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日本人には決して語れない「黒人としてアメリカで育ち、生きること」ニューヨーカーのリアルな声(3)

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
BLMのミューロ(アート、市公認)が路上に施されたNYブルックリン(6月14日)(写真:ロイター/アフロ)

人種であれ性差やLGBTであれ、差別とは体験してこそ初めて自分ごととして理解できる。他人が悲しみに寄り添うことはできても、当事者にでもならない限り真の思いを計り知ることは難しい。

そこで私にできることは、ニューヨーカーのリアルな思いや実体験を拾い上げることだと思った。ニューヨークに住む人々に、今回のデモや実体験、気持ちについて聞いてみた。

前回からのつづき)

ニューヨーカーのリアルな声(3)

ジェリー・イノセントさん・39歳・弁護士、リチャードさん・35歳・金融/IT業

ロースクール時代からの友人、ジェリーさん(左)とリチャードさん(右)。(筆者撮影)
ロースクール時代からの友人、ジェリーさん(左)とリチャードさん(右)。(筆者撮影)

ジェリーさん:私はニューヨークのブルックリンで育った。黒人として、子どものころに両親に教えてもらったことが何かあるか? 親からは、人間関係における「トラブル」というものは、私たちに必要のないもの、避けるべきものということをまず教わった。その教えは子どもながらに、はっきりと私の記憶に突き刺さった。 両親にとってのトラブルとは、学校に通ったり公園で遊んでいるときに子どもなら誰でも体験するような子ども同士のトラブルなどとはまったく種類が異なるものだ。またもう1つの教え、それは警察に呼び止められた場合の対処だ。警官がいかに理不尽なことをしてきたり言ってきたりしたとしても、絶対に「口答え」をしないように、ということだった。

これまでの人生で差別を受けた記憶というのはたくさんあるが、わかりやすいところで言うと1つ思い出すことがある。ある時、友人が運転する車に3人の友人と一緒に乗って車を走らせていたとき、私たちは警官に飛び止められたことがあった。私は車中でたった1人の黒人だったが、その警官から私にだけ車から降りるようにと指示があった。私は素直に指示に従った。さまざまな職務質問を受けた。私は運転者ではなかったにもかかわらず。

リチャードさん:私はイギリスで生まれ2歳の時に家族と共にアメリカにやって来た。今はニューヨークに住んでいるが、幼少期の大半をフロリダで過ごした。私の両親はインドにルーツがあるが、私のそのようなバックグラウンドに関係してか否か、フロリダ時代に警察が私に対して挑発的な態度を示してきたような経験は一度もない。ストップ・アンド・フリスク(警官が路上で疑わしい人物を呼び止め、身元確認や身体検査をすること)も特になかった。

人々は、有色人種に対して長年繰り返し行われている悲劇に心底うんざりしている。多くの犠牲者は黒人、特に若い男性だ。彼らは、司法制度という権力が悪用された結果、不当に暴力を受け、不公平に裁かれてきた。そして、白人と同じ罪で有罪判決が下された場合にも、黒人の被告は刑期が大幅に長い傾向がある。これは人種隔離の時代を象徴する、ジム・クロウ*に起因する負の遺産だ。その悪しき警察および司法システムについては、この国でずっと議論されてきているが、期間があまりにも長すぎる。近年ビデオカメラとソーシャルメディアによって詳細が明らかになってきているのは良いことだが。

(* Jim Crow:奴隷解放後、アメリカ南部で残った人種隔離と人種差別の制度を指す言葉。ジム・クロウ法は、奴隷解放後に続々と成立した人種差別法の総称)

ジョージ・フロイドさんの死亡事件を発端として全米に広がったデモ。警察にはアカウンタビリティー(罪への責任。誤りを認め問題を解決すること)が必要だ。そして警官たる適切な行動基準を改めてほしい。何よりも、黒人という見た目で判断されて殺されたり暴力を受けたりすることがないように、彼らが本当の意味での自由を持って生きられる社会を築いていかなければならない。今こそ、警察制度と司法制度の改革の時だ。

ジェリーさん:人々はようやくこんにち、黒人やほかのマイノリティーの人々が直面している不正に気づき、何がこの国の問題なのかといったことや、改革するために今立ち上がる必要があることをわかり始めてきたと感じる。デモでは実際に、改革方針への叫びが聞こえてきた。また参加者はダイバーシティ(多様性)にあふれている。私にとって明るい兆しが見えなくもない。

写真で振り返る黒人差別反対デモ(ニューヨーク)

6月4日、NYブルックリンで行われたフロイドさんの追悼式に参加した人々。(c) Kasumi Abe
6月4日、NYブルックリンで行われたフロイドさんの追悼式に参加した人々。(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe
「黒人の命が重視されるまであらゆる命は重視できない」「私の命は大切」(c) Kasumi Abe
「黒人の命が重視されるまであらゆる命は重視できない」「私の命は大切」(c) Kasumi Abe

(*注:トップと下の画像全4枚はすべてニューヨークで発生した抗議活動および関連活動の様子です。上記インタビュイーのジェリーさんおよびリチャードさんと直接の関連はありません)

(Interview, text and some photos by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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