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少子化問題は日本だけ、ではなかった。米国出生率の最新事情

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
女性と子どものイメージ写真(写真:ロイター/アフロ)

ひと昔前までは、友人のお母さんや知人の女性が40歳で妊娠、出産したと聞くと、「高齢でよくがんばったね〜」と、話に花が咲いていたような気もするが、最近では特に珍しいことではなくなった。

アメリカでも40代くらいの女性が、大きなお腹を抱えて歩いているのをたまに見かける。特にハリウッド界では45歳以上の「超」がつく高齢出産ブームのようで、女優のレイチェル・ワイズのように48歳で2人目を出産したり、50歳で初産をしたジャネット・ジャクソンなんかもいる。日本でも、華原朋美さんの44歳で初妊娠というのが、最近話題になったばかり。

そんななか、アメリカの若者の出生率にかんしては、実は下がっているようだ。5月15日付けの『ニューヨークポスト』紙は、2018年の出生率は史上最低値を記録したことを政府報告書が示したと報じた。アメリカ国内の10〜20代女性の出生率は、1986年以来32年間で最低値となったようだ。

この暫定報告書は、昨年の国内の出生記録の99%以上、378万8,000件のお産に基づくもので、出生率低下は4年連続で加速している。

アメリカ女性1人が生涯で産む子どもの数は1.7人で、その前年よりさらに2%も減少している。日本は1.43人(2017年)だから、日本よりやや高いものの、両国とも2人に達していないのだから、先進国の中でも両国は出生率の低さでは互角といったところか。

出生率低下の要因について、女性が出産の時期を先送りしているのか、もしくは将来にわたって出産事態の意欲がないのか、理由についてははっきりとわかっていない。

米政府機関の疾病管理予防センター(The Centers for Disease Control and Prevention :CDC)が発表した報告書でも、以下のデータが示された。

  • アメリカ女性15〜44歳までの出生率は、1000人の女性に対して59人で、2017年より2%低下し、最低水準
  • 特に10代の若者の出産数が史上最低値を記録。15〜19歳までの女性の出産数は179,607人で、前年より8%減
  • 37週未満の早産の割合は、4年連続で9.9%から10%強に上昇

この減少率は今後人口を保っていくためには足りない数という見方が専門家よりされている。この現象が今後も続けば、米国の50代半ばから70代前半のベビーブーマー世代(第二次世界大戦終結直後に誕生した世代。復員兵の帰還により出生率が上昇した)の老齢化を支える若者の数が足りなくなる可能性は高くなる。

同紙は、ニューハンプシャー大学キャシー公共政策大学院の人口統計学者、ケネス・M・ジョンソン教授のコメントとして、「過去10年で本来なら今より570万人多くの誕生があってもおかしくなかったはず」としながら、「出生率が低くなったと言っても、出産年齢が高まっている事実もあるのだから、若い女性はそのうち子どもを産むだろう」と、明るい見通しを示している。実際に2018年の報告書では、30代後半や40代前半の女性の出生率がやや上昇していることも示されている。

サウスカロライナ大学の人口統計学者、キャロライン・ステン・ハートネット教授は、「ほかの先進国でも出生率低下は問題となっている。一方アメリカはほかの先進国と比べ、結婚するのが比較的早い方だし、出生率も先進国の中でまだ高い方だ」と見解を述べた。

若くして子どもが欲しい気持ちがあるのに持たないのは、「経済的不安定が要因だ」と分析するのは、オハイオ州ボウリンググリーン州立大学で家族に関する研究をしているカレン・ベンジャミン・グッツォ教授。同教授は、「育児休暇を取りやすい環境の整備、(幼稚園や保育園など)就学前に通える教育現場の拡大、育児補助金、大学の学生ローンや住宅ローン返済の支援など、社会全体でサポートすることが少子化対策になる」と説いた。

ニューヨーク州の北部、カナダとの国境にほど近いウェブスター地区に住む39歳の女性は、歯科衛生士として安定したキャリアがあるにもかかわらず、子どもを持ちたくても持てずにいるのは「今の給料では、子どもがいたとしても養育費などを捻出できずに、快適な暮らしができなくなるから」とコメント。

ニューヨークでの出生率の高低は、人種や民族間によっても違いがあるように感じる。あくまでも私個人の感覚的な話になるが、中南米出身のヒスパニック系の移民や正統派ユダヤ系の人々は子どもが4〜5人以上と子沢山な印象だ。

ちなみに今回の報告書のアメリカでの少子化は本土に限っての現象で、ハワイや太平洋諸国の島々では出生率は安定しているそうだ。(伸び伸びした環境だからか?)

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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