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早くも「初の黒人女性大統領」の可能性が囁かれ始めた【米大統領選2020】

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
民主党副大統領候補のハリス上院議員。両親は移民で2世にあたる。(写真:ロイター/アフロ)

2020年アメリカ大統領選挙で民主党候補に内定しているジョー・バイデン氏が8月11日、副大統領候補としてカマラ・ハリス上院議員(カリフォルニア州選出)を発表。翌12日、2人はそろって公の場で初となる演説を行った。

バイデン氏に紹介されたハリス氏は極上の笑顔で壇上に上がり、政権奪還に向け決意を表明し打倒トランプを誓った。何度もバイデン氏の方に温かな視線を送りながら、カリフォルニア州地方長官時代にデラウェア州で同じ役職だったバイデン氏の子息、故ボー・バイデン氏(2015年がんで死去)と旧知の仲で、「父親譲り」の素晴らしい人柄だったとする生前のエピソードなども交え、自信に満ちた落ち着いた姿勢での話し振りが印象的だった。

12日のニューヨークタイムズ紙は、「候補者討論会で対立したかつてのライバル同士が力を合わせた」と伝えた。ハリス氏はこれまで、民主党の大統領候補指名争いに名乗りを上げていた人物だ。かつての討論会でバイデン氏と激突したが、昨年12月に撤退後はわだかまりはないとし、バイデン氏支持を表明していた。

トランプ氏にはハリス氏の「手のひら返し」が目に余るようで、「民主党討論会でのバイデン氏に対する態度は本当に失礼でひどかった」と、ハリス氏を批判する姿勢を見せている。

一方、ハリス氏のことを長く知るオバマ元大統領は、副大統領候補選出のニュースについて「彼女は(副大統領候補として)準備万端だ。今日はこの国にとって良い日。さぁ勝利を目指そう」と讃えた。

「あなたはハリス大統領を望んでいますか?」

「私の両親は、地球のそれぞれ逆の方向から世界トップ規模の教育を求め、アメリカにやって来ました」

ハリス氏はこの日の演説で、自身の出自についてもこう触れた。彼女は移民の両親の元、カリフォルニア州で生まれたアメリカ人2世にあたる。ジャマイカ出身の経済学者である父親とインド出身で生物学研究者の母親は、渡米後の1960年代、公民権運動で出会ったという。

有色人種の女性が2大政党から副大統領候補に選ばれるのは、ハリス氏が初めてだ。これまで、副大統領候補には女性を選ぶと表明していたバイデン氏は、黒人票を得るために黒人女性が選ばれるのではないかとも言われてきた。よってこのようなバックグラウンドを持つハリス氏が選ばれたのは、人々にとって特に驚きはなかった。

これについて11日付のニューヨークポスト紙は、「バイデン氏はそうすることを義務と感じていただろう。ハリス氏も自身のことを黒人であると認識している」と報じた。(注:アメリカでは黒人にルーツを持つ人は黒人と見なされ、自分のアイデンティティについて自らも誇りを持ち黒人と定義する傾向にある)

さらに記事は「こうなった今、争いはトランプ大統領対ハリス氏ということになる」と続いた。

そもそもバイデン氏は77歳という年齢を考慮し、大統領に選ばれたとしても1期のみで退任するのではないかと言われているがゆえ、副大統領の選出はさらに肝となる。2024年の大統領選で、ハリス氏が民主党の指名争いを勝ち抜く可能性もあり、「アメリカで初の黒人副大統領誕生か」を討論する以前に、近い将来「アメリカ初の女性大統領」の誕生も十分ありえる。

世論調査会社の米ラスムッセン・レポーツが発表した今週の調査結果では、有権者の59%がバイデン氏がもし大統領に選ばれたとしても、1期目の任務を満了することなく引き継ぐ可能性が高いと回答し、39%は可能性について「非常に」高いと回答した。

また民主党員でさえ49%の党員が、1期目の任務の満了について「確信が持てない」と回答しているという。ハリス氏は紛れもなく、主要政党から出馬の大統領選の切符を手にした初の黒人女性である。「あなたはハリス大統領を望んでいるか?」という記事の問いかけは、これらを踏まえた上でのものだ。

11月の大統領選の選択を「トランプ大統領かハリス氏かの二択」と見る専門家がいるのはそういうわけだ。彼女のこれまでのパフォーマンスを通して、かなりの左寄りであることがわかっており、有権者は今後バイデン氏の政治思想と同じくらいハリス氏の政治思想についても慎重に知る必要があるというのが現地の見方だ。

(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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