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未接種で解雇、接種証明書の転売 …「ワクチン接種か否か」で揺れる米国

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
米国CDC発行のコロナワクチン接種証明書。イメージはペロシ下院議長のもの。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

アメリカは今、「ワクチン接種か否か」で揺れ始めている。

バイデン政権は、来月4日の独立記念日までに成人の70%が新型コロナウイルスのワクチン接種を少なくとも1回受けるという目標を掲げている。しかし成人の4人に1人は「ワクチン接種を受けない」もしくは「未定」とする人々であることから、目標達成は容易ではなさそうだ。

さらに、押し付けにもなりかねない「ワクチン接種義務」の動きも出始めており、停職や解雇処分、さらには訴訟問題にまで発展している。

「未接種」で178人が停職処分に

米南部テキサス州のヒューストン・メソジスト病院(Houston Methodist Hospital)では、医師や看護師など病院に勤務する全従業員に対して、新型コロナのワクチン接種を義務付けている。

接種完了の締め切りは今月7日だったが、これに対して「従業員にワクチンの臨床試験への参加を強制することは違法」とし、方針の一時的差し止めを求め、先月28日に117人の従業員が勤務先である病院を相手取り訴える騒ぎになっている。その後、病院前ではデモも起こっている。

接種を完了していない人は178人で、8日以降、2週間の停職処分中だ。その後も接種が完了していない場合は、解雇となる見込み。

同院CEO、マーク・ブーム氏は8日、これらの批判も予想の範囲であると述べた上で、「患者第一主義の目標に向かう全米初の病院」であることを強調し、方針に同意した従業員に対して感謝の意を表明した。

同氏によると8日の時点で、接種が完了済みの従業員は2万4947人に上るという(健康や宗教上の理由で免除を受けた285人、妊娠やそのほかの理由で期限延期中の332人など例外あり)。つまり178人の従業員は、全体の1%ほどだという。

また178人のうち27人は1回の接種を受けているため、2回目の接種を受けて復職できる可能性はあると、病院側は期待を寄せる。

ただし178人の中には昨年、感染爆発時に救急外来で働いていた「ヒーロー」と持て囃された医療従事者がいるのもまた事実で、一部のメディアも病院に批判的だ。ブーム氏はそれに対して、「時に批判とは、最先端の医療システムを提供する患者第一主義の我らには、避けて通れないものだ」と語った。

テキサス州のヒューストン・メソジスト病院。昨年、感染爆発時に救急外来で働いていた従業員は「ヒーロー」扱いされたのだが。
テキサス州のヒューストン・メソジスト病院。昨年、感染爆発時に救急外来で働いていた従業員は「ヒーロー」扱いされたのだが。写真:ロイター/アフロ

USAトゥデイ紙が、大手医療機関や公立病院を対象に行った最新の調査では、病院ごとの医療従事者のワクチン接種率は51〜91%と開きがあるという。接種を「義務」とした病院側の方針は、緊急事態下において、背に腹はかえられぬということか。

医療現場における従業員への接種義務は、ヒューストン・メソジスト病院のみではない。米北部インディアナ州のインディアナ大学ヘルス(Indiana University Health)も先週、3万6000人の従業員に対して、9月までにワクチン接種完了の義務付けを発表した。この方針について、インディアナ大学ヘルスは「医療従事者への予防接種の義務付けは今に始まったことではない。(新型コロナワクチン接種も)患者と地域住民を安全に守るための効果的な方法である」と表明している。

連邦雇用機会均等委員会(EEOC)は昨年12月、他人への「直接的な脅威」がある職場環境において、企業がすべての新入社員とオフィス勤務に戻る従業員に対して、合法的に新型コロナのワクチン接種の義務付けができると述べている。(身体の障害や宗教上の理由で接種を受けられない場合を除く)

接種義務か否かの指針は、医療現場や職場のみならず、飲食店、スポーツ会場、ブロードウェイ、大学などの教育機関、飛行機、フェリーなどさまざまな場において今、熱く議論されている過程であり、今後もしばらく続いていきそうだ。

ユタ州のソルトレークシティにあるレストランは、ワクチン接種完了済みの客のみを受け入れると発表。CNNの動画では、顧客が店の入り口でCDC発行のワクチン接種証明書を見せている様子を確認できる。

ニューヨーク市でも、レストランやバーなどでワクチン接種完了者のみを受け入れると発表した店がいくつかあり、反感を買うケースも。詳細

接種証明書、今や転売も

そのような動きの中で、接種派にとっては今や印籠のように携帯されているのが、接種済みを証明するCDC発行の「COVID-19ワクチン接種歴カード」(以下、接種証明書)だ。

筆者も念のため、外出の際はいつも携帯している。とあるオフィスビルを訪れた際、入り口のセキュリティースタッフから「ワクチンは打ったか?」と聞かれたことはあるが、「証明書の提示」を求められたことは、これまで一度もない。ただし「接種か否か」が、書類などの質問事項に追加され始めたのを感じる。

最近も取材先に提出する申請書類において「接種は完了しているか」の項目と「接種証明書のPDFファイル」の添付項目があるのを見て、これもニューノーマルの1つだと思った。(接種をしていない場合は、直近の陰性証明が必要とあった)

ニューヨーク州では、デジタルの接種証明アプリ「エクセルシオール・パス」(Excelsior Pass)も導入されている。

そんな中、カリフォルニア州ロサンゼルス郡にある大型接種会場では、従業員が528枚の未使用の接種証明書を盗んだ疑いで逮捕された。

契約社員として採用されていたムハマド・ラウフ・アメド(Muhammad Rauf Ahmed、45歳)容疑者は先月27日、大量の接種証明書を接種会場から持ち出しているところを警備員に見つかり、通報された。

その後、容疑者の車の中と滞在中のホテルの部屋から、大量の未記入の接種証明書が発見された。接種証明書を持ち出した理由について、容疑者は「現場の効率が良くなるために『事前入力』するため」と主張したという。しかし、容疑者が白紙の接種証明書を接種会場から持ち出すことは許可されていなかった。

さらに今月、カリフォルニア州サンホアキン郡のバーを経営する者が、偽物の接種証明書を1枚20ドル(約2000円)で販売した疑いで逮捕されている。

ちなみに、CDC発行の接種証明書はただの紙切れ(厚紙)だ。エンボス加工どころか、偽造防止技術などが一切施されていないので、偽造自体は難しいことではないかもしれない。しかしこの接種証明書は発行の際、担当スタッフがiPadで個人情報を入力しており、電子管理がなされている。

とは言え、現状としては接種証明書の提示まで求めているところはまだ多くなく、提示を求めても電子管理の情報までは確認できないだろうから、今後どのようにこの紙切れが本物か否かの判断をされるのか疑問だ。(注:アメリカでは、バーに行ったり酒類を購入したりするために、運転免許証などの精密な作りの偽造IDを業者から購入する未成年もたまにいるくらいだ)

eBayなどのECサイトやオークションサイトでは、偽物の証明書の販売、転売は禁止されているが、それでも偽物のロゴ入りの政府発行書類や有名大学の卒業証明書などの販売、転売が後を絶たない。偽物の接種証明書もECサイトでそのうち、高値でやりとりされることになるのだろうか?

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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