Yahoo!ニュース

NYで不法移民に運転免許証発行へ 試験場は長・長・長蛇の列

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
この街では不法移民であろうと、運転免許証がある方が仕事の幅が広がる。(写真:アフロイメージマート)

ニューヨーク州では12月16日より、在留資格のない不法移民が運転免許証を申請できるようになり、運転免許試験場にあたるD.M.V.(Department of Motor Vehicle)には、申請手続きのため初日から長蛇の列ができた。

ニューヨークタイムズ紙によると、ニューヨーク市クイーンズ区のD.M.V.オフィスには、16日の営業が開始する午前8時前から、数えきれないほどの人々が列をなした。午後1時半の時点で、入り口まで到達できない人が多数だったようだ。またブロンクス区では、試験室が満室でこれ以上の対応ができないと、正午過ぎになってこの日の受付終了が告げられたところもあった。

NBCニュースの報道では、ニューヨーク市から北部のヨンカーズ市にあるD.M.V.オフィスも相当の混雑ぶりで、早朝からできた人々の列は午前11時半の時点で3時間待ちとなった。オフィスの中にやっと入れたとしても、申請手続きにさらに3時間半超えの待ち時間となった。

  • D.M.V.オフィスに並ぶ人々。中国や韓国系移民が多いニューヨーク市クイーンズ区フラッシング地区にて。

  • ブルックリンからのツイート

NBCニュースの報道では、列をなした人々から「ついに運転免許証が取得できる。何年もずっとこの時を待っていた」「グリーンライト法* が今後どれほど長く効力を有するかわからないため、速攻でこの機会を利用した」などというコメントが聞こえてきた。

*グリーンライト法とは?

運転免許証アクセスおよびプライバシー保護法のことで、通称「グリーンライト法」(Green Light Law)と呼ばれている。今年6月17日に制定され、半年後の12月16日に施行された。

2001年の911同時多発テロ以降、ニューヨーク州の運転免許証取得には、ソーシャルセキュリティ(社会保障)番号が必要となったため、これを持たない不法移民は運転免許証を取得したり更新したりすることが困難になっていた。

しかしグリーンライト法の施行により、16歳以上であれば、在留資格を問わず誰もが運転免許証を申請できる。(在留資格のない人が運転免許証を申請する際、「ソーシャルセキュリティ番号が発行されていない」という宣誓供述書に署名する必要があるが、プライバシーは保護される)

州内に住む16歳以上の不法移民数は、90万近くと言われている。この国で不法滞在と言えば、メディアの影響で特定の地域出身者のイメージを持つかもしれないが、出身国は実にさまざまで、その中には当然、オーバーステイで違法滞在をしている日本人も少なからずいる。今回の措置で、これらの人々の多くがグリーンライト法の恩恵を受けるだろうと見られている。

注意点としては、グリーンライト法のもと発行される運転免許証はスタンダードタイプ、つまり普通自動車に限る。トラクター・トレーラー、ダンプトラック、旅客バスなどの商用自動車(CMV)の運転には無効だ。

また「リアルID法」によって、2020年10月1日より、国内線航空機の搭乗や、米軍基地や原子力発電所など連邦施設へのアクセスには、アメリカ人、外国人問わずすべての人がパスポートなど「リアルID」の提示を義務付けられる。有効な運転免許証をリアルIDにするには手続きが必要だが、グリーンライト法により取得した運転免許証は、運転や通常のIDとしては有効だがリアルIDとしては認められない。(リアルIDの運転免許証には、右上に「☆印」が入る)

不法移民への今回の措置について、市民の中には当然ながら反対派も多く、さまざまな議論が飛び交っているのも事実だ。だが、ニューヨーク州はさまざまな利点を考慮し、国内で不法移民が運転免許証を取得できる13番目の州になることを選んだ。また施行初日は隣のニュージャージー州でも同類の法案が可決するなど、大きなムーヴメントとなっている。

ではグリーンライト法による利点とは何かということだが、これにより16歳以上の誰もが合法的に運転ができ、車両保険にも加入できるようになったこと。また、地元のビジネスをサポートするだけでなく、新たな財政収入が見込まれ、無免許運転によるひき逃げ事件などが減り、交通安全を導くものとの見方がされている。

ニューヨーク州上院による発表では、法施行から3年間で新たに8,390万ドル(約92億円)と、それ以降は毎年640万ドル(約7億円)の追加財政収入が見込まれている。また、2015年に同様の法律が施行された隣のコネチカット州では、2016~2018年の間で、無免許運転の有罪判決が約4,000件減少し、ひき逃げ事件は9%減少したという。

また上級司法アナリスト、アンドリュー・ナポリタノ(Andrew Napolitano)氏は、今回の新法について「民主党がリードしている措置であるから、(移民の擁護団体など支持派による)民主党への一票に導いたのではないか」とフォックスニュースで語っている。

不法滞在者が喉から手が出るほど欲しかった運転免許証。警察に呼び止められでもしたら、それを印籠のように見せることになるのだろう。

(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

安部かすみの最近の記事