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テレワークやオンライン授業に移行する人々の声 NY感染拡大で「社会的距離の確保」5事例

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(写真:アフロ)

COVID-19(新型コロナウイルス)の感染者数が増え続けると共に、よく耳にするようになったSocial Distancing(ソーシャル・ディスタンシング)。「社会的距離の確保」という意味だ。

大勢人が集まるイベントを開かない、そういう場所に行かない、友人らと会わないといったことから、道ですれ違う人と約2メートル距離をとるなど、人同士の接触を積極的に減らす対策を指す。

感染の広がりを抑えるために、このソーシャル・ディスタンシングが今、人々に求められている。

ニューヨーク市内でも、先週から在宅勤務(テレワーク。英語ではテレコミュート、リモートワークと呼ばれる)に移行する企業が激増中だ。大学でもオンライン授業に切り替えが始まった。

実際に在宅勤務やオンライン授業を始めた会社や人々に話を聞いた。

《在宅勤務、テレワーク》の実例

多くの友人・知人にもヒアリングしてみたところ、市内で在宅勤務を実施し始めたのは、3月9日の週に入ってからが一番多いようだ。おかげで、ラッシュアワーに地下鉄を利用する人がだいぶん減った。

中には「会社でしかできない業務がある」ということで未だに出勤している友人もいるし、業務によって在宅が不可能なものもある。しかし可能な限り、在宅勤務を導入する企業は来週からも増えていくだろう。

実例1

■ IT企業

「自分で選べるWork from home、今後も」

  • 使用している通信ツール:Backlog, Typetalk, Cacoo, Google Hangoutなど

「ニューヨークのこのオフィスでは、月曜以外は自分で選べるワーク・フロム・ホーム(WFH、在宅勤務制度)にしました」と話すのはIT企業、ヌーラボの共同創業者、田端辰輔さん。

出社したかったら毎日来てもよいし自宅で仕事をしたかったら在宅勤務でもよく、社員が自ら選択できるという。

2月中旬に開始しもうすぐ1ヵ月だが、毎日出社するのは田端さんも入れて3分の1、残りが週2、3日出社。中にはまったく出社しないスタッフもいるという。

同社の本拠地、日本(東京、京都、福岡)のオフィスでは約4年前から、家庭の事情で離島や山岳部に引っ越したなどのケースにおいて、在宅勤務制度を必要なスタッフに提供してきた。

田端さんが代表として管轄するニューヨークオフィスでは、新型コロナ騒動以前から在宅勤務制度にしようと考えていたらしいが、この騒動が起こったため、タイミングを合わせて開始したという。

ソフトウェア開発という同社の業種について、田端さんは「対面コミュニケーションはあまり必要ないですし、要件を話すだけならうちが開発しているTypetalk(チャットツール)を使えば済むことなので、WFHで困ることは今のところありません」と言う。

とは言え出勤ゼロにはせず、「月曜日のみ集まりましょう」としているそうだ。「やはり『チーム』として確保しておきたいですから」。

「大きなスクリーンが好きなのと自宅で仕事をしたくない」という理由で、毎日出社する田端さん。この日は終日1人だった。(c) Kasumi Abe
「大きなスクリーンが好きなのと自宅で仕事をしたくない」という理由で、毎日出社する田端さん。この日は終日1人だった。(c) Kasumi Abe

皆が集まる月曜日の朝は会社で用意した朝食をとりながら、久しぶりに会う同僚と近況報告をする。会話も弾み、社風の向上にもよいと言う。

一般的に、雇用する側が在宅勤務で気になるのは「スタッフが真面目に自宅で仕事をするか?」という事ではないだろうか。

「うちの場合は、やる事をちゃんとやっているかがもっとも大切で、パソコンの前に勤務時間内にいるかどうかはあまり関係ないんです。週1の出社日を確保しながら、今後もずっとこのまま続けていく予定です」

実例2

■ 国連関連

「在宅勤務で生産性が向上しています」

  • 使用している通信ツール:Skype, Zoom, メール, 携帯電話など

ニューヨークにある国連諸機関の1つに勤務するSさん(女性)。郊外に住むSさんはこれまで、片道1.5時間をかけて毎日通勤する生活を送ってきた。しかし新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、国連では3月11日から週2、3日の在宅勤務になり、16日から週5日の完全在宅勤務に移行した。4週間の予定だという。

「私は午前6時に起床する生活でしたが、在宅勤務が始まって1時間長く睡眠時間を確保することができるようになりました。起床後に20分ほど散歩に出て、ニュース(もちろんCOVID-19関連)をチェックしながら朝食をとり、シャワーを浴び、午前9時30分に仕事を開始しています」

在宅勤務の利点として、Sさんは出勤時間(往復3時間)を散歩やエクササイズのために使えるようになったことと、ストレスが軽減されたことを挙げた。

「無駄な通勤時間もなくなり、難しい同僚とのやり取り、同僚との立ち話、急な追加業務の依頼や突然の電話対応、不必要なミーティングへの参加がなくなりました。「疲れやストレスがなくなり、より生産的に仕事に取り組めています」

一方、欠点について聞いてみると「仕事に必須のまともなスキャナーが自宅にないので、早く購入しなければなりませんが、購入費は経費精算をするので大きな問題ではありません」と言う。

遠隔作業において、上司はスタッフが真面目に仕事に取り組んでいるか否かをどのように判断するのだろうか?

