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白人警官への怒り全米各地に飛び火 NYでも最大規模の抗議活動「息ができない!」と叫び続ける人々

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
火を放たれたミネアポリス市の警察署前と、暴徒化した人々(5月28日)(写真:ロイター/アフロ)

人々の怒りは収まらず、日に日に増長している。

アメリカ・ミネソタ州ミネアポリス市で25日、白人警官が拘束していた丸腰の黒人男性の首を圧迫死させた事件。警官は免職となり、29日に殺人などの容疑で逮捕されたが、白人警官による度重なる黒人への不祥事に、人々は怒りを抑えきれない。

逮捕されたのは、デレク・ショーヴィン容疑者(Derek Chauvin)。容疑者ら4人の警官は、偽札使用の通報を受けスーパーに駆け付け、ジョージ・フロイドさん(George Floyd)に手錠を掛けた。その後、ショビン容疑者はフロイドさんを地面に押さえ付け、膝を使ってフロイドさんの首元を8分近くにわたって圧迫し続けた。

フロイドさんは圧迫されている間「I can't breathe」(息ができない)「Mama」(お母さん)などと悲痛に訴え続け、助けを求めた。反応がなくなってからもさらに2分にわたり、圧迫を緩めなかった。フロイドさんは救命処置を受けることもなく、その後死亡が確認された。

この一部始終を捉えた動画は、ソーシャルメディアで瞬く間に拡散された。動画を観た人々から聞こえてくるのは怒りの声だけではない。中には、不眠を訴え始める人も出てきている。

筆者はこの動画を翌朝のニュースで見たのだが、そこには1人の尊い人間の命が奪われようとしている残酷な過程が映し出されていて、反吐が出るほど不快な気持ちになった。残忍な行為が、脳裏に焼き付き離れない。もうこの動画は観れない。観たくない。なぜそこまで気分が悪くなったか。それはこの警官に「明らかな殺意」があると感じられたからだ。

フロイドさんが連行される(圧迫される前の)様子。抵抗するそぶりをいっさい見せておらず、警官の指示に素直に従っていたのだが。

警察署が火の海に 緊急事態を宣言

この事件に抗議するため、ミネアポリスでは多数のデモ隊が警察署に押し寄せ、火を放った。一部の州民は暴徒化し、警察とは関係のない州内外の店舗でも、火災や略奪、破壊行為が多数発生している。

ティム・ワルツ州知事は緊急事態を宣言し、州兵を招集して抗議活動に対応している。人々に冷静になるように訴えているが、沈静化する気配は見られず、人々の怒りは全米に飛び火している。

【閲覧注意:暴力的な映像が含まれています】ケンタッキー州ルイビル市での警察に対する抗議活動

【閲覧注意:暴力的な映像が含まれています】カリフォルニア州ロサンゼルス市

ここNYでも最大規模の抗議活動

ニューヨークでもジョージ・フロイドさんの死にかかわる抗議活動が28日から始まり、警察隊と衝突している。

【閲覧注意:暴力的な映像が含まれています】ニューヨーク市内で28日の様子

ニューヨークのタイムズスクエアで28日、サイレントデモを行う人

翌29日には場所を変え、マンハッタンやブルックリンなど各所で、同市最大規模とも言える大規模な抗議活動が行われた。

【閲覧注意:暴力的な映像が含まれています】29日、ブルックリンでの抗議活動の様子。この日200人前後の人々が逮捕されたと見られている。

ハーレム在住の退役軍人のヴィニーさん(55)は「今回の男の子(ジョージ・フロイドさん)の事件で思い出したのは、スタテン島の事件*だ。2つの事件は少し違うけど、今回の子は警官にまったく抵抗していない。もう黒人が殺されるのは見たくない」と語った。

  • エリック・ガーナー窒息死事件:ニューヨーク市スタテン島で2014年に発生。被害者の黒人男性、ガーナー氏が警官に腕で首を絞められ、I can't breathe(息ができない)と何度も訴えながら死亡した。

テレビプロデューサーの30代女性は、「この事件の発端はアメリカの長い負の歴史が絡んでおり、非常に複雑な問題です。この問題を語り始めると、私の話は決して終わりません。しかし1つ思うのは、近年スマートフォンで録画できるようになったおかげで、事件の真相がすぐに大多数に広まるようになったこと。これは良いことです」。

外れた場所で見守っていた警官と、会話をする機会もあった。NYPD(ニューヨーク市警察)に11年間勤務し、普段は仕事を楽しんでいるという。しかしこの日のデモ活動については「やれやれ」といった姿勢で「1日も早く沈静化してほしい」と語った。会話の最後に「君はプロポリス(警官寄り)かな、それともコンポリス(アンチ派)?」と聞いてきた。筆者は過去に起こったトラブル時、NYPDに何度か助けてもらったことがあり、感謝の気持ちがあると伝えると、警官は静かに笑顔を見せた。

ほかは怒りの群衆の中で、ただただ人々の積年の涙の叫びを聞くことしかできなかった。

Black Lives Matter!(黒人にも命がある)

No justice! No peace!(正義無くして平和はない)

I can't breathe! (息ができない)

I can't breathe! (息ができない)

I can't breathe! (息ができない)..............

(c) Kasumi Abe
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今日も引き続き、抗議活動が予定されている。

(Text and photos by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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