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トランプ支持者は、厳重なハズの議事堂を「なぜこれほど簡単に」襲撃できたのか? ── 現地で深まる謎

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
この日ワシントンD.C.に集まったのは4万人以上とのテレビ報道も。(写真:ロイター/アフロ)

アメリカでは6日、暴徒化した一部のトランプ支持者が連邦議会議事堂を占拠し、銃撃で1人を含む4人の死者を出すなど、前代未聞の大惨事が起こった。

夜には沈静化し、止むを得ず中断した上下両院会議は午後8時以降に再開。翌7日、バイデン次期大統領の当選が正式に確定した。

一方トランプ氏に対しては暴動を煽ったと非難が集中し、即時罷免を求める声も上がっている。事件後、ツイッターなどは一時使えなくなった。

トランプ支持者や共和党支持者の大多数は、平和的に抗議したかったはずだ(実際に筆者の知る支持者も皆、平和で良識があり友好的な人々だ)。しかし、群衆のうちいったい「誰が」、そして厳重警備体制が敷かれているはずの議事堂内に「どのようにして、いとも簡単に侵入」できたのか? ── 事件から一夜明け、現地の人々は首を傾げている。

建物に乱入した者とは?

コロンビア特別区首都警察は、容疑者の写真をオンライン上で公開した。警察はFBIと協力し、ホテルや空港などでも情報提供を呼びかけている。

そこには右翼でQアノンを支持する、Qシャーマン(Q Shaman)ことジェイク・アンジェリ(Jake Angeli、32歳)容疑者などが含まれている。アンジェリ容疑者はこれまでも、地元アリゾナでトランプ氏の集会や、選挙結果への抗議デモ、経済再開を求めたデモなどで、たびたび目撃されてきた。

毛皮の帽子をかぶった上半身裸の男が、Qアノン支持者として知られるアンジェリ容疑者。
毛皮の帽子をかぶった上半身裸の男が、Qアノン支持者として知られるアンジェリ容疑者。写真:ロイター/アフロ

ハワイから参加したニック・オクス (Nick Ochs)容疑者など、極右団体「プラウドボーイズ」のメンバーも目撃された。同団体は男性メンバーのみで構成されており、白人至上主義、反移民制度主義などとして知られる。

「首都よりこんにちは」などとツイートし、占拠中にライブストリーミングしていた。

白人至上主義者として知られる、ベイクド・アラスカ(Baked Alaska)ことインフルエンサーのティム・ジオネット(Tim Gionet)も容疑者として捜査の対象になっている。この容疑者も占拠中、動画を生配信していた。(現在アカウントが停止)

南北戦争中の「南軍の旗」を掲げている不法侵入者も確認された。この旗は奴隷制の継続を希望した南部の、いわゆる人種差別のシンボルとして、また憲法や民主主義の拒絶のシンボルとして、一般的には嫌厭されている。一方で、尊い南部の歴史そのものとしてそのまま捉える人も中にはいる。

手前が「南軍の旗」。
手前が「南軍の旗」。写真:ロイター/アフロ

逮捕者は現時点で少なくとも68人だが、今後増えていくだろう。

写真:ロイター/アフロ

亡くなった4人

サンディエゴに夫を置いて1人で参加したアシュリ・バビット(Ashli Babbitt、35歳)さんは議事堂に不法侵入し、群衆の先頭に立って窓枠によじ登り、さらに奥の部屋に入ろうとしていたところを、議事堂警官に至近距離から胸元を撃たれ、死亡した。

バビットさんは14年間の米空軍歴があり、その間に4度、アフガニスタンやイラクなどに派遣された退役軍人だった(注:アメリカでは軍人は国を守るヒーローとして尊ばれる存在)。

バビットさんのツイッターを見ると、愛国者で自由を愛し、熱心なトランプ支持者だったことが窺える。ツイッターでは、トランプ政権に関する情報をリツイートしたり、MAGAハットをかぶっているセルフィーや政治に関する意見を述べた動画を載せていた。

6日の抗議集会についても前日に、「我々をもう止められない。24時間以内に暴動が起こる。暗闇から光へ」といった趣旨の内容をツイートしていた。

不法侵入者らにより、議事堂内の器物損壊、窃盗などが報告されている。
不法侵入者らにより、議事堂内の器物損壊、窃盗などが報告されている。写真:ロイター/アフロ

ほかにも3人が議事堂内で死亡した。ペンシルバニアから参加の男性(50歳)、アラバマの男性(55歳)、ジョージアの女性(34歳)と、いずれも熱心なトランプ支持者だった。

死因について、55歳の男性は心臓発作とされているが、ほかの2人については、警察の発表では「救急措置によるもの」とされ、詳細は明かされていない。

Updated:その後議事堂警官も死亡し、死者は5人に)

なぜ、いとも簡単に侵入できたのか?

