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ストレスや不眠に効果のある大麻草成分「CBD」が大ブーム ニューヨーク最前線

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
CBDが並ぶNYの「Standard Dose」。(c) Kasumi Abe

今年アメリカの美容・健康業界で大ブームとなっているCBD。

CBDとは大麻草成分の一つの天然物質で、自然療法として利用されている。

健康効果には、心身がリラックスし、不安や心配を取り除き、ストレス、不眠(睡眠障害)、慢性痛の解消、鬱(うつ)防止などがある。違法薬物のマリファナのようにハイ(酩酊状態)にならず依存性もないとあり、ブームは今後も続いていきそうだ。

日本ではまだ名前も効用も知られていないのが現状だろう。そこでまず、CBDを知る上で基本的な知識を解説する。

CBDを知る上で知っておきたいキーワード

CBD: 別名カンナビジオール(産業用ヘンプとマリファナ両方に含まれる成分)。マリファナ吸引のようにハイになるなどの精神活性作用はない。

THC: 別名テトラヒドロカンナビノール(産業用ヘンプとマリファナ両方に含まれる成分)。マリファナ吸引で気持ちがハイになるのは、この成分の高濃度の影響。

大麻草=カンナビス、キャナビス(Cannabis): マリファナ、ポット、ウィード、ヘンプ(麻)などの植物の総称。ヘンプ(麻)とマリファナはDNAが同種だが、同一の植物ではない。

産業用ヘンプ=麻(Industrial Hemp): 穀物の麻の実や油などの食用、麻織物などの繊維、住宅用資材や工業製品原料などに利用されている。

  • アメリカでは今年から、0.3%未満のTHCを含む産業用ヘンプが規制植物指定から除外され、ほかの農作物と同じ扱いになったため、CBDが抽出された商品の販売が認可され、市場に一気に現れた。(詳細は下記)

アメリカの連邦法で定められた大麻草(カンナビス、キャナビス)の区分けを表すと、このようになる。

  • 産業用ヘンプ(麻)とは、CBD成分の含有率が20%以上で、THC成分が0.3%以下
  • 違法薬物のマリファナは、CBD成分の含有率が10%以上で、THC成分が20%以上

と、厳密に区分けされている。

出典:International Cannabis Association (Internationalcannabisassociation.com)
出典:International Cannabis Association (Internationalcannabisassociation.com)

米CBDシーンをリードする専門家に聞いた

「今年一番の大ヒット」には根拠がある。

昨年12月20日にトランプ大統領が「2018年農業法案」(Farm Bill 2018)にサインをし、THC成分0.3%以下の産業用ヘンプが規制植物指定から除外され、ほかの農作物と同じ扱いになったため、今年1月からCBDが商品化され瞬く間に全米に広がったのだ。

市内を歩いても、店の看板やショーウィンドウで「CBD」という文字を見かけるようになった。

(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe

10月27日にニューヨーク市内1号店をオープンした話題のスーパー「Wegmans」でも、さまざまな種類のCBD商品が販売されている。

「Wegmans」の自然療法コーナー。(c) Kasumi Abe
「Wegmans」の自然療法コーナー。(c) Kasumi Abe

参照記事:

米企業評判1位&働きがいのある会社3位の優良スーパー「ウェグマンズ」人気の理由【徹底解剖】

「どんな人にもおすすめ」

登録栄養士で産業用ヘンプの専門家である、アシュリー・コフ(Ashley Koff, RD)さんは、CBD効用を啓蒙するために、商品の選び方や使い方、安全性について、デジタルツールガイド『Better CBD Nutrition』(より良いCBD栄養摂取)にまとめた。

自身もCBDオイルの愛用者で「カフェイン過敏症を軽減し、集中力を高め、よく眠れる」と、効果を実感中と言う。

登録栄養士でヘンプ専門家のアシュリーさん。(c) Kasumi Abe
登録栄養士でヘンプ専門家のアシュリーさん。(c) Kasumi Abe

「どんな人にもおすすめできるもの」と言うCBD。その理由として、人間(とほとんど動物)にはエンド・カンナビノイド・システム(ECS=身体調整機能)が備わり、カンナビノイドが作用する受容体 (CB1とCB2)にCBDが直接的に働きかけることで、ECS本来の働きを取り戻すことができるからだと言う。

