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容疑者は性依存症との報道も 8人死亡の米アジア系マッサージ・スパ連続銃撃事件

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
16日拘留後の、ロバート・アーロン・ロング容疑者。(写真:ロイター/アフロ)

16日、米ジョージア州アトランタ市および近郊のマッサージ・スパ施設3ヵ所で相次いで銃撃事件が起こり、計8人が死亡、1人が負傷した。

いずれの店もアジア系が経営しているとされ、亡くなった8人のうち6人はアジア系、2人は白人だった(うち7人が女性、1人は白人男性)。その後、ロバート・アーロン・ロング(Robert Aaron Long)容疑者が逮捕された。3ヵ所での発砲は、ロング容疑者1人による犯行と見られている。

アメリカでは新型コロナウイルスのパンデミックとなった昨年以降、アジア系の人々をターゲットにした差別、嫌がらせ、ヘイトクライム(人種、民族、宗教、性的指向に係る憎悪犯罪)が急増しており、連日のようにアジア系の人々が被害にあった事件が報道されている。

そんな中、アトランタの銃撃事件も被害者にアジア系が多いことから、アジア系へのヘイトクライムではないかと見られ、発生当初は現地メディアの報道もそのような可能性をほのめかす見出しが並んだ。

バイデン大統領も「動機が何であれ、心配は高まっている」とアジア系の人々への気遣いを寄せ、いかなる差別やヘイトクライムも許さないとするコメントを発表した。

容疑者は警察の取り調べで、襲撃した店を以前利用したことはあると供述しているが、容疑者本人からアジア系へのヘイト(憎悪)が事件の動機につながったとのコメントは今のところ出ていない。

通常の犯罪ではなく「ヘイトクライム」と認定するには、確固たる証拠が必要とされており、この事件がヘイトクライムになるか否かは、今後の捜査で明らかになるだろう。

犯人像:物静かな高校時代。現在はセックスアディクション

現地メディアの情報からの最新情報や見えてきた犯人像を抜粋する。

ロング容疑者は、ジョージア州ウッドストック市出身の21歳。2017年に高校を卒業した。両親と妹がいるが家出をし、19年1月以降、家族と連絡を取り合っていなかったようだ。

容疑者のインスタグラムのアカウントには、好きなものや自分の人生を表現するものとして「ピザ、銃、ドラム、音楽、家族、そして神」と書かれていた。

元同級生らは、容疑者を「物静かで、落ち着いて、いつも冷静だった」「友人は多くなかった。社交的でなく、いつも1人の世界に没頭していた」と証言している。容疑者として公開された写真も、高校時代とはまったく違う雰囲気だといい、こんな事件を起こすような人物ではなかったと、ショックを隠せないようだ。

容疑者はアトランタでの殺傷事件後、同様の事件を起こすためにフロリダに向かおうとしていた。容疑者の両親が、事件後に公開された防犯カメラの映像を観て息子が罪を犯したことを知り、警察に通報。その後、容疑者の携帯電話で居場所が追跡できたことが、迅速な逮捕につながった。

事件現場は「マッサージパーラー」だった

現在の容疑者について、17日朝になり、現地警察は報道機関を通して「セックスアディクション」(性依存症)と発表し始めた。

「Young’s Asian Massage」など報道された3店はいずれも、事件発生直後はアジア系の人が働いているマッサージ店やスパ店と報じられており、通常のマッサージやスパの店での事件だと思っていた人も多い。だからこそヘイトクライムではないかとささやかれていたのだが、「マッサージパーラー」(スパとも呼ばれている)ということが明らかになった(そのようなマッサージパーラーはアジア系が人気のようだ)。

マッサージパーラーは「売春ビジネスの最前線であることが多く、男性に性的に奉仕することがしばしば期待されている」と報道されている通り、すべてとは言えないまでも、性的欲求を満たすサービス、または表向きには通常のマッサージサービスを提供しているが店奥に入ると隠れたサービスがあるなど、さまざまな形態がある。いずれにせよ、事件現場が通常のマッサージ店ではなくマッサージパーラーということなので、容疑者がこのような事件を起こした動機は、当初言われていたヘイトクライム以外にほかにもあるかもしれない。

チェロキー郡フランク・レイノルズ保安官は「容疑者は、銃撃した3店をいずれも頻繁に訪れ利用していた可能性が高い。ヘイトクライムと断言するには時期尚早」と、現地メディアを通して発表している。

事件の動機の解明が待たれる。

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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