この事件が起きて現地では「議事堂ってそんな簡単に侵入できるものなの?」と、メディアも人々も首を傾げている。

アメリカの建物は一般的にセキュリティが日本より厳しい。その中でも役所関係、特に連邦政府の建物ともなれば、日ごろからテロを警戒してもっとも厳重に守られている。

実際にはこの議事堂も、普段からチェックポイントでバリケードを張り巡らし、議事堂警察や警備員らが入り口で警備をしていた。

1800年に一部が完成した歴史的な建物は普段、観光客が訪れることができるよう一般公開している。しかし事前予約が必要で、入り口では空港にあるような手荷物のX線検査がある。館内でも、常に専門ガイドとの行動が求められている。とにかくセキュリティは日頃から万全なのだ。

事件翌日の7日の議会議事堂。州兵が警備にあたっている。
事件翌日の7日の議会議事堂。州兵が警備にあたっている。写真:ロイター/アフロ

当然6日も、トランプ氏の呼びかけに応じて、全米中から支持者が集まってくるだろうというのは予測され、厳重で十分な警備体制が敷かれていたはずだ。

なんせトランプの支持者は、銃を持っていてもおかしくない人々である。(ワシントンD.C.では銃の持ち歩きは禁止されているが)

それが、である。

ヒートアップした群衆は議事堂警察と衝突してバリケードを取り去り、壁をよじ登ったりして、数カ所ある入り口を強行突破。建物内でも、窓ガラスを割るなどして奥に奥に進んでいった。

このニュースを知って筆者は当初「厳重であるはずの警備体制も、大群には降参状態だったのか」と思っていた。

しかし調べを進めていくと、驚くべき映像が出てきた。目を疑ってしまうのだが、群衆のためにバリケードを取り去ったり建物内で侵入者らとセルフィーを撮る警官や警備員の姿などもソーシャルメディアでシェアされているのだ。

これらの映像を見る限り、特に混乱状態ではない。また前述のオクス容疑者もそうだが、一旦入り込んだ侵入者らはリラックスして、自由に建物内を行き来している。

主要メディアで映されている写真はどれも、警官が拳銃を向けていたり、容疑者らが床に倒れ込んだりと緊迫したシーンが多い。しかしソーシャルメディアで流れてくるイメージの中には、違うものもたくさんある。

ニューヨークタイムズ紙にも驚くべきコメントが掲載されていた。まず「ワシントンD.C.に今から来るように、知り合い全員に電話を」という侵入者のコメント。そして、彼らに退去するよう説得はしたものの、聞く耳を持たない群衆らに対して「ただ彼らがやりたいようにさせてあげた」という警官のコメントだ。

ワシントンポスト紙の公開した映像には、警官が後ろに逃げて行く様子も映し出されている。

CURBEDによると、過去数ヵ月間に起こった大規模な抗議と違い、この日の議事堂警察は暴動鎮圧のための特別武装をしていなかったという。

「攻撃を阻止できなかった議事堂警察(年間予算4億6000万ドルで2300人の部隊)についての疑問が高まっている」と報じたのは、ニューヨークポスト紙。情報筋のコメントと共に「要するに、暴徒を防ぐのに十分な人員を配置していなかった」と述べ、連邦政府機関が暴動を過小評価したことが、侵入を防止できなかった要因とした。

ABCニュースも、「なぜ議事堂警察がこれほど準備ができていなかったのか、私にはわからない」という、ジョージタウン大学法科大学院の教授で元連邦検察官、メアリー・マコード氏のコメントを掲載している。

同ニュースのコントリビューター、ブラッド・ギャレット氏は「怒りに満ちた群衆が押し寄せ、大規模な事件に発展するとわかっていたのに、その準備や対策ができていなかった」とコメント。元FBI特別捜査官も 「これは驚異的な法執行の失敗だった」と述べた。

巨大化した暴動を抑えるために、待機中だった州兵やFBIの特殊部隊「SWATチーム」が現場に到着したのは、「事が起こった後」だった。

ギャレット氏は、「議事堂警察がそのための訓練をしなかったとは想像し難い」と語った。

7日の記者会見で、ライアン・マッカーシー陸軍長官は「事前に議事堂警察と話し合った際に、国家警備隊への要請はなかった」と述べ、計画内容の欠如を滲ませた。

「警官の抵抗なしで議事堂のドアが破られたのをテレビで観て非常に驚いた。これらは今後すべて分析されるでしょう。本当にチェックしなければならない」(国土安全保障省の副書記代理、ケン・クッチネリ氏)

「私はいつでもこの議事堂内では安全を感じていた。しかし、どうやったらこのような暴動が建物内で起こり得るのか。徹底的な調査が必要である」(カリフォルニア州の民主党および下院司法委員会、カレン・バス議員)

ワシントンポスト紙も、「あまりにも無防備なままにされていることに驚いた」とする専門家の声や、「警官配備策の失態について調べれば調べるほど憤懣やる方無い思いが増す。911テロ後の調査並みの厳密なる取り調べがなされるだろう」とするティム・ライアン下院議員などのコメントを載せた。

再発防止に向けて、今後どのような解明がなされるだろうか?

(*コメント追加しました)

逮捕者68人のうちD.C.在住は1人だけ。多くが全米中から集まったようだ。
逮捕者68人のうちD.C.在住は1人だけ。多くが全米中から集まったようだ。写真:ロイター/アフロ

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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