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17歳少年ライフル乱射に発展、3人殺傷 ── 警官に7発撃たれたジェイコブ・ブレーク事件その後

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
米ウィスコンシン州ケノーシャ市で発生しているデモ。(写真:ロイター/アフロ)

米ウィスコンシン州ケノーシャ市で8月23日、警官に至近距離の背後から7発発砲され背中に4発を被弾したジェイコブ・ブレークさんの事件が、ティーンネイジャーの少年による乱射事件を引き起こすという、思わぬ方向に展開している。

ブレークさんの事件後、同地では大規模な抗議活動が起こっており、一部は略奪、放火や器物損壊など破壊行為に発展するなど暴動化している。デモ発生から3日目の25日夜、暴徒化した集団に対抗し、銃で武装した民兵団(民間人による護衛グループ)が、地元のカーディーラーを放火や略奪から守るため、警備に当たっていた。

午後11時45分ごろ、州を跨いだイリノイ州から民兵として参加していた17歳の少年、カイル・リッテンハウス(Kyle Rittenhouse)は、何かのはずみで持っていたライフル(AR-15*)を発射。銃弾は1人目の被害者である男性の頭部右側に当たった。(*2016年に発生した、フロリダ州のオーランド銃乱射事件でも使用されたものと同じ型)

その後リッテンハウスはライフルを持ったまま逃走し、事件を目撃した多数のデモ隊や野次馬らが、リッテンハウスからライフルを取り上げるために無防備ながらも果敢に追いかけた。後方から殴られ倒れこんだリッテンハウスに対して、何人かが襲い掛かった。1人は持っていたスケートボードでリッテンハウスに襲い掛かったが別の人物と縺れ合いライフルを奪い取ることができず、リッテンハウスは乱射を始めた。銃弾はスケートボードの男性の胸元と別の男性の右腕に、それぞれ至近距離から当たった。人々が立ち向かい大混乱の中、すべてが一瞬の出来事だった。

群衆は蜘蛛の子を散らすよう四方八方に逃げたが、その後もしばらく乱射は続いた。それから、リッテンハウスは両手を挙げながらパトカーや何台もの装甲警察車両に向かって降参しに行ったが、最後までライフルを肩から外すことはなく警官に撃たれることもなかった(パトカーが後退するほどだった)。その後リッテンハウスは逮捕され、第一級故意殺人で起訴された。

人々がリッテンハウスと揉み合う様子や、乱射が始まり男性2人が至近距離から撃ち抜かれる様子、頭部を撃ち抜かれた男性が人々の介抱虚しく息を引き取る様子など、映画さながらの目を覆いたくなるショッキングなシーンは一部始終、その場の記者や一般の人々によって撮影され、ソーシャルメディアで瞬く間に拡散された。(現在は各メディアやYouTubeなどでも拡散されている)

『ミルウォーキー・ジャーナル・センティネル』紙によると、この乱射により頭部と胸部を撃たれた36歳と26歳の男性2人の死亡が確認された。右腕を撃たれた26歳の男性は、写真家アレックス・ローリーさん(@louriealex)のインスタグラムに掲載された写真を見る限り、被弾の傷が深く皮膚がえぐり返っているが、命に別状はないという。

ニュースサイト『ヘヴィ』によると、警察擁護派であるリッテンハウスはブルー・ライヴズ・マター運動に参加し、銃の愛好家でもあり、フェイスブックにはそれらをアピールする写真をいくつも投稿していた。(彼のいくつかのソーシャルメディアでは、母方の姓ルイス(Lewis)を名乗っている)

リッテンハウスは、乱射事件を起こした日の昼間、ボランティアとして参加した活動で、暴徒化した破壊者によって落書きされた高校の外壁の清掃作業をしていた。その清掃作業が写真と共に報道された。

また乱射事件を起こす数時間前、護衛中のリッテンハウスはライフルを肩にかけたまま、取材に答えている様子も動画として撮影されていた。

「我々は人々と財産(建物)を守るためにここにいます。皆さん、下がってください」とリッテンハウス。乱射事件はこの後、起こった。

ケノーシャ市ではブレークさんの事件以来、警察への抗議活動が暴徒化し、建物や車両に火が放たれたり略奪が起こったりしている。夜間外出禁止令が出されているが、多くの人々がそれを無視して外出し、抗議が巨大化している。トランプ大統領は現在、11月のアメリカ大統領選に向けた共和党大会中だが、26日のツイッターでこの暴動に触れ、連邦法執行機関と州兵を派遣し、法と秩序を回復させると声明を出した。

アメリカは、さらなる「国内テロ」の様相を呈してきた。

  • 当初8発との報道でしたが「7発」に修正しました。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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