商品を気軽に試すことができるCBD販売店

地元民をはじめ世界中から観光客が集まるマンハッタン・ノーマッド地区の目抜き通りブロードウェイ沿いに、自然療法とホリスティック(心身の健康)の専門店「Standard Dose」がある。

CBDと植物由来の美容&健康商品をそろえる「Standard Dose」。(c) Kasumi Abe
CBDと植物由来の美容&健康商品をそろえる「Standard Dose」。(c) Kasumi Abe

痛み、ストレス、エネルギー増強、消化不良などに効果的な、アシュワガンダ、霊芝、ターメリック、冬虫夏草など植物由来のものを取りそろえている。それらに加えて「CBDへの関心の高さも開業以来、日々実感している」と言うのは、オーナーのアンソニー・サニガー(Anthony Saniger)さん。

前職の美容業界で15年間マーケティングをしていたアンソニーさんが、CBDのトレンドの兆しが見え始めたのは3年半ほど前。いち早くリサーチを始め、ヘンプの合法化に伴い「消費者がCBD商品を手にとって実際に試したり、理解を深められるプラットフォームの必要性」を感じ、この店を今年5月にオープンした。

「CBDはここ数年で驚くほど急成長しています」とアンソニーさん。(c) BFA
「CBDはここ数年で驚くほど急成長しています」とアンソニーさん。(c) BFA

「CBDは急成長している新分野で、一部の人には未知のものだから、うちで取り扱うものはラボで厳密に基準値(THC 0.3%以下)のテストを行い、自分もすべて試し、安全性が確認されたものだけです」とアンソニーさん。

売れ筋商品は、筋肉や関節の痛みを和らげるCBDクリーム「Prima」や、心地よい睡眠に誘うCBDティンクチャ(舌下投与する液状製剤)「Robyn for Sleep 」など。

「私は睡眠障害があったのですが、CBDティンクチャを寝る30分前に摂るようになったら、夜ぐっすり眠れるようになりました。メラトニン(睡眠薬)を摂った翌朝のボ〜とした変な感覚もないので気に入っています」

質の良い睡眠を授けてくれるCBDティンクチャ「Robyn for Sleep 」(160ドル)。(c) Kasumi Abe
質の良い睡眠を授けてくれるCBDティンクチャ「Robyn for Sleep 」(160ドル)。(c) Kasumi Abe

ただし、CBDを摂れば誰もが一朝一夕で健康を手に入れられる、ということでもない。

ヨガやメディテーションのクラスも設けている理由として、アンソニーさんは「CBDは症状や兆候をカバーするものだが、問題の根本解決には至らない」。健康になるためにはホリスティク・ウェルネスの改善が何よりも大切だと言う。

心からリラックスできる雰囲気のヨガ&メディテーションルーム。(c) Kasumi Abe
心からリラックスできる雰囲気のヨガ&メディテーションルーム。(c) Kasumi Abe

CBDフェイシャルやフラワーの量り売りも

ブルックリンのスパ「Area Spa」を訪れると、若々しく快活そうな女性客2人がちょうど店から出て来るところだった。同店の人気メニュー、CBDフェイシャル&マッサージを受けたという。

「CBDフェイシャルとマッサージはとても人気があります」と言うのは、同店のオーナー、ロレッタ・ジェンドヴィル(Loretta Gendville)さん。CBDティンクチャとオイルを使うこれらのサービスは、肌によく、リラックスする効果があると言う。

1998年創業のスパ「Area Spa」。(c) Kasumi Abe
1998年創業のスパ「Area Spa」。(c) Kasumi Abe

当地でスパやヨガスタジオを経営して22年、ずっと美容&健康業界に身を置くロレッタさんは「CBDのここ数年の注目度は目を見張るものがある」と、近年のCBD人気に驚きを隠せない。

ロレッタさんはほかにも、ビーガンカフェ「Planted Cafe」やゼロウェイスト(無駄を出さない)がコンセプトのバルクフード(量り売り)食材店「Planted Market」なども経営する。Planted Marketでは食材に加え、無農薬で栽培されたCBDフラワーや、CBDオイルなども販売している。

