする)。ミッドタウンにあるハンバーガーの美味しいこの店の女性サーバーに理由を聞くと、「衛生上の問題です。メニューは不特定多数の人がベタベタ触って不衛生だし、店側も客ごとに各ページを除菌するのは手間がかかるから」。そこで登場したのがQRコード・メニューというわけだ。

「もはや店内には紙のメニューはいっさい置いてないんですよ」との徹底ぶり。今後メニューブック自体が過去の産物として、新世代に「何それ?」と言われるようになるかもしれない。

(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe

またニューノーマルの1つだった、カクテルなど「アルコール類の持ち帰り」は25日以降はできなくなった。

州では、昨年3月の非常事態宣言と共に、バーやレストランの通常営業を禁止し、アルコール類も含むデリバリーもしくは持ち帰りに限り許可していた。

アメリカはもともとアルコールに関して日本より規制が厳しい。州によって多少異なるが基本的に路上飲みは一切禁止だし、ハードリカー類は酒屋でしか販売されておらず、当然夜間は閉まる。すべての酒類を購入するには写真付きIDを見せる必要も。そのような厳しい規制の中「お持ち帰りカクテル」は、市民にとって画期的なサービスだった。本来は禁止されているが、店の前の路上でこっそり飲む人も見かけた。

しかし今回、パンデミック前のガイドラインに戻るとして、本来のルール(持ち帰り禁止)となった。

【2020年】入り口自体が持ち帰り用のバーカウンターになった店も(左)。隔離カクテルとも呼ばれコーヒーを買うようにカクテルの持ち帰りができたのはパンデミックの思い出。 (c) Kasumi Abe
【2020年】入り口自体が持ち帰り用のバーカウンターになった店も(左)。隔離カクテルとも呼ばれコーヒーを買うようにカクテルの持ち帰りができたのはパンデミックの思い出。 (c) Kasumi Abe

ニューオープンも多いが、同じくらい閉店を余儀なくされた店やスモールビジネスも多い。(c) Kasumi Abe
ニューオープンも多いが、同じくらい閉店を余儀なくされた店やスモールビジネスも多い。(c) Kasumi Abe

そのほか 

コロナ前の何気ない日常風景が復活。(c) Kasumi Abe
コロナ前の何気ない日常風景が復活。(c) Kasumi Abe

地下鉄

地下鉄など公共交通機関では、マスク着用がまだ義務付けられている。少なくとも9月ごろまで続きそうだ。(c) Kasumi Abe
地下鉄など公共交通機関では、マスク着用がまだ義務付けられている。少なくとも9月ごろまで続きそうだ。(c) Kasumi Abe

スーパーマーケット

スーパーでも基本的にマスク着用は必須。混みすぎないように入場制限される場合も。(c) Kasumi Abe
スーパーでも基本的にマスク着用は必須。混みすぎないように入場制限される場合も。(c) Kasumi Abe

オフィス

社員がほとんどいないダウンタウンのオフィス。多くの企業では引き続き、WFH(在宅勤務)が続いている(2021年5月)。(c) Kasumi Abe
社員がほとんどいないダウンタウンのオフィス。多くの企業では引き続き、WFH(在宅勤務)が続いている(2021年5月)。(c) Kasumi Abe

植物園、博物館

筆者はこの週末、ブロンクス植物園の草間彌生展「KUSAMA: Cosmic Nature」を訪れたが、世界の草間彌生人気を反映して、ここもものすごい人出だった。

温室や館内、土産店の入り口には「ワクチン接種済みであればマスク不要」とする注意書きがあり、接種完了済みの筆者はマスクを着けずに入ったが、接種証明書の提示は求められなかった。

KUSAMA: Cosmic Nature @NYBG (c) Kasumi Abe
KUSAMA: Cosmic Nature @NYBG (c) Kasumi Abe

KUSAMA: Cosmic Nature @NYBG (c) Kasumi Abe
KUSAMA: Cosmic Nature @NYBG (c) Kasumi Abe

ちなみにワクチン接種完了証明書について、筆者も知人も当地で提示を求められたことはない。筆者がこの1ヵ月間で証明書を見せる機会があったのは、スイス行きの国際線飛行機に搭乗する際とスイスでの取材会場入り口(それぞれ任意)の2度だけ。

しかしこの1年でニューノーマルや新ルールが次々に出てきたように、今後のアフターコロナの世界も、情勢は刻一刻と変化していくのだろう。

1つの大きな峠を皆で乗り越え、喜びあうニューヨーク。メモリアルウィークエンド以降に本格的な夏になり、独立記念日、レイバーデーと友人同士でワイワイと集まってバーベキューを楽しむ季節だ。そんな中、周囲のワクチン接種済みの人々を見ていると「ワクチンを打っている/いない」が今後の交友関係に左右することも、筆者は感じ取っている。日本ではワクチン接種がようやく進み始めた昨今だが、人々が抱えていくアフターコロナの喜び、そして不安や戸惑いは、同じようなものかもしれない。

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(Text and photos by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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