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感染爆発対策で今日からロックダウン(外出制限)、ゴーストタウンと化するNY

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(c) Kasumi Abe

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の拡大が深刻化するニューヨーク州では、3月22日午後8時(日本時間23日午前9時)からいよいよロックダウン(外出制限)が始まった。

基本的に全従業員の出勤を禁じて在宅勤務を要請し、また全住民に不要不急の外出をしないよう自宅待機を4月19日まで要請する行政命令だ。

  • Updated April 6, 2020: 外出制限は4月29日まで延長。

少し近所を歩いてみたが、どの店もシャッターは降り通行人も少なく、活気がない(電飾が残されているのが救われる)。大騒ぎ(ホリデー)が終わった後に街に静けさだけが残る、アメリカの元日のような雰囲気に似ている。

道で目が合うとニコッとするフレンドリーなニューヨーカーも、もういない。すれ違う人は距離を取りたがり、よそよそしい。ニューヨークに住んで18年にして、初めて目にしたり感じたりするものばかり。

今日はその1日目だった。

ロックダウン(外出制限)の背景

アメリカでの新型コロナウイルスの感染拡大は深刻だ。現地時間3月22日現在で、全米で2万9664人、死者377人となり、中国とイタリアに次ぐ多さになっている。

その中でも全米最多の感染者がいるのが、筆者が住むニューヨーク州(人口1950万人)だ。感染者1万5168人、死者114人。

州内の感染者最多は、感染者は9045人、死者99人のニューヨーク市(人口860万人)。ここ数日、感染者数は毎日+2000、+3000人規模で増加の一途をたどっている。

出典:twitter.com/NYGovCuomo(3/22)
出典:twitter.com/NYGovCuomo(3/22)

大統領がNY州に大規模災害宣言

トランプ大統領は20日、ニューヨーク州に対して大規模災害宣言を発令し、連邦政府の支援を命じた。これにより、同州はFEMA(連邦緊急事態管理局)の災害支援(DRF)として426億ドル(約4兆5000億円)を利用でき、連邦政府は緊急対応にかかった公的および個人の支援費用を最大75%負担する。

ニューヨークタイムズ紙による、現在の症例数がわかるアメリカのマップ(アップデート中)

ニューヨーク州の感染者数激増について、アンドリュー・クオモ知事は20日の記者会見で、このように述べた。

「我々はアメリカのどの州より、中国や韓国より、1人あたりのウイルス検査を多く行っている。検査数を増やせば増やすほど感染者数が増えるのは当たり前の結果だ」

「感染がわかれば、自己隔離をすることになる。これは他の人、特にお年寄りや持病のある人への感染を防ぐため、良いニュースなのだ」

出典:twitter.com/NYGovCuomo(3/21)
出典:twitter.com/NYGovCuomo(3/21)

さらに「感染しても80%近くの人々は自己隔離により完治している」ことも、連日の記者会見で強調されている。ニューヨーク州で初感染者として認められたイラン帰りの女性も、その後自宅で自己隔離をし、一度も病院で治療を受けることなく完治したことが発表された。

また入院したとしても「108人が退院した」(3月18日現在)との発表通り、あまりニュースとして大々的に取り上げられないが、退院しているケースも実は多い。

感染ピークを遅らせることが重要なワケ

では大きな問題は何か?

ニューヨーク州では現在、さまざまなものが不足している。医療関係者が身につける防御ガウンやマスク、ICUでの人工呼吸器など。また医療従事者も足りていない。

ベッド数のキャパを5万3000から11万まで増やそうとしている。出典:twitter.com/NYGovCuomo(3/22)
ベッド数のキャパを5万3000から11万まで増やそうとしている。出典:twitter.com/NYGovCuomo(3/22)

知事は、人工呼吸器6000個など、さらなる調達を発表しているが、人、施設、物資、そのうちどれかが欠けても機能しないため、「全体的な充足のバランス」が求められている。

このままさらに感染が拡大すると医療崩壊が起き、助かる命も助からなくなってしまう。医療態勢を整えるためには、感染ピークを遅らせる措置を取らなければならない。(ピークの波を平らにするフラッテン・ザ・カーブ戦略