「CBDフェイシャルはとても人気」と、ロレッタさん。(c) Kasumi Abe
「CBDフェイシャルはとても人気」と、ロレッタさん。(c) Kasumi Abe
CBDフラワー(10ドル/g)は粉々に砕きMCTオイルと混ぜ、料理に使ったりコーヒーに混ぜたり、石鹸の材料として使うなど用途は広い。(c) Kasumi Abe
CBDフラワー(10ドル/g)は粉々に砕きMCTオイルと混ぜ、料理に使ったりコーヒーに混ぜたり、石鹸の材料として使うなど用途は広い。(c) Kasumi Abe
ゼロウェイストの店「Planted Market」。(c) Kasumi Abe
ゼロウェイストの店「Planted Market」。(c) Kasumi Abe

今後このようなCBDを取り入れた店やサービスは、トレンドと共にもっと増えていくだろう。

NYでCBD添加の飲食物が販売禁止、なぜ?

このように健康&美容業界の新星として大注目されているCBD。

しかし昨年12月、アメリカ食品医薬品局(FDA)が、CBDの飲食物への添加は法律で認められているわけではないと発表したのを受け、ニューヨーク市保健局でも、CBDが含まれる飲食物の提供や販売を今年7月1日から禁ずると発表し、すでにCBDメニューを販売していたレストランやカフェなど、飲食業界を混乱させた。

ニューヨーク市保健局の最新の発表
ニューヨーク市保健局の最新の発表

ただし実情では、7月以降も飲食店の軒先で、売り文句の「CBDメニューあります」という文字をよく見かけていたし、最近までCBD添加の飲食物が厳密に一掃されているわけではなかった。この禁止措置は突然の発表だったため、市保健局より10月1日まで猶予期間が設けられていたのだ。(10月2日から正式に違反金最大650ドルが課せられることになった)

ロレッタさんのビーガンカフェでも、これまでCBD入りのコーヒーやフードメニューが好評だったが、市保健局の検査員が店にやって来て、商品を出さないように指導されたという。

「顧客が自分でCBDを飲食物に入れて摂るのは取り締まりの対象ではないのに、飲食店が添加して提供してはダメというのは少しおかしな話なのですが、トラブルになりたくないので従い、取り下げた一部の商品を販売するために、食材店をオープンしました。CBDは急に出てきたため、認可の下りていない一部のハーブと同様に保健局はこの新しいものをどのように扱うべきなのかよくわかっていないのが現状です」と、ロレッタさんは言う。

アンソニーさんの店でも、顧客が自分で飲食物に添加する用のCBD入り粉末商品は引き続き販売している。「FDAはこの新しい分野をどう取り扱っていくのか、細かく規定した新ルールを模索している最中」とアンソニーさん。

「法律や安全性を問われる医療に関わることは複雑なので、取り決める方も慎重にならざるを得ないのです」と、アシュリーさん。「CBDは、認証された医療提供者に相談の上で、子どもでも摂れるもの」としながら、「CBDを定期的に摂り入れる際は、治療や健康づくりの目標について明確にしておくこと、そしてCBD摂取の意向を掛かりつけの医師に知らせることがもっとも重要です」

今回、筆者もCBDブームに便乗し、グミ、ティンクチャ、クリーム、フェイシャルを体験してきた。言われている通り、非常にリラックスした気持ちをもたらしてくれるものだと実感した。お酒を1〜2杯飲んだ時のようなフワッとした感覚に近かった。寝つきが悪い時にグミを取ると、30分ほどで眠れ、朝まで熟睡できた。

ただし筆者は健康的な問題が特にないため、頻繁にお世話になることはなさそうだ。緊張時や不安時、眠れないときなどにまた試してみたいと思った。

ニューヨークは不眠症の人が実に多い街だ。眠れないとこぼす友人何人かに今回のCBD体験を伝えたところ、CBDについてはどの人も知っていたが、まだ試したことがないということで矢継ぎ早に質問攻めにあい、人々の関心の高さを改めて感じた。

一部の報告では来年、約2.4兆円相当の規模にも膨らむと予想されているCBD市場。今後も目が離せそうにない。

(Text and photos by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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