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米・人種別で異なる新型コロナ関連の死者数

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
ルイジアナ州ニューオーリンズの街角でくつろぐ人々(4月7日)(写真:ロイター/アフロ)

アメリカは4月8日、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染者が42万人、死者は1万4000人を超えた。国内でも最多の感染者がいるニューヨーク州では感染者が14万人、死者6000人以上。特に同州の1日の死者数は前日より過去最多の779人が増え、まったく歯止めが効かない。

連邦政府と州政府はこれから2、3週間でさらに死者が増えるだろうと発表し、警戒が高まっている。

これら発表されている死者数は、医療機関からの報告で集計されている。病院がパンク状態で受け付けてもらえず帰宅した軽症状者が、その後容態が急変したり、病院に行くことがないまま自宅で亡くなるケースも少なからずある。よって実際の死者数は、発表されているものよりさらに多いと見られている。

黒人の犠牲者数突出

これまで、犠牲者の詳細なデータは国でも州でも発表されてこなかったが、ここにきてトランプ大統領やニューヨーク州のクオモ知事などの会見で、人種別被害状況も語られるようになった。

7日のホワイトハウスでの定例記者会見で、トランプ大統領と国立アレルギー・感染症研究所の所長、アンソニー・ファウチ医師は、新型コロナウイルスの犠牲者にアフリカ系アメリカ人が多いことについて、「まったく聞き捨てならない。どうしてこのようになっているのか解明していく」と不満をあらわにした。

CDC(アメリカ疾病管理予防センター)でも、州ごとに吸い上げた人種や民族別データを今後精査していくという。

ルイジアナ、ミシガン、ニューヨークの例

新型コロナ関連の死者に黒人が多いのは、比較的黒人人口の多い都市、ルイジアナ州ニューオーリンズ、ミシガン州デトロイト、ニューヨークなどで顕著だ。

例えば、人口10万人ごとの関連死者数がニューヨーク州やニュージャージー州よりも多いルイジアナ州では、黒人人口が30%ほどなのに、コロナ関連死者は全体の70%となっている。イリノイ州では黒人人口は15%なのに死者の42.9%が黒人。ミシガン州でも黒人人口は14%、死者の40%が黒人というデータが明らかになっている。

新型コロナウイルスの重篤患者になりやすいのは、高齢者や持病のある人とされている。USAトゥデイは、ルイジアナ州の新型コロナ関連死者の多くは、以下のような持病を抱えていたと発表した。

高血圧(66.4%)、糖尿病(43.5%)、慢性腎臓病(25.1%)、肥満(24.7%)、心臓病(22.7%)、肺疾患(14%)、うっ血性心不全(11.5%)、神経疾患(10.9%)、癌(9.9%)、喘息(4.7%)

アフリカ系アメリカ人は、これらの持病を持っている人や肥満の人が多いとされている。

また、なぜほかの人種より黒人の人々が犠牲になっているかについては、スーパーやデリの店員などのエッセンシャルワーカー率の高さも関連しているのではないかと言われている。

ニューヨークがまだリラックスムードだった3週間前まで「(最強の人種のため)黒人はコロナに感染しない」「黒人はすでに免疫がある」などと彼らの間ではジョークも飛び交うほどだったのだが。

「黒人はどういうわけか新型コロナに免疫があるという話を聞きました。しかし科学的な証拠はありません。油断しないように」

「なぜアフリカ系アメリカ人やラティーノが犠牲に?」

4月8日のクオモNY州知事の記者会見でも明らかになった、犠牲者の人種別データ
4月8日のクオモNY州知事の記者会見でも明らかになった、犠牲者の人種別データ

ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事も、8日の記者会見で新型コロナの死亡者と人種の関連性について取り上げた。

ニューヨーク市の人口(860万人)は白人が32%と一番多く、次にヒスパニック系29%、黒人22%、アジア系14%だが、死者はヒスパニック系が34%と一番多く、次に黒人28%、白人が27%、アジア系7%という統計結果だった。

ただニューヨーク市を除くニューヨーク州で見てみると、人口の75%を占める白人が比例して死者数も62%と高い。次に人口が多いのはヒスパニック系11%だが死者は14%、黒人の人口は9%で死者18%、アジア系の人口は4%で死者4%となっている。

(* 在宅死はデータに含まれていない)

クオモ知事は「弱い立場の人々がいつも犠牲を払わなければならないのはいただけない」と話した。また記者に「ニューヨーク市内で黒人やヒスパニック系に犠牲者が多いのは、スーパーやデリで働くエッセンシャルワーカーが多いからではないか。今後それらの店をクローズさせる予定はあるか」と問われ、「減らすことはできる。今後の動向を見ながら検討していく」と答えた。

筆者がよく利用するブルックリンの大型チェーンのスーパーマーケットのスタッフは、ほぼ全員と言っていいほど黒人やヒスパニック系だ。数日前に利用したばかりだが、この時期に及んでも相変わらずマスクをしていないスタッフはまだ何人かいた。

州内で1ヵ月前に脱プラに向け撤廃されたはずのレジ袋がこの日大量に復活していたので、その理由を尋ねると「今までの紙袋は持ちにくいし[...]」と丁寧に教えてくれたが、彼らは私をはじめほかの顧客にも無防備で対応することにまったく躊躇ない様子だった。ニュースをチェックしていないのか、マスクが手に入らないのか、自分が不死身だと思っているのか、トランプ大統領のようにマスクを絶対にしない主義だからか?

エッセンシャルサービス認定をされ今も毎日職場に通うのは、ブルックリンのセキュリティ会社に勤務する筆者の友人だ。ヒスパニック系である彼は、プエルトリコ系アメリカ人。「今日の地下鉄では、10人のうちマスクと手袋をしていたのは自分を入れて3人だけ。7人は無防備だった」と驚きを隠せない様子だ。会話の最後にこうこぼした。「自分もマスクは手元にあと2枚しかないのだけどね」。

新型コロナ感染者数:

全米  42万9052人、死者数1万4529人

NY州  14万2384人、死者数6268人(前日より過去最大の779人増加)

出典:ジョンズ・ホプキンス大学

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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