日本酒も納豆もNY産!地球の裏側で進む食のジャパニフィケーション

アメリカ人が「麺をすする」ことができるようになったのはここ10~15年のこと。(写真:アフロ)

ニューヨークはここ10年ほど、ジャパニフィケーション(Japanification=日本化)がますます進んでいる。

生活に密接しているものでは、ユニクロやダイソー、コスメ専門店など日本の小売業や日本食が勢いがあるが、中でも飲食業界は特に顕著だ。

最近オープンした奇跡のパンケーキ「Flipper’s」から、安定の人気を誇る一風堂、一蘭、大戸屋、田舎家、牛角、つるとんたん、銀座おのでら、さらには一保堂茶舗、いきなりステーキ、屯ちんなど、日本から有名店が続々と進出。

寿司屋やラーメン屋はそこかしこにあるし、居酒屋、焼肉、しゃぶしゃぶ、蕎麦、うどん、おにぎり、カレー、すき焼き、お好み焼き、たこ焼き、鯛焼き、かき氷と、より細分化されている。

東京豚骨「屯ちん」のラーメン。チップ込みで22ドル以上するがNYで大人気。(c) Kasumi Abe
東京豚骨「屯ちん」のラーメン。チップ込みで22ドル以上するがNYで大人気。(c) Kasumi Abe

これらの懐かしい味覚は、在留邦人たちにホームシックにかかる隙を与えない。生まれ故郷の馴染みのものを食べたい欲求を、この街は容易に叶えてくれる。

新しもの好きのニューヨーカーは日本食をおしゃれなジャンルと捉えている。日本を旅したことがある人なら、それらに舌鼓を打ちながら懐かしく思い出すことだろう。

「獺祭」の新酒蔵がニューヨークにオープン予定

おしゃれなアルコールとして、すっかりニューヨーカーの生活に入り込んでいるのは、日本酒もそう。

10月3日、日本酒「獺祭」のパーティーがマンハッタンで開催された。

日本酒「獺祭」のパーティー(旭酒造)。(c) Kasumi Abe
日本酒「獺祭」のパーティー(旭酒造)。(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe

この日は獺祭の蔵元である旭酒造が、2020年冬にニューヨーク州のハイドパークという町に新たに酒蔵(醸造所)を設置し、「Dassai Blue」という新しい日本酒を作るという新規事業計画が、当地の日本酒ファンに発表された。

旭酒造の桜井社長。(c) Kasumi Abe
旭酒造の桜井社長。(c) Kasumi Abe

「Dassai Blue」は、南部アーカンソー州で栽培された山田錦の米と、ニューヨーク水を使って作られる。「インディゴより青いもの=オリジナルの獺祭を越えるものを作るという願いを込めて名付けました。この土地や食文化に合った最高の日本酒になります」と、旭酒造の桜井一宏社長。

手作り納豆やNY初の酒蔵も

日本の伝統的なものが、現地で採れた素材を使って現地の人の手によって作られ、現地の人によって消費される。

旭酒造がチャレンジしようとしていることは、ニューヨークにおける食のジャパニフィケーションの潮流だ。

日本酒や納豆も、今やニューヨークで作られている。

2018年1月には、ニューヨーク・ブルックリン地区に、市内初の酒蔵「Brooklyn Kura」(ブルックリン・クラ)がオープンし、人々を驚かせた。酒バーを備えたテイスティングルームは、いつも現地のお客さんで賑わいを見せる。

Brooklyn Kuraのブライアン・ポレン氏と、生化学者のブランドン・ドーン氏がここでクラフト酒を作っている。(c) Kasumi Abe
Brooklyn Kuraのブライアン・ポレン氏と、生化学者のブランドン・ドーン氏がここでクラフト酒を作っている。(c) Kasumi Abe

友人に招待された日本での結婚式でたまたま出会ったアメリカ人の2人の若者は、そこで日本酒のおいしさに目覚め、自ら日本酒造りをするまでになった。発酵からボトル詰めまで、すべての工程をブルックリンの酒蔵で行なっている。

彼らが作るのは純米吟醸生原酒がメインで、程よいドライさと甘さが混じり合い、「この味がアメリカで実現できるとは」と驚くほどの出来栄えだ。

旭酒造の桜井氏(左)とBrooklyn Kuraのドーン氏(右から2人目)。「一緒に協力して日本酒を盛り上げましょう」と、先述の獺祭パーティーで語り合った。(c) Kasumi Abe
旭酒造の桜井氏(左)とBrooklyn Kuraのドーン氏(右から2人目)。「一緒に協力して日本酒を盛り上げましょう」と、先述の獺祭パーティーで語り合った。(c) Kasumi Abe

また新鮮な納豆も、同じくブルックリン地区で手作りされている。

フィラデルフィア出身の日系2世、アン・ヨネタニ氏がNYrture New York Natto (ヌーチャー・ ニューヨーク納豆)を創業したのは、2016年のこと。彼女も以前は微生物学が専門の化学者だった。

日本人の両親の影響でもともと納豆が大好きだったが、当地に新鮮で美味しいものがないため「自分で作ってみよう」と思ったのが、納豆作りのきっかけになった。

NYrture New York Natto のヨネタニ氏。(c) Kasumi Abe
NYrture New York Natto のヨネタニ氏。(c) Kasumi Abe

原材料の豆は、ノースダコタ州産の遺伝子組み換えでないものを使っているそうだ。

食べてみると市販品と全く別物であることがわかる。当地の日系スーパーなどで販売されている納豆は冷凍保存の状態で空輸されてきたものなので、ヌーチャー・ ニューヨークの納豆の方が美味しいのはもちろんのこと、香りや噛みごたえ、粘り、そして栄養価において市販品とはまったく異なる。

ヨネタニ氏が作っている4種類の納豆。顧客の90%がアメリカに住む非日本人。(c) Kasumi Abe
ヨネタニ氏が作っている4種類の納豆。顧客の90%がアメリカに住む非日本人。(c) Kasumi Abe

このように「ないものがない」ほど日本食が浸透しているニューヨークの飲食事情。足りないものを考えてみたが、あえて言うとすれば日本の地方料理ぐらいか。博多料理(もつ鍋、豚足)や京都のおばんざいはあるが、秋田のしょっつる鍋や北海道のジンギスカン、広島風お好み焼きなどの郷土料理店は、まだ聞いたことがない。

それらの分野にまだ海外開拓のチャンスがあるのは確かだろう。上陸でもした日には「こんな日本食初めて!」と、ニューヨーカーの話題になること必至だ。

(Text and photos by Kasumi Abe) 無断転載禁止