「私たちはタイムカードを使っていません。代わりに使っているのはHonor Principal*です」

  • 直訳すると「名誉原則」=人としての名誉やプライドを持った、社会的責任や自覚、誠実さといったような意味

実例3

■ メディア

「取材ができないと今後困ることになる」

  • 使用している通信ツール:Skype, メール, 携帯電話など

「マンハッタンのオフィス周辺は、人がとにかく少なくなりました」と語るのは、出版社に勤務する編集職の女性。同社では3月上旬から、一部の部署を除いてリモートワークやフレックス制を導入し始めたと言うが、彼女は今もオフィスに出社している。

「在宅勤務が難しいスタッフも中にはいます。例えば、会社のパソコンがどうしても業務に必要な場合、そのパソコンを自宅に運ばなければならなくなります。また正社員でない経理スタッフは情報を社外に持ち出せないため、今も出勤しています」

メディア業界は、新型コロナ騒動によって困っていることがある。「記者会見が次々に中止になっています。また、取材についてもこれまでは断られずにいたのですが、今後の状況次第では、対面取材が困難になってくるかもしれません」と危惧する。

ソーシャル・ディスタンシングが進めば、外出や旅行など人々の行動を促す情報の発信もしにくくなるため、すでに決めていた企画の変更をしている最中だと言う。「騒動が1日も早く終息することを願っています!」

《オンライン授業》の実例

ニューヨーク州では3月11日、クオモ知事により、SUNY(ニューヨーク州立大学)とCUNY(市立大学)で19日から今セメスターの残りの授業をディスタンス・ラーニング(オンライン授業)に移行することが発表された。

実例4

■ 州立大学

「留学している意味が感じられません」

  • 使用している通信ツール:Zoomなど

ニューヨークの郊外ハリソン郡にあるSUNYパーチェス校で、アートマネジメントを専攻している、留学生の飯塚映励奈(えれな)さん。

同校では11日からオンライン授業に少しずつシフトし、13日から本格的に開始した。また、食堂や週末のパーティーなど、15人以上が集まるものが排除されているという。

オンライン授業への切り替えについて、「初めは驚きと同時に、必然的にこうするしかなかったなという気持ちになりました」と飯塚さん。

芸術系の大学の同校では、100%すべての授業がオンラインに切り替わったわけではなく、ダンス専攻の学生の中には、まだ実際に大学に通っている人もいるそうだ。

「ダンサーの友人はパフォーマンスの予定がすベてキャンセルになり、本当にかわいそうです。留学している意味が、今は感じられません」

宿題のほとんどは今、インターネットによるもので、宿題自体について苦はないが、授業を受けるやりにくさを感じている。

「オンラインではプロフェッサーに直接会いに行けないですし、インターネットのトラブルがあるとまったく授業にならないです。さらに友だちとも会う機会が減り、英語を話す機会も減ってきました。みんな自宅に引きこもっている状態です」

実例5

■ アートスクール

「授業云々より生活がどうなるか心配」

  • 使用している通信ツール:Webexなど

マンハッタンにあるアートスクール、クリスティーズ・エデュケーションで、現代美術とマーケティングを専攻しているEさん(女性)。同校でも3月12日から4月上旬までの予定で、オンライン授業に移行した。

「オンライン授業により通学時間の節約になるし、人混みが減るのはよいこと。ただしやりにくい面もあります」

オンライン授業では、声とスライドだけを追いかけるので難しさを感じると言う。「プロフェッサーの顔は見えず、アイコンタクトもとれません。音質が悪い時もあります」。

通常の授業では、例えばある学生が発言しようとする場合、アイコンタクトやボディランゲージをプロフェッサーは感じ取り、発言を促してくれる。また生徒2、3人が同時に発言したとしても自然な流れで議論が進むが、オンラインになるとそれらの温度が伝わってこないため、自分が発言したい時は誰かの会話を遮って伝える必要があるし、2、3人が同時に発言した瞬間、皆が同時に発言を止めるということもあると言う。「少し気まずい瞬間です」。

「慣れるのに少し時間がかかるかもしれませんが、それは小さい問題です。それより...」とEさんは続ける。

「今の私は、社会の一員として人々と直接的な触れ合いがなくなってしまったことが気がかりです。現時点ではまだそれほど大きな問題ではないですが、今後どうなってしまうか、これからの生活について不安になります」

(Interview, text and photo by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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