大型展示会用のジャビッツ・コンベンションセンターや大学キャンパスにも、米陸軍工兵司令部によりベッドが設置される予定。出典:twitter.com/NYGovCuomo(3/22)
大型展示会用のジャビッツ・コンベンションセンターや大学キャンパスにも、米陸軍工兵司令部によりベッドが設置される予定。出典:twitter.com/NYGovCuomo(3/22)

「ロックダウンは外出禁止令とは違う」

今回のロックダウン(外出制限)=自宅待機要請について、クオモ知事は20日の記者会見で、数日前から人々の間で発令を囁かれていた「シェルター・イン・プレイス令」(外出禁止令に近いもの)とは違うものであることを強調した。シェルター・イン・プレイス令という、より強い行政命令により、人々がさらに不安に感じパニックになる。それを避けたい意図があるようだ。

ロックダウン(外出制限)発令後も、「生活に必要とされるもの」に限り、引き続き稼働が許可されている。

例えば、スーパー、デリ、ドラッグストア、クリーニング、ガソリンスタンド、郵便局、公共交通機関、電気やガス、水道などは「必要なもの」として、引き続き営業する。またレストランでの持ち帰りやデリバリーも、引き続き許可される。

人々は「必要な時に限り」それらのサービスを受けるために外出することができる。

また屋外での「必要最低限」のエクササイズやハイキングも、他人との距離が6フィート(約1.8メートル)空いている限り、問題ないとされている。

しかし公共交通機関は、医療従事者をはじめとする上記の「必要な職種」の人たちのために稼働するので、一般の人は緊急でない限り、利用を控えなければならない。また家族や友人と会うことも、規模にかかわらず控える必要がある。

ではウイルスの感染拡大は、いつ終息するのか?

残念ながら、クオモ知事でも答えはわからない。ただしわかっていることは、数日や数週間単位ではなく「数ヵ月単位」の長期戦ということだ。

自由を強いられることによる、人々の精神面への打撃も心配されている。州ではストレスと隣り合わせのメンタルヘルスのために、新型コロナ専用のサポート機関を準備中だ。

クオモ知事は22日、記者会見の最後で、第二次世界大戦時の苦難の日々を乗り越えより強くなった先代の人々を取り上げ、このように閉めた。

「身体的な拘束が強いられる中だが、気持ちの拘束があってはならない。家族や友人と電話などでコミュニケーションを図ろう」

「このような状況の中で働いてくれている人々に感謝しよう」

「これは人生のプラクティスなのだ」

「人生とはチャレンジがつきものだ。困難に打ち勝ってこそ、我々は共に強くなる」

NY州、ロックダウン(外出制限)までのタイムライン

3月1日

NY州で初の新型コロナウイルス感染者を確認

(筆者が、街中のマスク着用者を初めて見かけたのは1月末だが、3月上旬の時点でマスク着用者は全体の0.5〜1%くらい)

3月7日

NY州知事が緊急事態宣言を発令

3月13日 5pm

市内の全ブロードウェイが閉鎖

収容人数500人以上の集会禁止

(この前後から、スーパーでは水やトイレットペーパーなどが売り切れ)

3月16日 8pm

バー、クラブ、映画館、カジノ、スポーツジムなどが閉店

レストランは持ち帰りとデリバリーのみ許可

500人以下の場合は収容率50%以下に

職場で働く人の数を50%以下に削減

この週から、学校、図書館、博物館、美術館、デパート、ショップなども次々とクローズ。また職場で在宅勤務が増え始める。

(筆者の感覚で、マスク着用者は5%くらいに増えたことを実感)

一部のバーでは「検疫カクテル」という名の持ち帰りカクテルも。(c) Kasumi Abe
一部のバーでは「検疫カクテル」という名の持ち帰りカクテルも。(c) Kasumi Abe

3月19日 8pm

ショッピングモール、遊園地、ボウリング場などがクローズ

職場で働く人の数を25%以下への削減を要請

3月21日 8pm

美容室、理髪店、ネイルサロン、タトゥーパーラーが閉店

(筆者の感覚で、マスク着用者は10%以上に増えたことを実感)

前日まで賑わっていたバスケットボールコートも施錠。(c) Kasumi Abe
前日まで賑わっていたバスケットボールコートも施錠。(c) Kasumi Abe

3月22日 8pm

生活に必要なもの以外、すべて閉鎖。人々は自宅待機、在宅勤務へ

  • Updated April 16, 2020: 外出制限は5月15日まで延長しました

(Text and photos by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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